世界のEV動向「Global EV Outlook 2025」国際エネルギー機関(IEA)報告書

国際エネルギー機関(IEA)は、5月14日に「Global EV Outlook 2025」を発表した。この報告書は、世界の電動モビリティの進展状況を報告し、電気自動車(EV)の展開、バッテリー需要、充電インフラの動向を評価しているものだ。また、EVの価格設定、製造、貿易に関する分析や、2030年までの予測を行っている。

リセールバリュー総合研究所 管理運営者 兼 アナリスト
国際エネルギー機関「IEA」(International Energy Agency)は、第1次石油危機後があった1974年、当時のキッシンジャー米国務長官の提唱を受けて設立された機関だ。32の加盟国と13の協力国で推進されており、事務局はパリに在る。
主にエネルギー安全保障の確保を目的としており、エネルギー供給と需要、再生可能エネルギー技術、電力市場、エネルギー効率など、幅広くエネルギー問題を調査し、持続可能性を高める政策を提唱している。
もちろん自動車業界も深く関わるテーマであり、環境問題を考えると、EV市場の展望も大きなテーマだ。
それでは、発表された「Global EV Outlook 2025」の内容を乗用車に関連する話題に絞り、LLMの助力を得ながら要約して見ていこう。
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リセバ総研所長
気になったのはEV(electric vehicleやelectric mobility)の定義。
原文にもあるように、当該資料の『EV』には純然たるバッテリー駆動の「BEV」と、プラグインハイブリッド車の「PHEV」が含まれている。
当記事は、「Global EV Outlook 2025」報告書の記載内容に関する、筆者の個人的な主観的な考察と感想で構成されています。公式の見解ではございません。
EV市場の動向
EV販売台数の記録的成長と中国の圧倒的リード
2024年、世界のEV販売台数は1,700万台を超え、25%以上増加。自動車販売全体に占める割合は20%以上となった。
EV市場は依然として中国市場がリードしており、2024年のEV販売台数は1,100万台を超え、自動車販売の約半分を占めている。その結果、中国では道路を走る自動車の10台に1台が電気自動車となっている状況だ。
中国のEV市場は、バッテリーEV(BEV)よりもプラグインハイブリッドEV(PHEV)の販売が急速に伸びている。
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リセバ総研所長
PHEVは化石燃料でも走行可能で、発電しつつ蓄電池としての機能も持ち、災害対策にもなる。個人的には現状での最適解ではないかと。
ただ、ディーラー網が整った国産車は、国や自治体の補助金制度があるとはいえ、高額な車種が中心。まだまだ車種も限られているので、もっと選びやすい状況になって欲しい。
欧州の停滞と米国の成長/新興市場の台頭
欧州では補助金制度や支援政策の縮小により2024年の販売が停滞したものの、EVの販売シェアは約20%を維持。
米国ではEVの販売が前年比約10%増加し、販売台数の10台に1台以上を占めるようになった。
アジアとラテンアメリカの新興市場では、2024年にEVの販売が60%以上急増、約60万台に達した。特にブラジルとタイでは、中国からの比較的手頃な価格のEVが輸入され、販売増加の85%を占めた。
2025年の予測
2025年には世界のEV販売台数が2,000万台を超え、世界の自動車販売の4分の1以上を占めると予想されている。販売シェアは中国では約60%、欧州では25%、米国では11%に達すると予測されている。
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リセバ総研所長
報告書によると、EV販売が増加する一方で『政府のEVに対する支出(補助金や税制優遇措置)は着実に減少、2024年には世界のEV総支出の7%未満』となっている。
EVは補助金が販売を支えている側面もあるので、先進国での動向が気になるところ。
EV産業の動向
生産と貿易の状況
2024年の世界のEV生産台数は1,730万台に達し、その70%以上を中国が占めている。中国では国内市場の80%をEVが占め、世界のEV生産増加分はほぼ中国。
欧州の生産は240万台で停滞。北米では米国の生産が減少する一方で、メキシコの生産が倍増している。
2024年のEVの世界貿易は20%増加し、輸入は世界のEV販売の約5分の1を占めた。中国は世界輸出の40%(約125万台)を占める最大の輸出国であり、欧州も純輸出国であった。
