車中泊に必要なものは?車中泊で気をつけるべきことは?安全に車中泊を実践するためには? 【車中泊について聞いてみた(1)】車中泊で日本一周を実現した自動車ライター黒木美珠さんの体験記

クルマに乗って全国各地へ旅に出かけて、宿泊は自分のクルマで。そんな“車中泊”への関心が高まっています。しかし、実際に車中泊をしようと思っても、どんな準備をしてどんな点に注意したらいいのかイメージできない方もいるのではないでしょうか?そこで今回は「車中泊で日本一周の旅」を実現したことのある自動車YouTuber/自動車ライターの黒木美珠さんに、車中泊の魅力や必要な準備、オススメのクルマについてお話を伺いました。第1回では黒木さんの車中泊日本一周についてのエピソードから、車中泊の魅力に迫ります。

ライター
目次
会社退職を期に夢だった日本一周の旅へ
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【クルマ大好きライター】井口裕右
まずは、どうして車中泊で日本一周を始めようと思ったのか教えて下さい。
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
実は、日本一周の旅は大学時代から憧れがあったんです。でも、大学生は時間はあるけれどクルマは持っていないしお金もないので、諦めていたんですね。その後、社会人になって、会社を退職するとなったときに、「じゃあ、会社を辞めたら2,3ヶ月かけて日本一周の旅に出てみようか」となったんです。
もちろん、公共交通機関で旅行する方法もあるのですが、毎日電車を使うのも大変だし、毎日宿泊場所を確保するのも予算が膨大になってしまう。そして地方都市に行くと現地の移動でどうしてもクルマが必要になります。
なので、「じゃあ、もう車中泊で行っちゃおう!」という気持ちで、車中泊での旅を決めました。会社員の頃から副業的にYouTubeをやっていたので、旅の様子はYouTubeでも公開していました(現在は公開終了)。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
大学時代の夢を叶えたんですね!ちなみに、どんなクルマで旅に出られたのでしょうか?
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
ホンダのヴェゼルというクルマでした。ホンダ車の特徴として、後部座席を倒したときにきれいにフルフラットになるクルマが多いんですね。フルフラットでシングルサイズのマットレスがちゃんと置けるということで、「これなら泊まれそう!」と思い、このクルマで出かけました。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
ヴェゼルなんですね!ハイエースやバンタイプの軽自動車などを想像していました。
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
確かにハイエースや軽バンで車中泊をされる方は非常に多いですね。室内空間を有効活用するならばそういうクルマがいいと思います。ただ、実際にヴェゼルで旅をして感じたのは、運転の快適性・乗り心地や安全装備などを考えると、長距離移動をするのであれば普通の乗用車で旅をしたほうがいいと感じましたね。
例えば商用車ベースのクルマの場合にはシートが固めで長時間の運転では腰が痛くなってしまったり、シートヒーターがついていないので寒い日には辛かったり、小さいことかもしれませんが楽しく旅を続けるためには大切なのかなと。加えて、普通の乗用車なら通勤や買い物などの日常使いから本格的な車中泊までクルマの使い勝手の幅があるので、とてもいいと思います。
95泊の長期車中泊、事前にどんな準備をしたの?
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【クルマ大好きライター】井口裕右
かなり長い旅になりましたが、どんな旅行をされてきたんでしょうか?
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
最終的に、4月から6月にかけて95泊の旅になりました。毎日一般道を300キロくらい運転しながら、途中で色々な観光地を巡って、宿泊場所を決めて車中泊するというスタイルでしたね。ただ、ずっと移動していたわけではなく、例えば5日間移動したらオフの日(移動しない日)を作ったり、雨の日は1日YouTube動画の編集などの時間に充てて動かない日にするという感じで、休息を取りながら旅を続けていました。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
95泊というのは改めて聞くとすごい規模ですね。ちなみに女性のひとり旅、それを車中泊で行うということで、不安などなかったのでしょうか?
