【ガソリン価格の最新動向(1)】日本の小売価格の複雑な構造と高騰が続く背景を知る

近年、日本のガソリン価格は歴史的な高水準で推移しており、いわゆる“ガソリン補助金”など政府による大規模な価格介入も行われています。ガソリン価格の高騰は、クルマの維持費はもちろん、物価高の一因ともなり、私たちの生活の大きな負担となっています。ガソリンの価格は、今後どのように動いていくのでしょうか。この記事は3回に分けて、ガソリン価格の構造や補助金政策の変遷などを分析し、その多角的な影響とガソリン価格の最新動向を読み解いていきます。
第1回となる今回は、ガソリンの小売価格について分析します。ガソリン価格の最新動向を考えるためにも、小売価格を構成する複雑な要素や、高騰が続く背景を知っておきましょう。

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目次
日本のガソリン価格の複雑な構造
日本のガソリン小売価格は、国際市場の動向から国内の税制に至るまで、複数の要因が重なる複雑な構造をしています。価格を決定づける要因をそれぞれ詳しくみてみましょう。
原油価格と為替レート
国内のガソリン価格は、原油価格や為替レートといった世界市場の動向に大きく左右されます。
原油価格
日本のガソリン小売価格の土台となるのは、輸入される原油の価格です。日本は原油のほぼ全量を輸入に依存しているため、原油価格の指標とされるWTI原油やブレント原油といった国際的な原油先物価格の動向が、国内の価格に直接的に反映されます。
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【外部ライター】YA
例えば、2020年の新型コロナウイルス感染拡大による需要の急激な減少により、WTI原油の先物価格が史上初のマイナスを記録したことや、2022年のロシアによるウクライナ侵攻後の価格高騰は、世界市場の混乱が日本のエネルギー安全保障を即座に揺るがすことを示した代表的な事例と言えます。
為替レート
原油価格に並んで小売価格を左右する重要な要因となるのが、米ドル/円の為替レートです。原油は米ドルで取り引きされるため、円安が進行すると、たとえドル建ての原油価格が安定していても、円建てでの調達コストが上昇します。近年の急速な円安は、原油価格の高騰と並行して、国内のガソリン価格を高騰させる大きな要因となってきました。
国内の多層的な税制
最終的なガソリンの小売価格には、多層的に課された税金が含まれています。ガソリンに関する税金には、ガソリン税、石油税、地球温暖化対策税などがあります。
ガソリン税と暫定税率
ガソリンにかかる税金の主体となるのが、ガソリン税とも呼ばれる、揮発油税(国税)と地方揮発油税(地方税)です。
2025年8月現在、ガソリンには1リットルあたり53.8円のガソリン税が課されていますが、その内訳は本来の税率分28.7円と、特例として上乗せされた暫定税率分25.1円となっています。
上乗せ分の税率は道路財源の確保などを理由に導入されたものですが、ガソリン税が用途を限定されない一般財源化された現在まで50年以上に渡り維持されています。
石油石炭税、地球温暖化対策税
ガソリンにはガソリン税のほかにも、石油石炭税、地球温暖化対策税などが課されています。
これらの税金は、再生可能エネルギーの拡大などの温暖化対策の財源として課されるもので、石油・石炭・天然ガスなどの化石燃料などが課税対象です。ガソリン価格に含まれるものについては、単に石油税と総称されることもあります。
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【外部ライター】YA
ガソリン税や石油税は、原油価格の変動に関わらず一定額が課されるため、原油価格が下落した局面でも、小売価格が下がりにくい構造を生み出す要因となっています。
「二重課税」ではないのか?
