【ガソリン価格の最新動向(3)】ガソリン補助金はこれからどうなる?選択を迫られる政府と政策

近年、日本のガソリン価格は歴史的な高水準で推移しており、いわゆる“ガソリン補助金”など政府による大規模な価格介入も行われています。ガソリン価格の高騰は、クルマの維持費はもちろん、物価高の一因ともなり、私たちの生活の大きな負担となっています。
 
ガソリンの価格は、今後どのように動いていくのでしょうか。この記事は3回に分けて、ガソリン価格の構造や補助金政策の変遷などを分析し、その多角的な影響とガソリン価格の最新動向を読み解いていきます。
 
第三回となる今回は、日本のガソリン補助金の問題点を整理し、日本のエネルギー政策の将来と、ガソリン価格の予測について考察します。

【外部ライター】YA

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電車移動が基本の都内で生まれ育ってきたため、いままで触れてこなかったクルマの知識を猛勉強。自動車市場のアレコレを調べながらレポートします。

日本のガソリン政策と世界の動き

「トリガー条項」とは

現行のガソリン補助金に代わる価格抑制策として、最も頻繁に議論されるのが「トリガー条項」の凍結解除です。

トリガー条項とは、レギュラーガソリンの全国平均小売価格が3か月連続で1Lあたり160円を超えた場合に、ガソリン税の暫定税率分25.1円/Lの課税を自動的に停止する制度のことをいいます。

ガソリン税のトリガー条項は、2010年度の税制改正で導入されましたが、東日本大震災の復興財源を確保するための特例法によって凍結されました。その後、平均小売価格が160円を超えて推移している現在まで暫定税率の課税は停止されていません。

トリガー条項では、ガソリンの全国平均小売価格が3か月連続で130円を下回った場合、課税を再開するという停止条件も定められています。

  • 【外部ライター】YA

    しかし、近年のガソリン価格の水準をみると、一度トリガー条項の凍結が解除されれば、130円を下回ることは非現実的であり、事実上の恒久的な減税となる可能性が極めて高いと考えられています。

「トリガー条項」の凍結を解除するリスク

トリガー条項の凍結解除は、ガソリン補助金に代わるエネルギー政策の出口戦略とする意見もありますが、その発動には多くの問題点が指摘されており、議論は行き詰まりをみせています。

  • 【外部ライター】YA

    ここでは、トリガー条項の凍結が解除された場合のリスクを整理しました。

事実上の恒久減税となる
前述の通り、130円という停止条件は現実的ではなく、一度トリガー条項を発動すれば恒久的な減税措置となり、財政に長期的な穴を開けることになります。代替の財源を確保するために、新たな税金が課され、消費者の負担となる可能性も考えられます。

1兆5千億円の税収減
トリガー条項が発動され暫定税率の徴収が止まると、国と地方を合わせて年間1兆5千億円もの税収が失われると試算されています。これはガソリン補助金に劣らない規模で財政を圧迫する減収となり、代替となる財源の確保も困難です。

灯油や重油は対象外
課税停止の対象は、ガソリンと軽油のみで、灯油や重油は対象外となっています。暖房に灯油を使う寒冷地の住民や、漁船の燃料に重油を使う漁業従事者など、ガソリンと同様に燃料の高騰に苦しむ消費者は、トリガー条項発動の恩恵は受けられず、新たな不公平感を生む要因となります。

市場の混乱
暫定税率の徴収が停止された場合、ガソリン小売価格は大幅に値下がりします。これにより、トリガー条項の発動直前に買い控えが起きたり、発動直後に給油する人が詰めかけたりと、全国のガソリンスタンドで混乱が起きる恐れがあります。

ガソリン価格高騰に対する各国の政策

日本のガソリン補助金政策と比較するため、他国のガソリン価格高騰への対応を確認してみましょう。

ドイツ
「救済パッケージ」と称する燃料高騰・物価高対策を行っています。具体的には、エネルギー税の時限的な引き下げ、公共交通機関の割引チケットの配布、児童手当の拡充、年金受給者や学生への一時金の給付などが実施されました。

同時に、ガソリン、軽油、灯油など、化石燃料の価格引き上げを容認することで、脱炭素の道筋は維持しており、短期的な救済策と長期的な目標のバランスをとる姿勢を見せています。

フランス
日本と同様に化石燃料への補助金の規模が大きく、改革に苦慮しています。最近では、トラクターなどの農業機器に使う軽油への補助金の撤廃を計画したものの、農業従事者の反対を受けて撤回する事態が起きました。これは、一度導入した補助金の改革がいかに困難であるかを示しています。

イギリス
2022年に、燃料税の一時的な引き下げ(1Lあたり5ペンス)を導入しましたが、この減税もくり返し延長されています。イギリスでの議論の焦点は、電気自動車(EV)への移行による燃料税の税収の長期的な減少にどう対応するか、という未来の課題に移っており、走行距離に応じて税金を課す走行税のような新たな税制の導入などが検討されています。

