クルマ好きライター井口とリセバ総研所長が考える トランプ関税に揺れる世界経済と自動車業界〜はたして中古車市場にも影響はあるのか?〜

2025年1月20日、ドナルド・トランプ氏が第47代アメリカ大統領に就任し発足した第2次トランプ政権。その後に発出された数々の大統領令により、日本を含む世界各国に厳しい追加関税が課された一方で、最近では一部の国や地域に対して規制緩和の動きを見せるなど、世界経済は先行きが不透明な状況が続いています。そこで今回は、自動車市場への影響を中心に米国の関税措置についての動向をまとめながら、中古車市場への影響について考察していきます。

ライター

リセールバリュー総合研究所 管理運営者 兼 アナリスト
中古車情報誌の最大手での制作、自動車メディアの立ち上げ責任者などを経験。20年以上マーケティングのインハウスやコンサルタントで活動。2017年に人材開発へ転向。対話空間や学習空間の設計、言語化と構造化設計を得意とする。CompTIA CTT+ Classroom Trainer Certification取得。2023年より、マーケティングに復帰。中古車マーチャンダイジングの研究とともに、メディア運営設計を担っている。実は元カメラマン。
当記事は筆者の個人的な主観・考察による内容で構成されています。なお、米国関税措置の動向については2025年5月25日現在のものを参照しており、その後の政策変更などにより状況が大きく変動する場合があります。
目次
そもそも、「関税」ってなに?
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【クルマ大好きライター】井口裕右
最近の経済ニュースで見かけない日はないとも言えるワード「関税」。そもそもどのようなものなのでしょうか?
関税とは、ひとことで言うと「海外から輸入した商品に掛かる税金」を指します。
例えば、ある会社が1つ1000円の商品を輸入するとします。そこに「10%の関税」が掛かる場合には、輸入する会社は1つ1000円の商品を1000円で輸入した上で、その10%にあたる100円を国に納める必要があります。
合計で1100円が必要になるため、輸入した会社は関税分のコストを価格に上乗せ(転嫁)して販売するのが一般的です。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
では、関税は何のためにあるのでしょうか?
最も大きな目的が「国内産業の保護」です。
例えば(わかりやすく単純な例を挙げます)、国内の企業が1100円で作り販売していた商品があるとします。しかし、そこに輸入業者が同じ価値の商品を1000円で輸入し販売すると、100円安い輸入商品のほうが売れる可能性が高くなり、国内企業の商品は不利になります。
そこで国は、輸入される商品に相応の関税を掛けることで価格優位性を打ち消し、国内企業の商品が売れなくなるという状況を回避しようとするのです。ちなみに輸入関税は国の税収になるため、国の財源が潤うという副産物もあります。
「関税」に潜む盲点を考察してみた
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【クルマ大好きライター】井口裕右
一見すると、関税は国内の産業を保護するためのシステムとして優れているように見受けられますが、そこには大きな落とし穴もあります。それは「関税を掛ける対象」によって、国内の産業も打撃を受ける可能性があるということです。
ここでは、自動車を例にとってみましょう。
例えば、自動車メーカーが新車を1台作ろうとすると、膨大な量の材料や部品が必要になります。ボディを作るための素材としての鉄や銅、アルミニウム、カーボンなどの素材や電装品に必要な半導体や電子部品、ビスやネジなどの精密部品、バッテリーやタイヤ、ブレーキやトランスミッションなどは完成品を調達する場合もあります。
これらの部品が100%国内生産で賄えていれば、関税の心配はないでしょう。しかし、世界中から調達している部品や素材に関税が掛けられた場合には、国内企業も必要に応じて関税を支払う必要があり、そのコストはそのまま製品価格に上乗せする必要があります。
加えて、そもそも自動車の輸入に関税が掛けられていた場合、国内企業の商品でも海外の完成車工場で生産された「国産車」を国内に輸送して販売する際には「輸入」という扱いとなり、国内企業は関税を支払う必要があります。
余談ですが、5月23日時点のニュースでは、トランプ政権は国外生産のiPhoneを国内生産にすべくAppleに高額な関税を掛けると予告し圧力を掛けているようです。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
