CORISM+リセバ総研:クルマ業界で話題のNHKスペシャル「インサイド・トヨタ」の感想を語り尽くす
自動車業界で日々生まれる様々なトピックスについて、リセバ総研の“ご意見番”であり日本カー・オブ・ザ・イヤーの運営にも関わっている自動車webサイトCORISM編集長の大岡智彦と、リセバ総研所長の床尾一法の二人が本音で語り合う「クルマ放談」。今回は、いつもはこの対談のライティングを担当しているリセバ総研のライター・井口裕右も加わり、2026年7月19日にNHK総合テレビで放送されたドキュメンタリー番組「NHKスペシャル インサイド・トヨタ」を題材に、3人それぞれの立場から番組の感想を語り合いました。自動車業界でも大きな話題となったこの番組に、3人はどのような印象を持ったのでしょうか?
自動車情報メディア「CORISM」編集長
リセールバリュー総合研究所 管理運営者
ライター
当記事における発言内容は、床尾一法、大岡智彦、井口裕右の個人的な主観・考察によって構成されています。公式の見解ではございませんのでご注意ください。
目次
大岡氏の感想は「トヨタイムズNHK版」?
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リセバ総研所長 床尾一法
今回はいつもと少し趣向を変えて、先日放送された「NHKスペシャル インサイド・トヨタ」を題材に、3人でざっくばらんに感想を語り合いたいと思います。年間1000万台、売上高50兆円という世界一の自動車メーカーの、次期カローラの開発現場に密着した50分でした。まず大岡さん、全体を通してどんなご感想をお持ちでしたか?
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【自動車のプロ】大岡智彦
いや、NHKがトヨタのCMをやるんだな、っていう(笑)
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リセバ総研所長 床尾一法
えぇ?またそんなぁ。
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【自動車のプロ】大岡智彦
まあ、実際に「トヨタイムズNHK版」って感じだったよね。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
NHKがここまでひとつの企業をしっかりフィーチャーしてドキュメンタリーを作るのは珍しいですよね。
(この番組の)約1週間前に放送された、マツダのロードスター開発秘話を取り上げた「新プロジェクトX」では、スタジオパートでは(NHKの慣例通りに)「広島の自動車メーカー」といった言い方で社名を伏せていました。
ドキュメンタリー本編映像のなかではきちんと「マツダ」の名前が出ていましたが。
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リセバ総研所長 床尾一法
NHKも近年ずいぶん変わってきた印象があります(個人の感想)。
大岡さん、番組の趣旨や内容も含めて、映し出されていたものに対する率直なご感想はいかがでした?
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【自動車のプロ】大岡智彦
結局のところ、「NHKとトヨタがもう一回仲良くやりたいよね」という流れの中で作った番組なんじゃないか?という印象をものすごく受けたんですよ(※大岡氏の主観による意見です)。
で、中身としては「中国のEVに対して危機感を持っています」というのがまず大きなテーマとして掲げられていて。
じゃあ何に危機感を抱いているのかというと「やっぱりコストだよね」という。ドキュメンタリーの冒頭からコストという言葉が出ていたし、儲かるのか儲からないのかみたいな話もしていた。中国勢に対するコスト競争力をかなり意識しているというのが、強烈に印象に残りましたね。
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リセバ総研所長 床尾一法
その「中国」「コスト」というキーワードについては、私はどちらかというとNHK側が番組に盛り込みたかったキーワードなのかなとも個人的に受け取ったんですけどね。ただの感想ですが。
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【自動車のプロ】大岡智彦
NHKがというよりも、かなりトヨタ寄りの番組だという印象があるので、「巨大企業なんだけど、それに打ち勝とうとしている相手がいる」という見せ方なんじゃないかな。
こんなに大きな会社なのに、「危機感を持って一生懸命やっていますよ」という企業PRっぽさはすごく感じました。
あとは、番組の中でエンジニアが「トヨタがこけたら全部終わる」という言い方をしていたよね。トヨタ以外の日本メーカーはもうライバルだと思っていない。中国メーカーしか見ていないんだろうなという気はしました。
トヨタの内情を赤裸々に記録する番組作りの狙いとは?
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リセバ総研所長 床尾一法
今このタイミングでトヨタの内情に密着した番組が放映されたのは、大岡さん的にはどうお考えですか?
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【自動車のプロ】大岡智彦
どうなんだろうね。
正直ピンとこないんだけど、たとえばホンダがEV戦略を縮小して、中国で生産したクルマを日本に持ってくるという流れがある。おそらくホンダはコスト競争力を求めてそうしているわけでしょう。
そこに対して、トヨタは自分たちで対中国をちゃんとやっていますよ、というメッセージにも見えるという感じかな。
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リセバ総研所長 床尾一法
徹底して、(大岡氏的には)トヨタの宣伝番組として捉えていらっしゃるということですね(笑)
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【自動車のプロ】大岡智彦
恐らくNHKだって、トヨタとはこれまでいろいろあったかもしれませんしね。
よくトヨタとメディアが揉めるパターンって、必ず「俺たちの内情も知らないくせに、文句ばかり言いやがって」という話なんだと思うんだよね。
営業利益8割減とか、赤字決算とか、EVで出遅れとか、そういう文字が躍ると、豊田章男さんが本気で怒る。
「あいつら俺たちのことを何もわかっちゃいない」と言ってクレームが入るケースを見ていると、内情を赤裸々に伝えることで「メディアが言っているほどじゃなくて、俺たちはもっとちゃんとやってるんだぜ」というメッセージにも聞こえるよね。
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リセバ総研所長 床尾一法
そのトヨタの姿を捉えた番組だと?