国際機関が提言する最善の方法

  • 【外部ライター】YA

    OECD(経済協力開発機構)や国際エネルギー機関(IEA)国際機関は、日本のような非効率な化石燃料に対する補助金を段階的に廃止し、燃料の高騰や物価高に対して最も脆弱な低所得層や産業に的をしぼった支援に切り替えるべきだと一貫して提言しています。

価格を抑制している補助金が廃止されれば、消費者の生活への負担は大きくなります。

一方で、化石燃料の価格が高ければ、再生可能エネルギーや省エネルギーへの関心は高まります。これによりカーボンニュートラルの取り組みが促進されるというのが、国際機関が描く最善の方法として提言されているのです。

ガソリン価格の予測と将来的なエネルギー政策

ガソリン価格の予測

将来的にガソリン価格はどのように動いていくのか、短期・長期の予測をまとめました。

【短期予測】値上がり傾向が続く可能性が高い

産油国の原油増産の延期、中国経済の停滞など、ガソリンを取り巻く情勢は不透明で、今後もガソリン価格は不安定な状況が続くとみられます。

国内のガソリン小売価格の最大の不確定要素は、補助金政策の行方であり、補助金が完全に廃止されれば、急激な価格上昇を引き起こす可能性が高いでしょう。国際的には、原油価格の高騰の要因となってきた、産油国の生産量調整や中東の情勢などが、今後の価格にも大きく影響する見込みです。

  • 石油価格などの調査や情報提供を行っている石油情報センターは、産油国が生産量の据え置きを決定したことなどから、今後も価格は高水準を維持する可能性が高いとの見解を示しています。

【長期予測】考えられうる安定化・高騰・下落の展開

今後を見据えた長期予測では、電気自動車(EV)の普及、原油価格の動向、エネルギー政策の進捗などの前提によって、ガソリン価格の動向も大きく分岐します。ここでは、安定化・高騰・下落の3つのパターンを考えました。

  • 【外部ライター】YA

    1.高水準で安定?
    電気自動車(EV)の普及を初めとする脱炭素化によって、ガソリン需要の減少が進んだ場合、供給量が調整されることで原油価格はゆるやかに上昇する可能性があります。

    また、ガソリン車への規制が強化されたり、炭素税が導入されたりといった急進的な脱炭素政策が進めば、ガソリン価格がさらに高騰する可能性も高まります。

    2.国際情勢の混乱などにより高騰?
    米国の関税政策や移民問題、民族問題など、国家間の諍いは絶えません。ひとたび国際情勢に混乱が起これば、原油価格の高騰は避けられません。

    3.原油の需要が減少して下落?
    電気自動車(EV)や代替燃料の技術革新が予想以上に進んだ場合など、原油の需要が大幅に減少すれば、下落する可能性もあります。

これからのエネルギー政策における2つのテーマ

これからのエネルギー政策は、長期的に2つの大きなテーマに向き合うことになります。

第一の課題は、脱炭素化の推進です。カーボンニュートラルへ向けた、電気自動車(EV)へのシフトは逆行できない国際的な潮流であり、長期的にはガソリン市場が縮小していくものとみられています。ガソリンの消費を補う補助金制度は脱炭素との矛盾を孕んでいます。

第二の課題は、EVシフトに伴う大幅な税の減収です。現在、ガソリン税などの燃料関連の税収は、年間5兆円にも上るといわれていますが、電気自動車(EV)が普及すれば、巨大な財源は損なわれていきます。失われた税収をどのように補填するのか、この問題に対していまだ明確な答えが見つかっていません。

  • 【外部ライター】YA

    現在の日本のガソリン補助金政策は、化石燃料の消費を支援するものとなっています。

    長期的に見ると、脱炭素化の推進と矛盾する構造になってしまいます。

選択を迫られているエネルギー政策

数兆円規模に膨れ上がったガソリン補助金は、短期的な価格抑制という一定の成果を上げた一方で、巨額の財政負担、化石燃料の市場構造、長期的な脱炭素目標との矛盾など、解決しなければいけない問題が山積してます。
日本の政府も暫定税率の見直し議論とともにどのような政策をとるのか、ガソリン補助金をこのまま継続させるのか、財政的に大きな痛みを伴うトリガー条項を発動させるのか、あるいはガソリン価格の高騰を容認するか、困難な選択を迫られています。

  • 【外部ライター】YA

    下される決断は、単にガソリンスタンドの価格表示だけでなく、今後の日本の財政と環境に対する取り組みを左右する、強い影響力を持つことになるでしょう。

    はたしてどのような展開になるのか?

    自動車が生活の基盤である生活者にとって、目が話せない問題です。