なぜ全モデル「e-POWER+e-4ORCE」なのか?開発者が答える 「エルグランド is Back!」日産 新型エルグランド発表会レポート

日産自動車は2026年7月16日、日産自動車グローバル本社にて高級ミニバン「新型エルグランド」の発表会を開催しました。2010年の登場から16年ぶりのフルモデルチェンジとなる新型エルグランドは、同日より全国の販売店で発売。会場には開発・企画に携わった日産のキーパーソンが登壇し、新しいブランドメッセージとともに、その狙いや細部の作り込みが語られました。

小さい頃からのクルマ好きで、大学生で免許を取ると貯めたバイト代で中古車をすぐに購入。以来、年間数万キロを走り回って無事故を維持していることを密かな誇りにしている。趣味は、ドライブ旅行とモータースポーツ。カメラを持ってサーキットに行くと流し撮りに命を懸ける。一般ドライバーの視点で、カーライフとリセールバリューの「これってどういうこと?」を紐解いていきます。

新ブランドメッセージ「らしく走れNISSAN」に込めた思い

発表会の冒頭に登壇したのは、日産自動車 執行役(日本マーケティング&セールス担当)の杉本 全さんです。杉本さんは、新型エルグランドの紹介に先立ち、これからの日産の思いを込めた新しいブランドメッセージ「らしく走れNISSAN」を発表しました。杉本さんによれば、日産は創業以来、「他社がやらないことをやる」という精神のもと挑戦を続けてきたといいます。GT-Rで究極の走る喜びを追求し、日産リーフでは電気自動車のモーター駆動による走りの楽しさを、そして独自のハイブリッド技術「e-POWER」ではその楽しさを多くの人へ届けることに挑んできた、という歩みが語られました。

 

もっとも、目指してきたのは「技術のための技術」ではないと杉本さんは強調します。技術を通してその先にあるお客様の喜びや感動、より豊かな体験を実現することが目的だ、という考え方です。車の選び方も暮らし方も人それぞれに異なり、人と同じ答えではなく自分らしくありたい——そうした価値観が広がるいまだからこそ、日産は日産らしく挑戦を続けていく、と述べました。

 

そして杉本さんは、この新しいブランドメッセージを体現するモデルとして新型エルグランドを紹介しました。約30年前、初代エルグランドはゆとりある室内空間や上質な乗り心地、堂々とした存在感によって「プレミアムミニバン」という新しい価値を切り開いた——その系譜を受け継ぐ新型では、単に人や荷物を運ぶための車ではなく、移動の時間そのものを豊かで心地よい、特別な時間にすることを目指したといいます。

 

その核となるのが、日産が磨いてきた電動化技術です。第3世代となった「e-POWER」と電動駆動4輪制御技術「e-4ORCE」によって、運転する人には思いどおりに操る楽しさを、後席でくつろぐ人には揺れの少ない快適な空間を提供する。杉本さんは、こうして実現した滑らかな移動体験こそ、新しいプレミアムミニバンの価値になると考えたと語りました。新型エルグランドを、これからの日産の成長を牽引する重要なモデルと位置づけているとしたうえで、それは販売台数だけを指すものではなく、お客様にどんな体験や価値を届けたいのか、その第一歩を示すモデルだと締めくくりました。

開発者が語る、新型エルグランド作り込みへのこだわり

続くトークセッションには、商品企画を担当するチーフプロダクトスペシャリストの中村智志さんと、開発を担当するチーフビークルエンジニアの一野健人さんが登壇。司会との質疑に答える形で、デザインから走り、室内空間まで、それぞれのこだわりが語られました。

コンセプトは「リミットレスグランドツアラー」

中村さんはまず、1997年に登場した初代エルグランドを振り返りました。当時のミニバンの多くが商用車をベースにしていたなか、初代エルグランドは乗用車のプラットフォームをベースにした新しいミニバンとして、プレミアムミニバンというカテゴリーそのものを生み出したパイオニアだったといいます。

 

4代目となる新型では、コンセプトを「リミットレスグランドツアラー」と紹介したと中村さん。グランドツアラーとは、長距離を快適に過ごせる車という意味です。500キロ、600キロ先まで家族や親しい友人とドライブに出かけても「もっと乗っていたい」と感じてもらえる——そんな車を目指したと説明しました。「歴代エルグランドの伝統と意志をしっかり引き継いだ、史上最高のエルグランドができました」(中村さん)。