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【自動車のプロ】大岡智彦
いやいや、逆。
「トヨタさん、こういう番組を作ったら伝わりますよね、そろそろ手打ちにしませんか」という提案に見える。取材しようと思っても「トヨタからNGが出る」みたいなことは実際にあるわけだから。
そういうのを避けたい狙いがあって「トヨタイムズNHK版」を作って手打ちにしましょう、という感じはあったんじゃないかとは思いますけどね。
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リセバ総研所長 床尾一法
クルマ業界人の立場から見ると、いろんな見方があるんですね・・・
私はもうピュアに、ドキュメンタリ―番組として感動しました。
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【自動車のプロ】大岡智彦
いや、それはそれで素直でいいことだと思いますよ。
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リセバ総研所長 床尾一法
井口さんは、この番組をどう捉えましたか?
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【クルマ大好きライター】井口裕右
NHKとしては、やっぱり視聴率が取れる映像が撮れれば、それは当然受信料収入にもつながっていく。
そういう意味では、絶対に他局にはできないドキュメンタリーが作れるというところが魅力的だったのかなと。
一方でトヨタとしては、世界一の自動車メーカーゆえのバッシングもあるわけで、業界内でも「トヨタさんだからできて当たり前だよね」「潤沢な資金力といい商品と営業力があれば、他は太刀打ちできないよね」という見方がある。
そんな中で、実はトヨタ自身もすごく危機感を持ってやっているんだというところを、業界内にもちゃんと知らせておきたかったのかなという気はしますね。
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リセバ総研所長 床尾一法
3人とも別々の視点なんですが、共通しているのは、いろいろな側面から見たトヨタという会社の強さと強大さが前面に出た番組だった、というところですね。
私は純粋にドキュメンタリーとしてトヨタの強さを感じ、大岡さんはトヨタのメディアに対するアレルギーを解消するタイミングだったと見て、井口さんはNHKとして質の高いドキュメンタリーで視聴者の心を掴みたかったのだろうと見る。
いい感じでまとまりました。
なぜ番組の主役は「カローラ」だったのか?
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リセバ総研所長 床尾一法
ここからは中身に入っていきます。
私も含めて昭和生まれの世代にとって、カローラという名前は基本的にブランドイメージが刷り込まれていて、派生車種の2ドア(AE86で有名なカローラレビン)を除けば、私にとってはもう“普通のご家庭のお父さんが乗るファミリーカー”というイメージです。
ただ、私が学生の頃(1980年代後半から1990年代)にはバブルの影響もあって、すでにマークIIあたりにファミリーカーの主役の座を奪われつつあった印象です、コロナをすっとばして。
そういったブランドイメージや変遷の歴史も踏まえて、なぜ今カローラに主軸のテーマを与えて、プラットフォームを刷新するような本気の開発をしているのか。大岡さんの考えを聞かせてもらえますか?

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【自動車のプロ】大岡智彦
やっぱりグローバルモデルだということが重要なんじゃないかな。
カローラって昔から派生モデルがいろいろあったじゃない。今もカローラクロスやカローラスポーツがある。
これからもきっと増えていくんだろうし、小型車系の基幹車種になると考えたら、しっかりアピールしておこう、と。
これもカローラの宣伝の一つだよね・・・というものは感じますね。
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リセバ総研所長 床尾一法
カローラはシリーズ全体で見れば相当な生産台数になりますからね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
しかも僕らの世代から言うと、カローラって「おじいちゃんのクルマ」というイメージもあった。
ずいぶん前の話だけど、オーナーの平均年齢が70歳を超えているとか、そんな状態だった時期もあってね。
クルマとユーザーが一緒に高齢化していくような状況だったのが、カローラクロスやカローラスポーツが出てきて一気に若返った。だから相当、カローラというクルマで国内も含めた世界戦略をやっていきたいんだろうなという意図は感じます。
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リセバ総研所長 床尾一法
視聴して感じたのは、プラットフォームの刷新というタイミングよりも、カローラという固有名詞が主語として立ちすぎた開発だな、という印象です。
悪い意味ではなく。プラットフォームありきというよりは、最初にカローラという名前を守る前提があるという受け取り方をしてしまったんですけど、トヨタにとってカローラという名前はやっぱり大切なアイデンティティなんですかね?
