中古車相場が下落したトヨタ アルファードにいったい何が起きていたのか?データで真相に迫る

2025年に入り、ミニバン市場のトップに君臨して高いリセールバリューを誇ってきた「トヨタ アルファード」の中古車相場に異変が起きていると話題になりました。これまで中古車相場では新車価格に匹敵するほどの高値をつけていた同車ですが、さまざまなメディアで“中古車相場が崩壊”、“中古車価格の下落が止まらない”などの報道や見解が散見されます。
 
ミニバンの“王者”たるトヨタ アルファードの中古車相場にいったい何が起きていたのか。ガリバーでの査定データを振り返りつつ、リセバ総研所長の解説でこれまでの経緯を紐解いてみました。

小さい頃からのクルマ好きで、大学生で免許を取ると貯めたバイト代で中古車をすぐに購入。以来、年間数万キロを走り回って無事故を維持していることを密かな誇りにしている。趣味は、ドライブ旅行とモータースポーツ。カメラを持ってサーキットに行くと流し撮りに命を懸ける。一般ドライバーの視点で、カーライフとリセールバリューの「これってどういうこと?」を紐解いていきます。

リセバ総研所長 床尾一法

リセールバリュー総合研究所 管理運営者

中古車情報誌の最大手での制作、自動車メディアの立ち上げ責任者などを経験。20年以上マーケティングのインハウスやコンサルタントで活動。2017年に人材開発へ転向。対話空間や学習空間の設計、言語化と構造化設計を得意とする。CompTIA CTT+ Classroom Trainer Certification取得。2023年より、マーケティングに復帰。中古車マーチャンダイジングの研究とともに、メディア運営設計を担っている。実は元カメラマン。

トヨタ アルファードとはどういったクルマなのか?

トヨタ アルファードは、トヨタが誇るフラッグシップミニバンで、ミニバン市場における最上級モデルとして常に市場を牽引してきました。広い室内空間と快適な乗り心地、そして洗練された高級感を備えているのが特徴で、乗用車としてだけでなく、ハイヤーなどビジネスシーンでも活躍しています。

現行モデルは押し出しの強い大型のフロントグリルとLEDヘッドライトによる威厳と存在感あふれるエクステリアが特徴で、インテリアは上質な素材を使用した高級感と高い静粛性、様々な快適装備によって航空機のファーストクラスのような快適な居心地を実現しています。もちろん、トヨタの安全運転支援システム「Toyota Safety Sense」も採用されており、高い安全性も提供されています。

パワートレインは、ガソリン車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車の3種類をラインナップしており、車両本体価格はベースモデルとなるガソリン車の「X」が510万円から。最上位モデルとなる「Executive Lounge」は、ハイブリッド車が860万円から、プラグインハイブリッド車が1065万円となっています。
ちなみに、同じくトヨタの高級ミニバンである「ヴェルファイア」は、アルファードと共通のプラットフォームをベースにデザインや走行性能、パワートレインをよりスポーティーに味付けした兄弟車にあたります。

トヨタ アルファードの中古車価格はなぜ高騰したのか?

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    では、そもそもトヨタ アルファードの中古車価格はなぜここまで高騰していったのでしょうか。そこには様々な要因が考えられます。

ひとつは、人気モデルであることによる新車への注文殺到です。
メーカー側が大量のオーダーを抱えてしまうと、新車を注文しても実際に納車されるまで長期間待たされてしまうため、「すぐにアルファードに乗りたい」と考える消費者は状態の良い中古車に注目。その結果、中古車の需要が高まって価格が高騰していきます。
特に、コロナ禍に端を発する世界的な半導体不足は日本の自動車産業にも大きな影響を与え、メーカーの生産能力が低下したことによって、新車納期の延長と中古車価格の高騰に拍車を掛けました。

もうひとつの要因は、海外需要の高まりです。
トヨタ アルファードは日本国内のみならず海外からも富裕層を中心に人気が高く、状態のよい中古車は海外市場向けに高値で取引されています。しかも昨今の円安によって、海外から見るとクルマの価値に対して相対的に安いクルマに見えていました。

こういった要因によって、国内の中古車価格も押し上げられていったのです。

そして、「アルファードは高く売れる」というムードが顕在化すると、そのリセールバリューの高さに注目して投機目的でアルファードを購入するという層も出現し、相場価格をさらに押し上げていきました。

買取査定データの推移からどういったことが見えるのか?