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
旅に出る前は結構怖かったですね。「本当に大丈夫?」って。ただ、実際に車中泊で旅してみて感じるのは、キャンプ場でソロキャンプするよりも全然安全だなと。やっぱり(クルマに)鍵を掛けられるというのはすごい安心感があるから、まるで自分の部屋みたいな感覚で安心して過ごせましたね。

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【クルマ大好きライター】井口裕右
事前にどんな準備をされてきたのでしょうか?
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
まず予習はしっかりしましたね。実はクルマで日本一周している方がYouTubeで動画を公開している例はいくつもあって、それを観てプライバシーを保護するための窓の目隠しの作り方や、旅行中のお風呂事情とか参考にしました。お風呂については滞在予定地の日帰り温泉を検索してみたりもしましたね。
あとは、ヴェゼルにマットレスが敷けるということがわかってからは、実際に窓の目隠しを作ってマットレスも用意して、近くにある車中泊可能な道の駅で“予行練習”もしてみたりしました。実際に一泊クルマで寝てみて大丈夫なのかを確認してみて、「うん、大丈夫!」という成功体験を重ねていきながら、事前に感じていた不安を取り除いていきました。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
確かに本格的な旅行の前に近場で車中泊を“お試し”してみるのはいいですね。実際に予行練習してみて気付いたことや改善したことはあったのでしょうか?
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
マットレスは2枚重ねにするようにしましたね。ヴェゼルのフルフラットは寝るのにストレスになるような凹凸がなくてよかったのですが、長く車中泊をすると疲れが取れにくくなるのではないかと。なので、寝具についてはしっかり準備しましたね。
あと、窓の目隠しはホームセンターに売っている発泡スチロールのような断熱材を窓の形に切り抜いて作ったのですが、実際に車中泊で使って見ると街頭の光や差し込んでくる隙間などに気づいて補強することができたので、事前に試してみて良かったですね。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
目隠しはカーテンのようなものをイメージしていたので、住宅用の断熱材を使ったというのは面白いですね。
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
そうなんです。YouTubeで観ていた車中泊をされる方のアイデアを参考にしました。カーテンだとどうしても外の冷気がクルマの中に入ってきてしまいますが、断熱材なので暖房を使ってクルマのなかを暖かくした状態で目隠しをすると、エンジンを切ったあとでも外気温に左右されずに温度が保たれたので、本当によかったですね。
旅行の中で感じた、“車中泊だからできる体験”
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【クルマ大好きライター】井口裕右
長い旅を続けてきたなかで、「車中泊をやってよかった!」と思ったエピソードがあれば教えて下さい。
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
景色のいいところで車中泊した時は、森に囲まれたなかで朝を迎えて、ドアを開けると朝の凛とした空気がとても気持ちよくて。そして起きてドアを開けた瞬間から、眼の前にいい景色が広がってる。そんな瞬間に車中泊をやってよかったと感じましたね。
もちろん宿泊施設に泊まった場合でもいい景色を楽しむことはできますが、車中泊でも普段は体験できないような“絶景のなかで過ごす”という体験ができたのが、良かったと思います。夕焼けや朝焼けも一番キレイに見える場所を探して見ることができたのもよかったです。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
確かに宿泊施設だと部屋によって見える景色が変わってきますが、車中泊ならいちばんいい景色の場所を自分で探してそこを滞在場所に決められますよね。いい景色、いい雰囲気の場所に自分で行って、そこで滞在することで風景を独り占めできるというのは車中泊の醍醐味なのかもしれません。
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
あと、車中泊を続けるなかで同じように車中泊で旅をしている方との出会いもありました。例えば、旅の途中で滞在したとある道の駅で出会ったのは、ランドクルーザーに乗って車中泊での日本一周をしているご夫婦。定年を期に日本一周をされていたのですが、そのご夫婦は観光地を巡る旅ではなく、全国各地を釣りをしながら巡っていたのです。そんなご夫婦の引退後のライフスタイルがとっても素敵だなと思いましたね。
私はこの旅では観光地をメインに巡っていたのですが、目線を変えれば色々なテーマで何度でも日本一周を楽しめるなと感じました。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
素敵なエピソードですね!ちなみに道の駅の話題が出ていましたが、宿泊場所は道の駅が多かったですか?