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【自動車のプロ】大岡智彦
カローラは1966年のデビューで、今年でちょうど60周年でしょう。
そこまで長く続けているのはトヨタくらいじゃないかな。
伝統を守っていくという意味では、結構一生懸命なんじゃないかと思いますよ。すぐに車名を変えてしまう(車種を継続しない)会社に比べたら、真面目というか、自社の歴史を積み重ねていこうとする姿勢はすごく評価できる気がしますけどね。
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リセバ総研所長 床尾一法
井口さんはどうです?
ライターという職種の方から見て、カローラという名前と、それを主題とした番組作りについては。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
クラウンもそうだし、カローラもそうだし、去年のモビリティショーで出てきたセンチュリーもそうですけど、トヨタの社風として「伝統を守る」というものがあるのかなと。
この「伝統」はただ人気車種だったというものではなく(エスティマやセルシオなど消えていった人気車種もたくさんあるので)、トヨタ自動車の歴史のなかで礎になっている「伝統」という意味です。
ただ、その伝統を守るというのが保守的になることではなくて、「伝統を守る=挑戦し続けること」なんだというアイデンティティがちゃんとあるように感じました。
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リセバ総研所長 床尾一法
車名の歴史を背負いつつ次のステージへ、ということでしょうかね。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
多分これの背景には、トヨタが守りに入りすぎて一度失敗している経験があるんだと思うんですよね。
豊田章男さんが社長になる直前、本当に家電みたいな保守的なクルマを作り続けた結果、番組の映像の中でも触れられていましたけど、顧客にとっては「売れているけれどつまらない」というクルマが溢れてしまった。
その反省をすごく生かしているんじゃないかなという気はします。
キープコンセプトでカローラを作り続ければ、古くからのお客さんは買ってくれるのでクルマ自体は売れると思うんですが、それって結局、日本の人口比率に比例して販売台数が落ちていくという話になるので。
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リセバ総研所長 床尾一法
サニーにファミリアにランサー、一時代を築いたのに消えていったオールドブランドは多々あります。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
(同じ長寿モデルの)ホンダ シビックも一部の人には受けていますけど、やっぱり昔からのイメージを引きずり続けている。
それでは生き残れないという判断をトヨタはしているんじゃないかなと。
ただ一方で、カローラもクラウンもセンチュリーも、多くの人が人が知っているブランドなので、そのブランド力はちゃんと活かしていきたいという意図はあるんじゃないでしょうか。
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リセバ総研所長 床尾一法
お二人の話を聞いて、リセバ総研所長として改めて思ったのは、トヨタは他のメーカーと違って、革新的な技術とかクルマとしての次への進化を古くからある車名に継承させるんですよね。
クラウンだってそうです。他のメーカーは新技術や新プラットフォームになった瞬間、新しい世代の新しいイメージの新しい名前をつけようとするのに。
今回のカローラも、開発エンジニアの話を聞いていると、これまでとまったく違う役割をカローラに担わせたいという開発をしているように感じました。
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【自動車のプロ】大岡智彦
言い方は悪いけど、初代ホンダ インサイトと今のインサイトなんて、デザインもボディサイズも、まったく違うクルマになっているじゃない。
あのあたりを含めると、新しい商標を取るのが面倒くさいだけなんじゃないか、という感じにしか見えないけどね(笑)
ただ、どっちにしても、歴史の深さや重さっていうのは日本人は好きだしね。そういうものをちゃんと守っていこうとするのは、リスペクトしちゃいます。
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リセバ総研所長 床尾一法
輸入車の世界だと、フォルクスワーゲンは世代が変わり続けても「ゴルフ」という名前を守り続けていますよね。
強いて言えばそこが共通点かなとも思うんですが、ドイツ車がゴルフとしてアイデンティティを守り続けて、カローラが(過去と全く違うクルマになっても)名前を継承し続けているという印象ですが。
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【自動車のプロ】大岡智彦
トヨタの場合は、名前は継承するけどクルマが違う。
ゴルフはどこかに歴代ゴルフのデザイン的なアイコンみたいなものが残っている。
「ゴルフはこうじゃなきゃいけない」という、自ら縛りをつけているのかもしれないけれど、そういうものを狙って作っている感じがすごくする。
ゴルフのデザインって、質実剛健。エモーショナルさはないけれど、10年経ってもあまり古くみえない。そういうデザインを徹底して追求していて、デザインよりも機能性、使いやすさというところも徹底している。そのあたりが結構違うのかなという気はする。
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リセバ総研所長 床尾一法
そのアイデンティティを縛る苦しさって、ゴルフにもあるんでしょうかね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
あるんじゃないですかね。
「それは時代に合ってないだろ」というのは、きっとあると思う。
あと日本車の場合、名前は残るけれど、その車名に対するリスペクトというのはあまり感じない。アイデンティティ縛りはないけど、まったく違うものに生まれ変わるというか。まったく違う新しさのアピールで、売れてきた経緯もあると思う。