このように“バブル”とも言える価格高騰を経験したアルファードですが、最近の値動きはどのような状況なのでしょうか。ガリバーの買取査定データから、査定件数と平均売却予想額の推移を検証してみましょう。

現行型(40系)アルファードの平均売却予想額の値動きを見てみると、2024年1−3月期をピークに価格は徐々に下降傾向に。特にハイブリッドモデルは2025年6月まで滑り落ちるように価格が下がっているのが見て取れます。対する査定件数の推移は、価格の下降傾向と反比例する形で増加傾向に。売却査定件数の増加=売却意向のユーザーの増加が平均売却予想額を押し下げていることを示唆しています。

  • 平均売却予想額
  • 査定件数
  • 平均走行距離

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平均売却予想額とは?
買取査定に持ち込まれ査定検査したクルマがオートオークション等で落札または売却される際の金額を予測し、全査定件数で平均化した金額です。

※平均売却予想額は、あくまで中古車流通における売却金額の予測値を平均化した数値であり、ガリバー店頭での買取金額とは異なります。

※ガリバー店頭での実際の買取金額は、クルマのグレードや装備、使用状態によって異なります。

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中古車市場でトヨタ アルファードに何が起きていたのか?

それでは、こうしたアルファードの中古車相場動向について、リセバ総研ではどうみているのでしょうか。所長に聞いてみました。

当記事は筆者の個人的な主観・考察による内容で構成されています。公式の見解ではございませんのでご注意ください。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    まずは、最近のアルファードの相場傾向から整理してください。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    査定件数の動きでは、2024年9月から一気に増えています。平均売却予想額は厳密にはさらに前の7月頃からもう崩れ始めています。

    平均売却予想額のピークは2024年1月から3月の(中古車流通の)繁忙期あたりでしたね。その後に相場は下降傾向で、下落率も徐々に拡大しています。
    2024年末の改良で中古車流通が増えたという意見もありますが、実は2024年の夏あたりから相場は下がっています

    ただし、これは「アルファードの価値が下がった」というよりは「これまでの流通価格が特殊だった」と考えています。以前は新車価格を超える在庫もありましたが、最近では大体500万円から800万円台のイメージです。いわゆる“高級車の中古車らしい価格帯に落ち着いた”とも言えると思います。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    アルファードはなぜここまでバブル的な価格の上昇が加速して、そして収束しているのでしょうか?

  • リセバ総研所長 床尾一法

    価格の高騰については、新車の納期が長く世の中に新車が出回っていなかったことと、輸出需要が大きな要因です。

    ただ、最近の新車販売台数の動きを見てみると、2024年7月に販売台数を一気に伸ばしていて、その後生産ラインのストップなどもあって9月に掛けて販売台数は一気に落としているものの、その後に再び復活しています。

    買取査定に持ち込まれる数も同時期に一気に増えており、平均売却予想額の下落幅も大きくなっています。

一般社団法人 日本自動車販売協会連合会 公表データよりグラフ作成
  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    もうひとつの要因だった輸出関係の動きはどうでしょうか?