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
道の駅やサービスエリアが多かったですね。車中泊が可能かどうかを事前に調べて宿泊場所を決めていました*。旅の中で学んだのが、大型トラックが止められる場所が安全だなと。大型トラックを運転される方は長距離ドライバーの方が多いので、車中泊されるケースが多いんですね。人の目が常にあるという環境のほうが安全だなと感じました。
*注釈:車中泊の場所として道の駅やサービスエリア、ドライブインなどを選択する場合には、事前に車中泊をして問題ないか、車中泊を禁止していないかを確認するようにしましょう。また、コンビニエンスストアやショッピングモールなど商業施設の駐車場、観光地などにある公共駐車場やコインパーキング、トラックドライバー専用のドライブイン「トラックステーション」、私有地(空き地など)などで車中泊してはいけません。違法駐車、不法侵入など法令に違反する場合もあるため十分に注意しましょう。
長い車中泊のなかで遭遇した“ピンチ!”や“困りごと”
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【クルマ大好きライター】井口裕右
車中泊の旅を続けるなかで、困ったことなどありましたか?
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
実際には車中泊をしていて困ったことというのはあまりなかったですね。ただ、四国の山道を長時間走っていたときには120キロくらいトイレとガソリンスタンドが全くなくて、困ったことがありましたね。車中泊よりも移動中のトイレ探しのほうが苦労した記憶があります。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
確かに地方の場合には街と街との距離がかなり離れていますよね。
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
あと困ったという話ではないですが車中泊で出るゴミの処理には気を遣いました。もちろん、大量のゴミを道の駅やコンビニのゴミ箱に捨てるのはルール違反なので、私は「RVパーク」という車中泊向けの施設を使いましたね。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
「RVパーク」ってどんな施設なんですか?
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
RVパークは快適に安心して車中泊が出来る場所を提供するために日本RV 協会が推進・公認している有料駐車スペースで、全国各地に施設があります。そこではシャワー室を利用できたり、ポータブル電源の貸出やバッテリーの充電ができたりするんです。ゴミの回収もしてくれます。そういう施設を利用させてもらうことも多かったですね。
車中泊に役立つグッズを売っていますし、スタッフもいる施設で見守りも行き届いているので、初心者の方や車中泊旅行の練習をしてみたい方も安心して利用できると思います。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
確かに初めての車中泊にはちょうどいい施設ですね!ところで、3ヶ月も旅行しているとクルマの走行距離も相当なものだったと思いますが、クルマのメンテナンスはどのようなことをしていましたか?
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
日本一周の旅行では1万5000キロほど走りました。旅行中のメンテナンスとしては、タイヤの空気圧のチェックとオイル交換くらいですね。旅行前にオイルを交換して、6000キロから7000キロくらい走ったとことで1度オイル交換をして、旅が終わってからもう一度オイル交換しました。
そのほかの部分はオイル交換の際に点検する程度でしたよ。バッテリーも問題なく旅行中に交換の必要などはありませんでした。
長い旅行を通じて芽生える、クルマへの愛情
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【クルマ大好きライター】井口裕右
大変興味深い体験をお伺いすることができました。改めて日本一周の旅行を通じて感じた、車中泊の魅力について教えて下さい。
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【車系YouTuber / 自動車ライター】黒木美珠
クルマに対して愛着というか、感謝の気持が芽生えると思います。日中は移動の足になってくれて、夜になれば鍵を閉めれば自分の寝床=お家になってくれる。そして常に一緒にいながら沖縄を除く全国46都道府県の景色に触れていく。そんな旅を続けながらクルマへの感謝の気持ちが芽生えましたし、クルマとの距離が縮まったような気持ちになりました。
そんなクルマを手放すときは悲しかったですし、手放す直前にはお別れするのが寂しくてもう1度車中泊の旅行をしたくらいです。クルマを自分の“相棒”と呼べるほど、クルマへの愛情が生まれるのが、車中泊の魅力ではないかと思います。

3ヶ月95泊という壮大な日本一周旅行を通じて感じた車中泊の魅力や注意点を語ってくださった黒木さん。第2回では車中泊で役立った便利アイテムなどについて伺います!