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リセバ総研所長 床尾一法
そこは私も番組を通して思ったところで、実はエンジニアの方々のお話がしっくりこなかったんですよ。
「革新的な次のステージ」というのは理解できるんですけど、語られていることに共感しづらかった。なんでカローラである必要があるんだろう、と。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
これはトヨタに限らず、日本のクルマ作りがそうなのかもしれないですよね。
デザインを継承して保守的に作る場合もあるけれど、だいたいは名前を後から載せるだけで、まったく新しいクルマを作る。
今回のカローラも、カローラらしさを追求しているわけじゃなくて、あくまで新しいクルマを作っている、という話ですから。
ドイツ車とは全然違う。BMWだって「3シリーズたるものはこうあるべき」という哲学があった上で作っていると思いますし。
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リセバ総研所長 床尾一法
トヨタは「最良のクルマとは何か」という作りをして、欧州勢は「俺たちが考えるクルマとは何か」を突き詰めている。そんな違いを感じますね。私は日本車好きなので偉そうなことは言えませんが。
もうひとつ感じたのは、(当たり前ですが)サラリーマンらしさも感じました。共通プラットフォームをできるだけ長く、安く作るために頑張れよ、という命令を忠実にどう実現するかという姿勢。
カローラに対する熱さというよりは、「共通プラットフォームをちゃんと完成させる」というゴールに向かっていて、そのスタートがたまたまカローラだった、という印象です。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
今までトヨタのクルマ作りで注目されてきたのって、主にGR系のスポーツカーが中心だと思うんです。
GR系のクルマは台数が売れなくてもいいから、とにかくパフォーマンスや満足度を追求しようという文脈でストーリーが語られてきた。
一方で、トヨタとしては年間何百万台を売るための、要は稼げるクルマを作らなきゃいけない。そこのシーンって、実はあまり表に出てきたことがなかったと思うんですよね。
GR系は夢と希望を語ってそれを追求するクルマ開発だけど、こっちは本当に足元でどうやって自分たちが稼ぐのかを徹底的に考えているんだろうな、というのは感じましたね。
「トヨタがこけたら日本は終わる」発言の真意とは?
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リセバ総研所長 床尾一法
番組の中で「トヨタがこけたら日本は終わる」というエンジニアの発言があって、ネットではここの部分だけが切り取られて、反感を抱いた人たちもいるようです。
私としては、この方が話している前後の文脈を踏まえたら、別に間違ったことは言っていないし、ご本人も「おごってはいけない」とおっしゃっている。
大岡さんは、この発言をどう受け止められましたか?
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【自動車のプロ】大岡智彦
やっぱり豊田章男さんが言っているような「オールジャパンぐらいでやっていかないとダメだよ」という考え方が、現場の人たちにもすごく浸透しているんだなと。
だからこそ、リーダー役のトヨタがこけたら本当に終わっちゃうよね、というところかなという気がします。
マツダもスズキもスバルも、いいものは積極的にみんなで使っていこうねという方向に動いていて、部品の共有も進んでいますから。みんなで協力して、世界と戦おうというメッセージはよくわかる。
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リセバ総研所長 床尾一法
井口さんはメディア視点でこの発言をどう感じました?
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【クルマ大好きライター】井口裕右
僕も大岡さんと同じ印象で、トヨタも日産もホンダも、日本国内という小さいマーケットでバチバチ争っている場合じゃないよね、というメッセージなんだと思うんですよね。
トヨタが他社を支援しますと言うと、世の中的には「他社と組んでもっと儲けようとしているの?」とか「資金力があるから痛くも痒くもないよね」という印象を持たれがちだけれど、多分そうではなくて。
世界と戦うためには日本の自動車メーカーがもっとゆるく繋がっていかないといけないよね、と。豊田章男さんの言葉を借りるなら「みんなでもっといいクルマ作りをしないと世界に勝てないよね」ということを伝えたいんじゃないかなと。
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【自動車のプロ】大岡智彦
昔のトヨタの経営陣が、赤字を出したときに何と言ったかというと「納税できなくてすみません」だからね。
そんなことを言える経営者って、なかなかいないでしょう。
それくらい、東海地方だけじゃなくて日本の経済を動かしているのは我々で、納税した金額が愛知県を潤して、それが波及的に全国に行っているんだ、という認識がすごく高いんだろうなと思います。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
この発言を踏まえると、巷では日産から新型エルグランドが出て「アルファード/ヴェルファイア対エルグランド」なんて言われていますけど、トヨタとしては・・・。
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【自動車のプロ】大岡智彦
まったく気にしていないんじゃないかな。
とはいえ、足もとは揺らがないようにエルグランド発売前にアルファードの改良や安価なPHEVを投入したりしているけど。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
そう、そんな勝負をしている場合じゃない、もっと大きな脅威が大陸からやってくるんだよ、と。
多分そういう危機感を持っているんじゃないかなという気がしましたね。
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リセバ総研所長 床尾一法
むしろ日産が這い上がってくるのを待っているぐらいの勢いかもしれませんね。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