  • リセバ総研所長 床尾一法

    1つは海外市場での飽和が関係しているのではないかと考えられます。

    単純にアルファードを買いたいという人が減ってきたということです。

    もう一つは輸出に関わるバイヤーさんの増加です。
    輸出ビジネスに関わる方が増えて、供給も過多になってきたという状況のようです。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    アルファードの中古車価格高騰は、一般的なユーザーの目にも留まるぐらい知られた事象になっていましたね。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    そうですね。これまでは、新車の在庫不足が話題となり、輸出需要の高まりもさらに加速させる要因となって、どんどん相場が高騰していきました。

    ですが、現在では国内の流通は新車の供給も安定していますし、中古車在庫も潤沢です。

    海外の需要も頭打ちになったことで、これまでのような特殊な相場の高騰はないであろうと考えられます。

    それでも、異常な高騰から普通に戻ったというだけで、クルマの価値そのものが下落したわけではありません。
    リセールバリュースコア(RV値)も、ガソリン車の2WD(AGH40W型)で最大139%程度と、以前よりかなり下がりましたが十分に高いスコアを維持しています(2025年8月現在)。

  • 平均売却予想額
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リセールバリューが高いうちに売却するべきなのか?

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    こうした相場の動きがある一方で、アルファードのオーナーのなかには高いリセールバリューを念頭に残価設定型ローンなどを組んで早期売却を検討している方も多いと思います。
    今後どのように判断すべきでしょうか?

  • リセバ総研所長 床尾一法

    リセールバリューの高いうちに早期売却するという選択肢もあるでしょうが、維持できる状況なのであれば長く乗り続けるのもアリなのではないでしょうか。

    本来の「カーライフを豊かに過ごそう」という考えから高級ミニバンを買ったのだとするならば、長く乗ることがクルマにも環境にも一番良いのではないかと個人的には考えてます。

    一方で、リセバ総研は「リセールバリュー」という資産価値を意識して中古車ライフを楽しもうという視点で運営しています。中古車としての価値が高いうちに乗り換えて、いろいろなクルマを乗り換えて楽しもうという考え方もあります。

    どちらもアルファードに限った話ではありませんが、相場に合わせて右往左往して判断するというよりは、納車から1年が経った頃、あるいは車検を迎える3年目や5年目に「このままこのクルマとカーライフを楽しもうか?」それとも「今のリセールバリューで売却して次はどんなクルマを楽しもうか?」と、ご自身のカーライフの価値観を重視して判断していただきたいですね。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    例えば、5年以上乗り続ける、5万キロ以上乗るといった中長期的な乗り方をしても、アルファードのリセールバリューは他のクルマと比べて落ちないのでしょうか?

  • リセバ総研所長 床尾一法

    クルマの状態や使われ方によりますが、基本的には極端には落ちないでしょう。アルファードのリセールバリューそのものが他のクルマと比較して断然高いですから。

    なんだか金額的価値が高いクルマという見られ方をしてしまっていますが、そもそも性能の高さや快適性で人気がある高級ミニバンなのですから、長く乗って、できるだけリセールバリューを保って売るという乗り方には向いているクルマだと思います。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    そうですね、クルマとしての評価も高いですし、良いミニバンであることには変わりませんね。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    ただ、「人気」という観点でのリセールバリューへの影響度合いで言えば、今後のことはわかりません。

    現在の高級ミニバン人気に陰りが生じた場合には、リセールバリューの見通しは怪しくなってきます。すでにその兆候が2025年から見えてはじめていて、物価高騰による消費の変化もあってか、比較的高価なミニバンは中古車の動きが鈍くなっています。

    それに、もしも今後のモデルチェンジなどをきっかけにアルファードのイメージが大きく変わってしまった場合、旧型となる現行型の人気がさらに増すことも考えられますし、逆に一気にデザインが陳腐化する可能性もあります。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    モデルチェンジに向けた動きが見えてきたら、現行モデルのオーナーはリセールバリューの変動に目を配ったほうが良いですね。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    現在の路線を踏襲してモデルチェンジした場合には、旧モデルのリセールバリューが極端に(年式なり以上に)下落するということはないと踏んでます。