日本のガソリンに関する税制における最大の論点のひとつとなっているのが、「二重課税」ではないのかという点です。
ガソリンスタンドで給油した場合、消費者が支払うガソリンの本体価格にはガソリン税や石油税が含まれています。この価格にさらに10%の消費税がかかるため、「税金に税金を課す」構造になっているのではないか?と指摘されています。
厳密には、ガソリン税はガソリンを製造する事業者に課税されており、それがガソリン価格に転嫁され、消費者は購入時に消費税を負担している構造となっています。そのため法律上は二重課税ではありません。あくまで経済の構造的に二重課税の形になる点が論争となっています。
近年の小売価格の推移と高騰の背景
日本のガソリン小売価格は2021年後半から顕著な上昇傾向を示し、高止まりが続いています。ここでは、近年のガソリン価格の動向と、高騰が続く要因をまとめました。
2021年以降の小売価格の推移
2021年以降のガソリン小売価格は、一時的な安定と上昇をくり返し、変動が大きくなっています。
レギュラーガソリンの全国平均価格は、2021年7月には158.1円/1Lでしたが、2022年3月には174.6円/1Lに達しました。その後、政府の補助金が導入され、価格は一時的に安定したものの、2023年後半から再び上昇に転じ、2023年9月には月平均で183.5円という歴史的な高値を記録しています。
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2024年に入っても価格は高止まりとなり、補助金の段階的縮小が議論される中、2025年初頭には再び185円/1Lを超える水準に達しました。2025年6月時点のガソリン価格は、新たな定額補助金制度の効果もあり、172.8円~174.2円/1L程度で推移しています。
ガソリン価格の変動は、消費者の生活から企業活動まで、広く影響を及ぼしています。
ガソリン価格の高騰が続く背景
前述したように、ガソリン小売価格の変動は、原油価格と為替レートの動きと密接に連動しています。以下の表は、主要な経済指標となる「ガソリン小売価格」「WTI原油現物取引価格」「為替レート」の過去2年間のデータを、月毎にまとめたものです。
年月 | レギュラーガソリン全国平均小売価格 (円/L) | WTI原油現物取引価格(USD/バレル) | ドル/円 為替レート (円/USD)※終値 |
---|---|---|---|
2023年7月 | 174.3 | 76.07 | 142.25 |
2023年8月 | 182.9 | 81.39 | 145.53 |
2023年9月 | 183.5 | 89.43 | 149.34 |
2023年10月 | 175.5 | 85.64 | 151.70 |
2023年11月 | 173.7 | 77.69 | 148.26 |
2023年12月 | 175.0 | 71.90 | 141.04 |
2024年1月 | 175.3 | 74.15 | 147.24 |
2024年2月 | 174.5 | 77.25 | 149.92 |
2024年3月 | 174.4 | 81.28 | 151.34 |
2024年4月 | 174.8 | 85.35 | 157.72 |
2024年5月 | 174.8 | 80.02 | 157.28 |
2024年6月 | 174.8 | 79.77 | 160.89 |
2024年7月 | 175.6 | 81.80 | 149.88 |
2024年8月 | 174.6 | 76.68 | 146.17 |
2024年9月 | 174.6 | 70.24 | 143.59 |
2024年10月 | 174.9 | 71.99 | 152.03 |
2024年11月 | 174.7 | 69.95 | 149.77 |
2024年12月 | 176.9 | 70.12 | 157.20 |
2025年1月 | 182.9 | 75.74 | 155.20 |
2025年2月 | 184.5 | 71.53 | 150.62 |
2025年3月 | 184.4 | 68.24 | 149.91 |
2025年4月 | 185.6 | 63.54 | 142.96 |
2025年5月 | 180.9 | 62.17 | 144.04 |
2025年6月 | 172.9 | 68.17 | 144.03 |
※WTI原油現物取引価格(USD/バレル):EIA公式(U.S. Energy Information Administration)レポートを基に作成
※ドル/円 為替レート (円/USD):カブタン 米ドル/円レート終値を基に作成
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【外部ライター】YA
ガソリン価格は、原油価格の変動から約1か月遅れて小売価格に反映されるのが一般的といわています。この表からも、WTI原油価格が上昇した時期や、円安が急激に進行した時期に、国内のガソリン小売価格も後を追うように上昇している様子が分かります。
例えば、2023年夏から秋にかけてのガソリン価格の高騰は、WTI原油価格が90ドル/バレルに迫る上昇を見せた時期と一致しています。同様に、2024年後半から2025年にかけての価格上昇は、為替が1ドル150円を超える円安水準で定着した影響が大きいことが分かります。
こうしたデータは、日本のガソリン価格に対する外部要因の影響の大きさを示しています。
(つづく)