中古車輸出統計から読み解く中古車業界の風向き

中古車業界の景気を大きく左右する要素には様々なものがありますが、国内における新車需給バランスや中古車需要と並んで大きなポイントになっているのが、海外からの中古車需要に伴う輸出動向です。財務省は、品目別・相手国別の輸出入の動向をまとめた「貿易統計」を毎月発表していますが、そのデータの中には「中古乗用車」の統計も含まれています。
 
そこで今回は、貿易統計のデータをもとに昨今の中古車輸出動向を整理してみましょう。
なお、記事執筆時点ではすでに2025年6月の貿易統計速報が発表されていますが、中古乗用車の個別データは速報の対象外のため、今回の記事では含めておりません。ご了承ください。

小さい頃からのクルマ好きで、大学生で免許を取ると貯めたバイト代で中古車をすぐに購入。以来、年間数万キロを走り回って無事故を維持していることを密かな誇りにしている。趣味は、ドライブ旅行とモータースポーツ。カメラを持ってサーキットに行くと流し撮りに命を懸ける。一般ドライバーの視点で、カーライフとリセールバリューの「これってどういうこと?」を紐解いていきます。

約5年分の貿易統計から見えてくるもの

まずは、2019年1月から2025年5月までのおよそ5年半にわたる貿易統計の推移から、中古乗用車の輸出動向を見てみることにしましょう。

輸出台数の推移は月によって大きく上下動を繰り返しているものの、毎年のピークとボトムは横ばいから緩やかに右肩上がりに推移していることがわかります。しかし一方で輸出金額は2022年に入ってから右肩上がりに大きく成長しており、2024年12月と2019年12月を比較すると輸出台数は約1.3倍となっている一方で、輸出金額は約2.8倍と約3倍に迫る増加を見せています。輸出金額が増加し始めた2022年はちょうど為替相場における円安が加速した時期と重なっており、急速な円安が中古車輸出に大きな追い風になっていったことがわかります。

2025年の1月〜5月のデータを輸出台数ベースで2023年、2024年と比較してみると、2023年が約50万台、2024年は57万台、そして2025年が59万台と堅調に成長を続けており、世界各地で発生している様々な情勢不安や今年に入って国際問題となっている米国の極端な関税政策(いわゆるトランプ関税)の影響はあまり感じられません。

最近1年間(2024年6月から2025年5月)の主要地域別中古自動車輸出台数をまとめてみると、アジアや中東、中南米が堅調に推移している一方で、アフリカ市場が大きく成長していることがわかります。アフリカへの輸出台数は2024年6月が約1万7000台だったのに対して、2025年5月は約3万1000台となっており、これはアジア、中東、中南米など他の地域を大きく上回っています。

2025年下半期に向けて、中古車輸出市場はどうなる?

ではここからは、これらのデータを踏まえて、リセバ総研所長の床尾一法に中古車輸出動向の基本と今後の見通しについて解説してもらいましょう。

リセバ総研所長 床尾一法

リセールバリュー総合研究所 管理運営者

中古車情報誌の最大手での制作、自動車メディアの立ち上げ責任者などを経験。20年以上マーケティングのインハウスやコンサルタントで活動。2017年に人材開発へ転向。対話空間や学習空間の設計、言語化と構造化設計を得意とする。CompTIA CTT+ Classroom Trainer Certification取得。2023年より、マーケティングに復帰。中古車マーチャンダイジングの研究とともに、メディア運営設計を担っている。実は元カメラマン。

当記事における発言内容は、床尾一法の個人的な主観・考察によって構成されています。公式の見解ではございませんのでご注意ください。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    まずは、過去5年ほどの輸出動向について、円安が進行した2022年以降で輸出台数・輸出金額ともに大きく成長していますが、どのように見ていますか?

  • リセバ総研所長 床尾一法

    円安が輸出増加の追い風になっているのは確かですね。それによって海外の事業者を含めて日本の中古車市場に参入するプレイヤーが増えたことで輸出需要の高まりが続いていると思います。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    全体の動きを見ると、毎年1月にガクンと輸出台数が落ちているのですが、これはどのような理由によるのでしょうか。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    各国の中古車輸入には年式の規制があるので、12月から1月の年度が変わるタイミングで手続きが跨いでしまうと、輸出しようとする輸入車の年式も1年ずれてしまいます。

    かといって中古車の在庫を数ヶ月も抱えているのはリスクもコストも高く、12月から3月に掛けては中古車の取引を避けるようです。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    全体の動きでは円安が大きな追い風になっている一方で、短期的に見ると中古車輸出動向にはどのような要素が影響しているのでしょうか。

    今後の動向に影響を与えそうなポイントについて教えて下さい。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    もちろん今後の為替動向は大きなポイントですが、それ以外に影響を与えるのは海外の紛争地域における情勢ではないかと思います。不幸にも戦果に巻き込まれることになると、その地域での船便も止まってしまいます。

    日本から中古車を世界各国に届ける手段は船便しかないため、海運の状況によって輸出台数に変化が生まれる可能性はあります。

    ただし、全体では概ね右肩上がりで成長していて、この勢いは今でも衰える気配を見せていないと考えています。
    一方で、輸出が旺盛になると国内で販売する中古車在庫の確保が難しくなっていくというジレンマも生じるため、国内の中古車販売店としては在庫の確保が苦しいところです。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    ところで、統計データから見えてこないものとして「どんなクルマが輸出で人気なのか」という点があると思いますが、中古車輸出にそのようなトレンドというのはあるのでしょうか。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    最近(2025年夏季時点)ではスバル フォレスター、トヨタ ライズ、ダイハツ ロッキーといった車種が人気ですが、ハイブリッド車の人気が高い国もあればガソリン車の方が好まれる国もあったりと、国や地域によって人気の中古車は異なってきます。

    日本国内での流通相場と各国の規制に照らし合わせて、バイヤーさんにとって輸出の価値が高い車種は常に変化します。

スバル フォレスターのリセールバリューデータ

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  • リセバ総研所長 床尾一法

    日本国内から見たときに、輸出ニーズのあるクルマというのは「今どこの国や地域でどの車種の需要が高まっているか」に依存します

    そのトレンド変化も早くて、各国の規制に沿って常に車種が入れ替わりますが、輸出ニーズが高まると日本国内での買取査定の相場にも即時に影響があるので、クルマの売却を検討する際には「自分のクルマがいま市場でニーズがあるのか=売り時なのか」をリセバ総研のデータで探ってみるのもよいのではないでしょうか。