    来たるべき新型の快適性能は更に磨かれることでしょうが、基本的な性能差がそれほど大きくなるとは思えないからです。

    むしろ型落ちになることで中古車としての価値(コスパなど)が高まることで需要が再び伸び、リセールバリューがそれほど下がらずに維持し続ける、あるいは上昇してしまう可能性もあります。
    最近(2025年夏)でいえば、スバルの旧型(SK系)フォレスターや、ノマド発売後のジムニーシエラがその傾向です。いずれも輸出需要の影響が大きいですが。

    それに、現行モデルに乗っているオーナーは「次のモデルチェンジまで大切に乗り続けて高級ミニバンのカーライフを楽しむ」という選択肢もあるのではないでしょうか。
    次期モデルが出たタイミングというのは、旧型モデルにとっては“中古車として高品質で魅力的な価格帯”に入ることになるので、そういったタイミングを見定めて売却すれば、リセールバリューの水準を高めに維持したまま買い取られる可能性も高いでしょう。

リセールバリューを踏まえたクルマとの向き合い方とは?

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    まとめると、アルファードを巡る相場状況は、これまでの高騰が特殊な状態で、現在はそれが一般的な人気の中古車としての相場感に落ち着いていると理解すればいいのですね。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    今までのアルファードの扱われ方は特殊だったと思います。

    ここ数年は、クルマ以外の様々なジャンルで同様の現象が起きています。私が見える範囲でも、国産メーカーでありながら日本の市場が縮小した国内の出荷よりも海外出荷を優先し、手に入らいないという工業製品も増えました。

    ただ、中古車が他のプロダクトと異なるのは、主にオートオークションで流通する際の取引価格で相場が形成されていることです。
    流通量の少なく需要が高い中古車はオートオークションでも新車価格を超える高値がつくこともありますし、需要が減退して流通量が過多になれば相場は下落しますそれが中古車販売店の店頭価格に反映されます。

    高すぎるとお客様の購入意欲も下がってしまうことがありますし、販売店側もこういった相場の高騰は仕入れにくさや売りにくさにもつながるので、苦慮しているようです。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    確かに、希少な限定車や趣味性の高い車種ならともかく、流通相場で語られることも多いミニバンというのは特殊ですね。

     

    さて、今回はトヨタ アルファードの中古車相場高騰と下落の変遷をまとめてきましたが、最後にリセールバリューを起点としたクルマとの付き合い方として、リセバ総研所長の意見をお聞かせください。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    わたくしゴトで恐縮ですが、自分の乗っているクルマが新車購入から5年目で、リセールバリューも節目に当たります。

    リセバ総研の平均売却予想額のグラフも5年落ちまでですから、来年は我が家のクルマもリセバ総研ベンチマークの対象外です。おそらくリセールバリューも下落するでしょう。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    それは悩ましいタイミングですね。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    売却して次のクルマを探そうか、それとも子どもたちの成長を5年間見守ってきた「家族」としてまだまだ一緒にいてもらうか、正直悩んでいます。

    思い出や愛着はお金に変えられませんし、でも所有する資産の価値も落としたくない。リセールバリューはそういったカーライフの節目に有効な判断材料だと考えます。

    あくまで個人の意見ですが、常に相場情報左右されて「もっと乗り続けたいけれどリセールバリューが落ちるから泣く泣く手放した」という結果に至るのも悲しい気がします。

    自分が乗って満足できるクルマを選び、売りたいタイミングでリセールバリューの傾向をチェックする。相棒として長く乗り続けたいのであれば、末永く乗り続ける。そんなカーライフが理想ではないかと思います。

    一方で、人気のクルマのリセールバリューの高いグレードを購入して、モデルチェンジのタイミングで乗り換えていいクルマを乗り換え続けたいという指向性も、カーライフのひとつのあり方だと思います。私も若かりし頃はそうやってハイパフォーマンスカーを乗り換え、楽しんできました。

    自分自身にとってどのようなカーライフを実現したいのか、自分にとっての「クルマの乗り方」の価値観を明確にすることが大切だと思いますね。