つまり、「何に関税を掛けるか」という国の判断次第では、国内企業の商品も値上げとなってしまい、結果的に国内の物価高騰と消費の低迷、経済成長の減速を招く可能性があるのです。
そして、自動車に関わらず、多くの企業は世界中の企業と連携しながら商品を作り、流通させています。日本の企業も、アメリカの企業も、世界中から素材や原材料、部品などを調達し、製品の生産拠点も世界中に展開しています。そうした中で過度な関税政策を推進することは、経済活動を混乱させる要因にもなリ得るのです。
いわゆる「トランプ関税」を巡るこれまでの動き
2025年1月20日の第2次トランプ政権発足直後から、米国内企業の保護と雇用の創出、貿易赤字の解消を経済政策の柱に据えて、世界の貿易相手国に関税措置を行っていくことを示唆したトランプ大統領。
4月2日には、すべての国から輸入されるすべての商品に10%のベースライン関税を課す(特定の商品には別途関税が掛けられる)ほか、貿易赤字額の大きい特定の国・地域についてはさらに相互関税(関税負担を相手国に合わせて公平にする)によって関税率を引き上げるという大統領令が署名され、EUは20%、日本は24%の関税率が適用されることに。
また特に貿易摩擦が激しかった中国に対しては、一時125%もの高い関税率が適用されましたが、その後に両国の合意で関税率は引き下げられています。
米国と各国との貿易で適用される関税は、ベースライン関税(すべての品目に適用される関税)だけでなく、個別の商品に対する追加関税もあります。自動車については、日本メーカーの場合これまで乗用車で2.5%、トラックで最大25%の関税が掛かっていましたが、2025年4月3日に発動した関税措置によってそれぞれに25%が上乗せに。これによって、乗用車は27.5%、トラックは最大50%の関税が適用されることになりました。
また、5月3日には米国に輸入される自動車部品に対する25%の追加関税も発動しましたが、これら自動車・自動車部品への追加関税はその大きさから国内外の自動車産業に大きな影響を与えることが懸念されたことから、トランプ政権はその後に追加関税の方法見直しや米国内メーカーに対する関税措置の緩和などを行っています。
トランプ関税に日本の自動車メーカーの反応は?
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【クルマ大好きライター】井口裕右
トランプ政権が打ち出した関税措置に、日本の自動車メーカーはどのような反応を示しているのでしょうか。
日本国内の主要メーカーが公表した2025年度の業績見通しによると、トランプ政権による関税措置の行方が大きな不確定要素となり、見通しが立たないとしているメーカーもあれば、大幅な減益を見込んでいるメーカーもあります。
米国市場におけるサプライチェーンの根本的な見直しを含めて自動車メーカーは様々な課題と向き合っていますが、いずれにしても現時点で自動車メーカーへの影響は大きいと見て間違いないでしょう。
一方で、この関税措置そのものの行方も不透明です。日本政府は現在も米国との交渉を続けていますが記事執筆時点で具体的な合意は生まれておらず、今後自動車関税が緩和されるのか、撤廃されるのか、またはさらに厳しいものになるのかは、全く読めません。
イギリスでは交渉の結果、自動車関税が条件つきで大幅に緩和されたというケースもあるため、今後の交渉の行方に注目が集まります。
トランプ関税によって中古車市場への影響はあったのか?
ここまでは、主に新車を対象にトランプ政権の自動車関税をめぐる動きや考察をまとめてきましたが、それでは中古車市場の米国への輸出や日本国内での売買に自動車関税の影響はあったのでしょうか?
トランプ政権の関税政策が発表されてから現在まで、2025年1月〜4月における中古車市場の動きについて、リセバ総研所長に話を聞いてみました。
当記事は筆者の個人的な主観・考察による内容で構成されています。公式の見解ではございませんのでご注意ください。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
所長、ずばりお聞きしますが、いわゆる「トランプ関税」によって中古車業界は何か影響を受けているのでしょうか。
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リセバ総研所長
結論から言うと、実は米国の関税措置による中古車業界への影響というのは観測できていません。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
あれ?そうなんですね。
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リセバ総研所長
もともと、日本から米国に輸出される中古車も90年代の古い車が中心です。もはや「旧車」の域ですから数も少ないですし、日本の中古車市場への影響もほとんどないでしょう。