価格競争とモデルの多様化
バッテリー価格の下落と競争激化により、2024年にはバッテリー式EVの平均価格が世界的に下落。しかし、多くの市場で従来の自動車との価格差は依然として残っている。
対照的に、中国で2024年に販売されたEVの3分の2は、購入インセンティブがなくても従来の自動車よりも低価格な設定。中国ではバッテリー価格が約30%下落したが、欧州と米国では10-15%にとどまり、中国メーカーの競争優位性が高まってる。
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リセバ総研所長
2024年はヒョンデ アイオニックやBYD シールが「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の10ベストカーに選ばれ、話題となった。
ともに高い技術力を持ち、ものづくりに関して日本や欧州と変わらない品質を提供している。
電動モビリティに関する2030年までの見通し
EV普及のさらなる拡大
IEAのSTEPS(Stated Policies Scenario:公表政策シナリオ)では、2030年までに世界のEVの台数が2億5,000万台に達し、2024年末時点の4倍になると予測されている。
地域別に見る2030年までの見通し
中国における2030年までの見通し
EVの費用対効果と政策支援により、2030年までにEVの販売シェアは約80%に達すると予想されている。
欧州における2030年までの見通し
EUのCO2排出基準などの政策環境により、2030年までにEVの販売シェアは60%近くに達すると予測されている。
米国における2030年までの見通し
アメリカの最新の政策動向に基づくと、EVの販売シェアは2030年までに約20%に達すると見られており、前年の予測よりも大幅に低い数値である。
東南アジアにおける2030年までの見通し
強力な政策支援と国内製造能力により、2030年までに同地域で販売される自動車の4台に1台がEVになると予測されている。
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リセバ総研所長
EVの圧倒的な生産体制を持つ中国が、世界のEV販売シェアを牽引して、さらに押し上げてている。
一方で、米国での土地柄というか、政策や方針の違いによるEV普及の落差がすごい。
EVの充電環境
公共充電インフラの拡大
公共での充電施設は過去2年間で倍増し、2024年には500万箇所を超えた。中国が最も大きな成長を牽引し、世界の公共充電設備の約65%を占めている。
150kW以上の超高速充電器の数は2024年に約50%増加し、公共高速充電器全体の10%近くを占めるようになった。
中国と欧州は、EVに対する充電施設の展開ペースを安定して維持しているが、米国と英国では充電できる場所の建設がEVの普及に追いついていない。
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リセバ総研所長
世界の公共充電設備の65%が中国とは。さすがにEVシェアの大きさを物語っている。
たしかに日本でも充電できる環境は限られているが、無人とはいえメンテナンスも必要な設備。
保守管理やコスト負担も含めて考えると、商業施設や各自治体に任せるばかり、というのも辛い。
バッテリー技術の進歩/スマート充電やV2G
中国のバッテリーメーカーのATL(Amperex Technology Limited)やBYDなどの技術革新により、5分間で数百kmの走行距離を充電できるバッテリーが登場し、従来の自動車の給油時間に匹敵する充電速度が可能になっている。
スマート充電(充電時間帯を細かく制御する)も普及が進んでおり、英国では2022年から新設される家庭用充電施設にスマート機能が義務付けられてる。
V2G(Vehicle-to-Grid:EVを蓄電池として利用する)技術も進展しており、30(車種)以上の双方向充電対応モデルが利用可能。これにより、EVはグリッド(電力系統との接続)の柔軟性や需要応答に貢献する可能性を秘めている。
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リセバ総研所長
エネルギー問題を考えると、今後のEVはV2Gでの共有がテーマになってくるのだろうか。
日産が2026年に英国での導入を予定している。
PHEVもそうだが、デジタルガジェットに囲まれていると、クルマの「ポータブル電源」化は恩恵も多々ある。
EVのバッテリー
バッテリー需要と2030年の予測