デザイン ——「組子」に着想した顔と、直線的なサイドビュー

デザインについて中村さんは、すっと滑らかに走る様子を象徴する「リニアモーターカー」をテーマに掲げたと説明します。フラッグシップらしい堂々とした佇まいと融合させた、唯一無二の表現を狙ったといいます。とりわけ印象的なフロントグリルのパターンは、日本の伝統工芸である「組子(くみこ)」から着想したもの。フードからグリル、ヘッドランプへと連続する細やかなラインが、勢いがありながらも上質な表情を生んでいるとしました。

一野さんは、その細部へのこだわりを明かしました。グリルのドットは一つとして同じ大きさ・形がなく、面の傾きや角の丸みまでミリ単位で調整したといいます。最初は一つひとつ手作業で配置と形を決め、その後は3Dデータでさまざまな角度から確認しながら試行錯誤を重ねたそうです。「大きく迫力のある顔でありながら、ただ威圧するのではなく、静かで知的な威厳を感じさせることにこだわりました」(一野さん)。

 

サイドビューについても、中村さんは「リニアモーターカー」のイメージを最も色濃く映した部分だと語ります。直線的なラインで疾走感を出す一方、くの字に折れたリアエンドで「走り終えたあとの余韻」を表現。厚みのあるボディを軽やかに見せつつ、フラッグシップらしい重厚感も持たせたといいます。一野さんは、全幅を現行モデルから拡大した狙いを、スタンスの良さや安定感、堂々とした佇まいのためと説明。「単に大きく見せるのではなく、安心して乗れそう、遠くまで快適に行けそうと感じてもらうためのプロポーション」だと述べました。

ボディカラー —— 富士山の夜明けから生まれた新色

ボディカラーで特徴的なのが、ウエストラインで色を切り替える2トーンです。下側は、富士山に朝日が昇る夜明けの一瞬の自然美を映したという新色「FUJI DAWN(フジドーン)」。上側は紫がかった「至極(シゴク)」で、中村さんによれば、紫は古来、位の高い人が身につけてきた高貴な色であり、フラッグシップとしての気合と覚悟を込めたといいます。

 

一野さんは、この塗り分けが生産面では大きな挑戦だったと明かしました。ボディは一枚ものではなく、フロントフェンダーやドアなど複数の部品の集まりであり、分かれた部品をまたいで一直線に切り替えラインを通すのは非常に難しいとのこと。生産を担う九州工場の塗装ラインでは塗装工程を3回通す必要があるなど、手間をかけた仕上げになっていると説明しました。

運転席 ——「特別な車」と感じられる空間

運転席について一野さんは、誰でも運転しやすいことを第一に考えたといいます。アイポイントを高めて見晴らしを良くするだけでなく、ボンネットの見え方や死角の少なさなど、車両感覚のつかみやすさを重視。大きなミニバンでも不安を感じずに周囲を見渡せる環境を目指したそうです。インパネには国内モデルとして初となる14.3インチの大画面ディスプレイを採用。木目調のパネルは、木材に近い風合いと手触りを求めて、模様の凹凸まで工夫し実際の木の感触に近づけたといいます。「乗った瞬間に『これは特別な車だ』と感じられる、スタイリッシュとテクノロジーが調和した空間を目指しました」(一野さん)。

走り —— 3つの技術で「フラットな乗り味」を追求

新型が最も力を入れたポイントのひとつが走りです。中村さんは、コンセプトを実現するために3つの技術が必要だったと説明します。一点目は第3世代の「e-POWER」。エンジンは発電に専念し、走行は100%モーターが担う仕組みで、今回の第3世代では効率と静粛性がさらに高められたといいます。二点目は電子制御による4輪駆動技術「e-4ORCE」。中村さんは「単なる四駆ではなく、4輪を制御する技術」と表現し、カーブや雪道での安定に加え、加速・減速時に頭が揺さぶられるような動きを抑え、フラットで快適な乗り心地を生み出すと述べました。三点目が「インテリジェント ダイナミックサスペンション」で、電子制御によって路面に応じて瞬時に減衰力を変え、荒れた路面でもフラットに走らせるといいます。停止するまでの動きも制御し、いわゆる「カックン」としない滑らかな停まり方も特徴だと説明しました。

 

一野さんは、この3つの技術を組み合わせるのは日産として初めてで、現状エルグランドにのみ採用していると明かしました。旋回性と安定性を両立する4輪制御には、GT-Rで培った前後輪へのトルク配分のノウハウを活かしているといいます。また、走行シーンに合わせた6つのドライブモード(スタンダード、スポーツ、コンフォート、エコ、スノー、パーソナル)を用意。開発途中、コンフォートモードの出来が良すぎて「標準をやめてコンフォートを中心にしようか」という議論も出たものの、選択肢を残すため標準を残したというエピソードも披露されました。