市場を盛り上げるために一緒に何かやろうよ、というスタンスかもしれないですよね。
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リセバ総研所長 床尾一法
ちなみに番組では、サプライヤーの方々を集めて他社のクルマを解体して見てもらう、という場面もありましたね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
あれはどこのメーカーでもやっているよ。
新しいクルマが出たらみんなでバラして、ああやって台の上に載せて見る。僕も何回か見せてもらったことがある。
サプライヤーは普段、自分たちが担当している部分しか見ていないでしょう。他社のクルマの細かい部分まで見せることで、こんな部品を使っているのか、こんな溶接の仕方をしているのか、という気づきが生まれる。それがレベルアップにつながるというメリットがあるんじゃないかな。
豊田章男会長が自ら限界走行する“決裁”のリアル
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リセバ総研所長 床尾一法
番組では、トヨタのマスタードライバーも務める「モリゾウ」さん(豊田章男さん)が、クルマの乗り味を決定するテストドライブの場面が出てきます。
一般の消費者や外野からこの演出を見ていると、社長自らがハンドルを握ってクルマの最終決裁をしているのはいいな、と思うわけですが、大岡さんから見て、モリゾウさんの発言力や影響力の実像はどれくらいのものなんですか。
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【自動車のプロ】大岡智彦
もう戦国時代でいう殿だよね。
絶対君主。家来の忠誠心も凄い。
豊田章男さんが凄いのは「自分はこういう存在である」という、自身のキャラクターを演じきっているんですよ。
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リセバ総研所長 床尾一法
演じきっている、と。
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【自動車のプロ】大岡智彦
まず、自身が「カーガイ(Car Guy=無類のクルマ好き)」であること。
自身でレースに出たり、テストドライブしたりと、トップ自らが積極的にクルマに乗っているところを見せて「みんな(社員)クルマ好きか?」と、問いかけている。
ビジネス視点の会話だけでなく、トップと社員がクルマ好きという共通言語で話せる環境を作っているよね。「もっといいクルマをつくろう」というキャッチフレーズも、世界一の自動車メーカーに入ることが目的やゴールではなく、世界一の自動車メーカーで「もっといいクルマをつくろう」思想を持て! っていうメッセージだと思う。
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リセバ総研所長 床尾一法
番組の後半でも、ご本人から「誰に向けてクルマを作っているの?」という趣旨の発言がありましたもんね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
でも開発OKを出すのはモリゾウさんなので、みんな「モリゾウさんです」って心の中で思っていたりして(笑)
まぁそれはともかく、顧客のペルソナだけじゃない「何か」が欲しいのかもしれないね。
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リセバ総研所長 床尾一法
カーエンジニアリングという視点で見たときに、モリゾウさんが乗り味を決めるという判断の軸の確かさや判断力は、やっぱり信用できるものなんですか。
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【自動車のプロ】大岡智彦
そこは結構曖昧なんじゃないかな。
トップがそこまで細かくすべてのクルマを評価できるとは思えない。
ここぞという時にやるんじゃないかなという気はしますけどね。
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リセバ総研所長 床尾一法
ということは、モリゾウさん的には「このクルマ面白いね」ならOKで、ならなかったらダメ、という感じなのかもしれませんね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
そうそう。
「このクルマ面白いね」は、とても大事。興味をひかないクルマではダメってことだよね。
番組でアナリストが「従来、トヨタのクルマを80点主義だった。しかし、章男さんがトヨタ車をスポーティなものに変えました」と話していたけれど、そういうことなんだよね。
スポーティであることがすべてではないけど、 章男さんの求めるものが、やはり運転して楽しいということが重要なんだと思う。
最近は、GRブランドのクルマも含めて「トヨタのクルマは楽しいよね」というイメージが浸透してきた。もともと壊れないという高いクオリティに走る楽しさがプラスされたら、そりゃもう無敵でしょ。
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リセバ総研所長 床尾一法
番組の取材スタッフに対して「(映像を)編集するときに『これだ』と思う瞬間があるだろう、それと同じだよ」というやり取りがありました。
レシピがあるわけじゃなくて、感覚的にいいものを掴む、ということなんでしょうね。
「お客様って、誰よ?」——参加者たちが凍りついた最重要会議
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リセバ総研所長 床尾一法
さて、番組の後半ではカローラの開発を承認してもらうための最重要会議のシーンが出てきます。
豊田章男さんからは
「電動化と言うけれど、本当に電動化になるの?」
「本当に必要なものって誰がどう決めるの?」
「お客様って誰よ?」
と言った具合に、様々な問いが飛び出します。
私はここに結構感動したと同時に、(転職回数の多い私としては)どこの会社でもよくある社長会議とまったく同じことを言うんだなという親近感も持ちました。「誰が意思決定するの?」「お客様って?」っていう言葉は、どこの社長もおっしゃるので。
井口さん、この社長と開発現場のやり取りにどんな印象をもちましたか?