というのも、米国で自動車を輸入する際には「25年ルール」というものがありまして、製造から25年が経過した自動車は、米国の連邦自動車安全基準(FMVSS)に適合していなくても輸入できます。
ちょうどその25年前ぐらいは日本製スポーツカーの全盛期だった時期にあたります。90年代に発売された日本車はいまでも高品質ですし、エンジンも高回転重視で走行性能も高く、右ハンドル車ながらも米国で人気があります。
高額で取引されることもありますし、私が過去に乗っていたクルマたちも恐ろしい価格で取引されていることもあるので、見ないようにしていますよ(笑)
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【クルマ大好きライター】井口裕右
そもそも右ハンドル車である日本産の中古車がアメリカに輸出される車種は、一部の旧車だけという状況なんですね。
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リセバ総研所長
そうです。90年代の和製スポーツカーや軽トラが大人気ですからね。それでも、中古車市場から見ればごく一部です。
それに、現時点(2025年5月25日時点)では、この25年ルールと同じく、25年以上前に生産された中古車の場合は追加関税の対象ではないようです。もちろん従来からの関税はかかりますし、乗用車には2.5%、軽トラを含むトラックには25%となっています。
ただ、あくまで「現時点では」という注釈付きです。ニュースを見ていても情勢が日々変化してますので。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
現時点では、米国の関税措置と中古車の輸出や日本の中古車市場の動向には相関性は見られず、影響を受ける要素も少ないということでしょうか。
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リセバ総研所長
私はそのように解釈しています。
いまのところは中古車業界よりも、自動車のサプライチェーンに関わる事業や、海運に関わる業界の方が影響を受けているのではないでしょうか。
もし影響があるとするならば、米国の経済状況によって為替相場が仮に円高方向に加速した場合、輸出が鈍化する可能性があるかもしれないというところです。
ただし、ここまで話したのは「直接的」な影響についてで、「間接的」な影響はあるかもしれません。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
「間接的」な影響というと、どのようなものが挙げられるのでしょうか?
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リセバ総研所長
消費の動向です。
追加関税の影響も含め、世界経済の変化によって生活物価が高騰すると可処分所得も相対的に減りますし、消費者の自動車購入意欲も低下する可能性もあります。
そこで新車よりも中古車という展開も考えられなくもないですが、ガソリンも高くなっていますし、自動車の所有そのものを見直す方が増えるかもしれません。関税よりも、そういった消費動向の方がもっと気になります。ガリバーで販売され、お客様に納車された中古車の数値を2024年の第3四半期と2025年の第4四半期で比べてみると、販売台数は大きく伸びていますが、車両本体価格や支払総額(車両の購入に際して最低限かかる費用でオプションは含まない)の平均は若干減少しています。

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【クルマ大好きライター】井口裕右
確かに、平均金額が下がってきていますね。そして、軽自動車の販売台数の伸びが気になりました。

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リセバ総研所長
軽自動車の販売台数はスライドドアで人気のハイトワゴンが販売の上位を占めますが、より経済的な4ドアタイプの軽自動車も人気が上昇していて、平均価格も下がってきています。
物価に連動して消費の動向が今後どのように変化していくかが、追加関税の影響以上に気になるところですね。
まとめ
ここまでトランプ政権による関税措置の経緯や自動車業界への影響についてまとめてきました。
リセバ総研所長の所感によると、この「トランプ関税」が中古車業界に与える影響はほとんどなく、むしろ円相場や物価高騰に起因する経済情勢の変化が及ぼす影響の方が、中古車市場を大きく左右する要因と考えられることがわかりました。
国内外の経済がどのように変化していくのか、日本国内における消費の動向や、自動車業界がどのような影響を受けるのか、これからも注目していきたいところです。