ちなみに一野さんによれば、開発の最終確認として、厚木の日産テクニカルセンターから徳島まで約8時間かけて一気に走る長距離テストも実施したとのこと。走り切ったあとも疲労が少なく、参加メンバーからは「もっと遠くへ行きたい、もっと運転していたい」という声が上がったと振り返りました。

シート ——「移動そのものを楽しむためのラウンジシート」

後席シートについて一野さんは、柔らかいだけの快適さではないと強調します。カーブや段差、荒れた路面でも姿勢が崩れにくく、長距離でも体が疲れにくいことにこだわり、クッション材をミリ単位で調整したそうです。2列目は大人でも寝返りが打てるほどの幅を確保。背もたれの上部を倒せる機構を備え、目線を前に向けたまま本やモニター、タブレットなどをリラックスした姿勢で見られるといいます。中村さんは、手をどこに置くかは日々の過ごし方で変わるとして、固定式ではなく可倒式のアームレストを選んだと説明しました。

静粛性 —— 走行中も会話が弾む静けさ

静粛性についても、中村さんは「静かさは快適さに直結する」と述べ、走行中でもドライバーと2列目・3列目が普通に会話できる静けさを目指したと説明しました。一野さんによれば、新型エルグランドでは、ノイズキャンセリングヘッドホンに近い「アクティブ・ノイズ・コントロール」を採用。天井に配したマイクで車内の状況を検知し、キャンセル音をリアルタイムに制御します。さらに、人が座っている席を検知してその席にキャンセル音を集中させる仕組みを新たに取り入れたほか、高性能の遮音ガラスなども組み合わせることで、エンジン音に加え路面から伝わるノイズも抑えているといいます。

先行公開以降に寄せられたユーザーの疑問に答える

昨年のジャパンモビリティショーにおける先行公開から発売まで時間があったこともあり、発表後にはユーザーからさまざまな声が寄せられたといいます。中村さんによると、多く寄せられたのが「最近の車は乗員の快適性を重視するものが主流なのに、なぜエルグランドは走りにこだわるのか」という疑問。開発にあたって、高級ミニバンを所有する/購入意向のある多くの人の話やネット上の意見に耳を傾けるなかで、「ミニバンでも、もう少し運転する楽しさが欲しい」「やっぱりワクワクしたい」という声が数多くあったといい、その思いに応えたと説明しました。

 

一野さんには「なぜ全車がe-4ORCE(4WD)なのか」「そもそもe-4ORCEとは何か」という質問が多かったとのこと。e-4ORCEは前後のモーターを緻密に制御して車両の動きをコントロールする技術で、新型で届けたい走りと乗り心地の実現には欠かせなかったと述べました。1.5Lエンジンで発電し2つのモーターを使うことで、大きな車体を俊敏に走らせられる点も説明されました。

トークセッションの最後、中村さんは16年ぶりの新型エルグランド発表に「感無量」と語り、多くの開発者たちがこだわり抜いた「らしく走れるエルグランド」を体験してほしいと呼びかけました。一野さんも次のように締めくくりました。「開発チームの思いとこだわりが詰まった最高のエルグランド。従来のどのミニバンとも一線を画すプレミアムグランドツーリングミニバンです」(一野さん)。

開発に携わった日産社員による手書きのコメント。「The King is Back」というコメントが印象的でした。
発表会場には歴代エルグランドも展示されていました

まとめ

新型エルグランドは、2026年7月16日より発売。基準車の車両本体価格(税込)は「X e-4ORCE」が689万7,000円、「G e-4ORCE」が757万9,000円です。あわせて、日産モータースポーツ&カスタマイズ(NMC)が手がける「AUTECH」「AUTECH LINE」「VIP」「ステップタイプ」といったカスタムモデルも用意されます(「AUTECH」は8月上旬、そのほかは7月16日発売)。

今回の発表会では、電動化技術による走りと快適性の両立、そしてデザインや素材といった細部への作り込みが、繰り返し語られたのが印象的でした。高級ミニバン市場は長らくトヨタ「アルファード」が強い状況が続いてきましたが、16年ぶりに全面刷新されたエルグランドが市場にどう受け止められるのか、今後の販売動向が注目されます。