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【クルマ大好きライター】井口裕右
実は、この一連のやり取りの中で、章男さんは「自分の意見」を一切言っていないんですよね。
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リセバ総研所長 床尾一法
確かに。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
そこがトヨタの強い理由なのかなと。
自分では「答え」を言わない。
社員たちは「章男さんにいいねと言ってもらうために」試行錯誤を繰り返しているのであって、「章男さんが求めている答えは何だろう」はあまり考えていない。そういう意味では、章男さんは王様になりすぎていないんだなと僕は思ったんです。
この会話でも、章男さんは厳しい消費者を代表して意見を言っているだろうし、厳しい投資家を代表して言ってもいる。そういう視点で商品を見ているんじゃないかなという印象でした。
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リセバ総研所長 床尾一法
それで言うと、「経営者に聞くな、意思を持って君らで決めろ」と言いたいんだろうな、と思いました。
組織を作る側としてとして正しい。
大岡さんはいかがです?
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【自動車のプロ】大岡智彦
ああいうやり取りって、多分サラリーマンからすると「散々言われたけど、で、どうすりゃいいの?」という感じじゃないかな。
正直な話、原価の話なんて相当細かい資料を積み上げて出しているはずなんだけど、映像を見ていると、ざっくり見ている感じで、報告をしっかり読んでいる様子がないわけ。多分、興味がないんだろうなと。
「どうせ自分にOKと言わせるための数字を積み重ねてきているんだろう」という感じ。
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リセバ総研所長 床尾一法
「(世の中)電動化になるの?」と聞かれて、もごもごしながら「なりそうです」と答える場面もありました。
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【自動車のプロ】大岡智彦
そこは「なります」って言えよという話でね(笑)
もごもご言うからまた抽象的な話になっていく。だからエンジニアに対して「君が出したいメッセージって何なんだよ、君はどう思ってるんだよ」というのを引き出したいんじゃないかな。
それこそ、チーフエンジニアが「いや、僕が本当に乗りたいクルマなんです」ぐらいのことを言ったほうが、よしと言ってくれそうな。
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リセバ総研所長 床尾一法
私もそう感じました。ここは3人とも意見が同じですね。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
恐らく豊田章男さんが社員に求めているのは、もう2つだけなんですよね。
「いいクルマか、売れるクルマを持ってこい」と。
そのためのプロセスは俺は知らない、お前たちがやりたいようにやれ、と。
ただし、そこにはちゃんと責任を負え、という。多分そういう社風なのかもしれないですよね。
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リセバ総研所長 床尾一法
正直に言うと、そういう会社はいっぱいあると思うんですよ。私もいくつかの会社を渡り歩いてきたので。
逆に言うと、大企業の生き様を垣間見た気もします。自分の仕事を早く効率よく完結することをが最優先という印象があって。
決裁責任を負う経営者からすると、自分たちが自分たちの考えで判断して、そうしないと会社が回らない、いちいち経営者が口をはさんでらんない、という。これはどの会社でも経営者がおっしゃることなので、その通りだなと思って。
リセバ総研のテーマとは少し距離があるものの、(豊田章男さんは)意思を持ってクルマを作れとおっしゃっているような気がして、とても重要なポイントだなと思いました。
ソフトウェア主導の時代にクルマづくりのあるべき姿は?
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リセバ総研所長 床尾一法
番組では、車載ソフトウェアの開発競争についても触れられていました。
章男さん自身が、命を預けるものに対してはソフトウェア屋ではなくクルマ屋がソフトをやるべきだ、という趣旨のことをおっしゃっていました。「スマホと一緒にするな」という。
井口さん、このあたりの議論をどう受け止めました?
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【クルマ大好きライター】井口裕右
SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)という言葉で、ソフトウェアベースでクルマ開発が進んでいくんだという話が誤解されているところを直したいのかなと。
SDVの登場で、これからクルマを支配するのはソフトウェアであって、アップデートすればクルマ自体もバージョンアップして良くなるというイメージがどうしてもできてしまっている。
でも実際には、クルマのソフトウェアはエンジニアリングによって生まれた車体の上に成り立っているものなんだと。車体が良くなければ、いくらソフトウェアが良くなってもクルマは良くならないということを言いたいんじゃないかなと。
だから、クルマはクルマ屋がちゃんと作ったほうがいい、というところをアピールしたいんじゃないかという印象でした。
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リセバ総研所長 床尾一法
さすが井口さん、わかりやすい説明をありがとうございます。
大岡さんは、この領域についてはいかがですか?