2024年、エネルギー分野でのバッテリー需要は1TWh(1テラワット=1兆ワット)に到達。EVのバッテリー需要は2023年より25%増加し、950GWh以上。バッテリー需要の85%以上をEVが占めている。
STEPS(公表政策シナリオ)では、EVのバッテリー需要は2030年までに3TWh(3テラワット=3兆ワット)を超えると予想されている。
バッテリー価格の競争とLFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーの台頭
2024年のリチウムイオンバッテリーパックの価格は、原材料価格の下落と競争激化により20%下落。中国での価格下落が最も速く、約30%減少。中国のEV/バッテリーメーカーが競争優位性を高めている。
LFP(リン酸鉄リチウム)バッテリーが世界のEVバッテリー市場のほぼ半分を占め、中国では国内バッテリー需要の約4分の3を満たしている。
東南アジア、ブラジル、インドでは、LFPが電気自動車バッテリーの販売シェアの50%以上を占めている。
製造能力の拡大
2024年の世界のバッテリーセル製造能力は3TWh(3テラワット=3兆ワット)を超え、その85%近くが中国に集中している。しかし、欧州と米国でも製造能力が大幅に増加する見込みで、2030年には中国のシェアが約3分の2に減少すると予測されている。
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リセバ総研所長
LFP(リン酸鉄リチウム)は重く、エネルギー密度が低いものの、安定性や安全性が高く寿命も長い。重さがある程度許容できる自動車にはぴったりのバッテリー。
自然放電が少なく、頻繁に持ち運ばないポータブル電源にも使われている。
しかし、ここまで需要が一気に膨れ上がると、資源確保の問題や廃棄時の処理問題にどう対処していくのだろうか?現状では、一般家電の充電池の廃棄ですら一苦労。
エネルギー需要の見通し
電力需要と石油代替
2024年、世界のEVは180TWhの電力を消費。STEPS(公表政策シナリオ)では、2030年までにこの需要が4倍以上に増加し、780TWhに達すると予測されている。
EVの導入拡大は石油需要の削減を続け、2024年には130万バレル(約2.1億リットル)/日を超える石油を代替した。2030年末までには、STEPSにおいてEVが500万バレル(約8億リットル)/日以上のディーゼルおよびガソリン(の燃料)を代替すると予想されており、その半分は中国のEVによるもの。
税収への影響
EVの普及により、政府の化石燃料税収は減少する可能性があり、2030年までには世界全体で650億ドル(1ドル145円で約9兆7千億円)以上の純税収不足をもたらす可能性もある。
各国政府は、車両重量税や走行距離課税などの代替課税措置を検討している。
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リセバ総研所長
化石燃料を代替したとしても、その膨大に膨れ上がる電力需要に応える必要がある。
猛暑によるエアコン稼働、AIの普及によるデータセンター拡大など、クルマ以外でも電力需要が逼迫している中、はたしてEVの電力は確保できるのか?
・・・そして税収。これはEVの普及を語る際に見落としがちな視点でもある。現在は補助金が出るEVも、すでに議論に上っている「走行距離課税」などを含め、新たな課税項目が設けられる可能性もある。
まとめ
2024年はヒョンデ アイオニックとBYD シールが「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の10ベストカーに選ばれたことで、「より現実的な」EVへの注目も一段と集まった。個人的な行動範囲の中ではあるが、日産 サクラやリーフも、街中でよく見かけるようになった。
一方で、EVはリセールバリューという観点で見ると、現状では決して高いものではない。補助金やバッテリー劣化の危惧などさまざまな要因があるが、所有者の絶対数も少ないため、査定に持ち込まれる件数もまだまだ少ない。
また、国産メーカーのEVへの取組状況に対しても、さまざまな意見が飛び交っている。国産メーカーはBEVだけにこだわらず、ハイブリッド車やPHEVなど、さまざまな動力方式を展開して最適解を模索する道を選び、それぞれ世界中で広く受け入れられている現状を見ると、あと数年でEV(BEV)が主流になるとは言い難い状況だと思われる。
だからといって化石燃料で走るクルマにこだわり続けるわけではなく、いずれ大きな転換期がやってくるだろう。その頃までには、充電環境や税制など、EVが選びやすい環境が整っていることを願いたい。