ソフトウェア開発は、クルマ屋が主導権を握りにくい領域だと思うのですが。
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【自動車のプロ】大岡智彦
たとえばナビとか、YouTubeを見るとか、ああいう系統のものは、そういうことが得意な人たちがやればいい。
「餅は餅屋」です。
ただ、クルマを動かすためのベースとなる電子プラットフォームは自動車メーカーがやるべきだと思います。クルマのことは、クルマ屋がやるべきでしょう。
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リセバ総研所長 床尾一法
命を預かるということを、章男さんもおっしゃっていましたもんね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
命を預けるって、要はパソコンみたいにクルマがフリーズしたらどうするんだ、という話を分かりやすくしてくれてました。
クルマは、OSみたいにアップデートし日々進化するからいいよね的な発想は通じない。走行中に何かが動かなくなるのは、NG。
だから、搭載する半導体も、実は多くが信頼性の高い古い世代のものを使っている。走行中の故障は搭乗者の命に関わりますから。
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リセバ総研所長 床尾一法
私はテスラのように物理スイッチがないということに抵抗があります。
フェールセーフ(非常時に安全を確保するための手段を担保すること)の視点で、先進的であることイコール優れているという発想への違和感があって。
スペースXの宇宙船は操作インターフェースがタッチパネルであることが話題になりましたけど、宇宙に行くのにタッチパネルって・・・システムが誤作動したらどうするつもりなのかと思いました。
安全を確保する命綱となる機械的作用を捨てるということがどれだけリスクなのかは、もう少し世間に知られてもいいんじゃないかなと考えています。
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【自動車のプロ】大岡智彦
そういえば、番組ではソフトウェアプラットフォームの「Arene(アリーン)」の話が全然なかったよね。
この間、大々的にRAV4に載せたのに、どうするんだろうなと思いながら見ていたけどね。
「設計図、本日は受け取りを拒否します」——生産現場の発言の重み
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リセバ総研所長 床尾一法
続いて取り上げるのは、開発部門と生産部門で対峙した場面です。
ここのやり取りが、私にとってはすごく新鮮だったんですよ。
「設計図、本日は受け取りを拒否します」
「全部揃うまで、パーフェクトなものが来るまで受け取るつもりはありません」
と。「スポット溶接が増えるだけでどれだけ大変か、わかっているんですか」といった生産現場と開発現場のああいう緊迫したやり取りは見応えがありました。
大岡さんは、業界のジャーナリストとして長い経験の中で、あのシーンを見てどう感じられましたか。
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【自動車のプロ】大岡智彦
僕らが若い頃からずっと言われていたのは、「生産現場の人がダメと言ったらもう全然ダメ=開発は進められない」ということ。
ただ、それは章男さんの時代になってから徐々に改善されてきて、「いいクルマを作ろうと言っているのに何をやってるんだ」という感じになってきた。
カンパニー制という横割りの組織になって、徐々に一体化されて、一緒に考えられるようになってきたという話はよく聞いていたんですよ。それがだんだんトヨタのいいところに繋がっている、と。
でも今回の映像を見ていると、相変わらず(開発サイドと生産サイドの関係は)結構厳しいんだな、というのは思いましたね。
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リセバ総研所長 床尾一法
他社はどうなんでしょう?
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【自動車のプロ】大岡智彦
マツダやスバルのように、もう少し規模が小さいところだと、リソースの問題もあり開発部門と生産部門が一緒にやっているので、開発に対して生産側も寄り添ってくれたり、「これはこうしたほうがいいよ」と開発の途中で言ってくれたりするみたい。
うちは(開発と生産の対立が)あまりないですね、という会社と、結構ありますという会社、それぞれありますね。
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リセバ総研所長 床尾一法
私はサラリーマン経験のほうが長いので、あれを見て思ったのは、いい意味で組織で働く人々だな、ということでした。
守るべきものがたくさんある。
エンジニア側から見たら頭の固い頑固な人たちが強情を張っているように見えるかもしれませんが、生産現場と、物理的にクルマが作られることを守っている。
最後の関所役になって現実を模索する、すごく大事な役割の人たちなんだな、というのが僕の感想でした。
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【自動車のプロ】大岡智彦
生産現場は、たとえば型を作るのに、番組の中でも言っていたけれど、0.2ミリ違ったら違う型を組むんだよ、という世界でしょう。
だから「ちょっと変えました」じゃねえよ、というのが怒りの元凶だったりする。
中途半端な状態で頻繁に設計を変えられたら、この型を作るのに何千万円かかると思ってるんだ! みたいな感じなんじゃないかな。
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リセバ総研所長 床尾一法
そうですね。
あと、ラインで働く方々の人生が変わりますからね。労働時間も変わるし、プロセスも教育も全部変わってしまう。
あれって、私のようなディレクションや制作に関わる機会が多かった者からすると、営業現場と制作現場のやり取りそのままなんですよね。「やってくれよ、これでウン千万の契約だぞ」「絶対受注するから」と言われて、「いやできません」というやり取り。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
ただ、社運がかかったクルマでも、生産現場にそれを言わせる権限が与えられているのはやっぱり強いなと思いました。
例えばこれがブラック企業だったら、そんなことを言わせずに上から「いいからやれ」と押し付けることもあるでしょうし。
そうではなくて、あくまでクルマ作りの舞台は生産現場だから、生産現場の意見にもちゃんと耳を傾けた上で、お互いの限界を探っていく。そういうやり取りが行われているのは、さすがトヨタだなと思いましたね。
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リセバ総研所長 床尾一法
番組全編を通して私が一番好きだったシーンは、まさにあの「設計図、本日は受け取りを拒否します」という場面でした。
あのセリフの重さというか、要はあれって「今回のお話は聞かなかったことにしますね」ということだと捉えてます。
感情を最大限に制御した発言だと感じました、「この協議はなかったことにしておく」と。
自分の役割として守るべきものを守っている、あの判断の重さに感激してしまいました。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
あれって結局、生産現場から「こんな中途半端なものを持ってくるんじゃねえよ」というメッセージですよね。
後になって未決定のところが変わって、その結果、提出済みの図面のここが変わったのでもう一回お願いします、と絶対になるじゃないか、という話ですよね。
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リセバ総研所長 床尾一法
おっしゃる通りですね。
上下関係があるわけでもなく、ちゃんと並列に並んでお互いの意見をぶつけ合う。組織がフラットに見えて、偉い人への忖度の話じゃない。本当に現場と現場の戦いに見えて、素敵でしたね。
マルチパスのプラットフォームは、「80点主義」の再来か
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リセバ総研所長 床尾一法
最後に大岡さんに伺いたいのですが、今回のカローラのプラットフォームはBEVも含めたマルチパスウェイ対応ということでした。
直近の話で思い出したのは、マツダがエンジンもミッションもプラットフォームも一気に新規開発して、不具合で苦労した件なんですが、今回のカローラでトヨタにそういうリスクはなさそうですか?
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【自動車のプロ】大岡智彦
トヨタは石橋を叩いてもなお渡らない会社だから。
そのリスクは相当低いし、もともとそれがトヨタのクオリティ。
壊れないというのがトヨタのクオリティなので、そこは結構いいんじゃないかな。
レクサスのIS500に積まれているような特別なV8エンジンでも、社内規定通り。「もっとパワーは上がらないの?」と聞いたら、「社内の規定をちょっと削っていただければまだいけます」みたいな話が出てくる。それほど、壊れないことを重視している。
それが、ある意味、世界1位の自動車メーカーになった理由のひとつでもある。
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リセバ総研所長 床尾一法
そこが、日本の自動車メーカーたるところですね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
ただ、マルチパスウェイのプラットフォームを作るという話を聞いて、なんとなく僕が違和感を覚えたのは、それはまた80点主義なんじゃないの?ということ。
BEVはBEVで、ボンネットがあんなに長くなくていいよね、フロアがでこぼこしていなくていいよね、というのがBEVのメリットなんだけど、それを全部同じもので賄おうとする。
しかも、BEVだとガソリン車に対して100キロ、200キロすぐ重くなってしまう。そうすると衝突実験だって、最大の重さのものが衝突しても大丈夫だと担保しなきゃいけない。じゃあそれより200キロ軽いモデルはオーバークオリティじゃん、という話になってしまう。
そういうのはどうなんだろうな、というのは思いましたね。BEVはBEV用にやればいいのに、と思ったりもするんだけど、各社とも、それはなかなかできないような感じです。
こうした話と対極にあるのが、BYDのラッコ。
日本の軽規格向けに、BEV専用プラットフォームを新開発。このプランを改良して、コンパクトカーをグローバルで売るのかもしれないけど・・・。安価な車両価格を含め、コスト大丈夫? と、思ってしまうほどの脅威です。
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リセバ総研所長 床尾一法
確かに、そこの投資と判断は難しいところですね。
3人の総括:これはプロモーションか、それとも見事なドキュメンタリーか
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リセバ総研所長 床尾一法
それでは最後に、番組全体を通しての感想をお願いします。
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【自動車のプロ】大岡智彦
全体を見て思ったのは、この一部分を切り取っただけで「トヨタすげえな」と言うのは早計だということ。
ただ、さっき井口さんがおっしゃっていたように、BYDをはじめとする中国製に対して危機感を持って、大規模でも動いているというメッセージは、トヨタ側にしてみれば結構いいメッセージだったんじゃないかなという気がします。
その意味では、やっぱりプロモーション的ではあるとも感じました。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
僕は全編を通して、やっぱりトヨタでもこれだけ危機感を持っているんだな、というのが一番でした。
日本では中国EVについて「こんなクルマが日本に上陸しましたよ」という車種ベースの報じられ方はされているけれど、中国のEV市場が日本の自動車産業にどれだけ影響を与えるかは、あまり論じられていません。
でも、クルマ作りの現場ではそこまで危機感を抱いているのか、と。消費者の認識とトヨタとしての当事者意識の温度差みたいなものが、ものすごかったなというのは感じました。
ヨーロッパで中国のEVメーカーがどれくらい売れているかは、なかなかこちらに入ってこない情報でもあるので実感がないんですけれど、中国のEVメーカーはそれだけ世界で市場を作っているんだな、というのが、話から垣間見えてきましたね。
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リセバ総研所長 床尾一法
私は純粋に一視聴者として楽しめた、期待を持てたというところです。
単純にクルマ業界に対してワクワクできたので。
それともうひとつは、最後に結論めいたものがなく、ただトヨタという会社のある時間の流れを切り取ったという構成が見事だなと思っていて。
答えが提示されているわけでもなく、主張も結論もない。解決手段も見えないまま、現在進行系で進んでいますという臨場感があり、生活者として直ぐ側にある日々の現実を感じ取れました。ドキュメンタリーとして本当に見事な構成だと感じます。
というわけで、今回は3人でお送りしました。
大岡さん、井口さん、ありがとうございました!
