2025年度は自動車の電動化と自動運転に注目〜BEV一択から多様化の時代へ〜

欧州連合(EU)が2022年に合意した「2035年にガソリン車など内燃機関搭載車の事実上の販売禁止」 は世界の自動車業界を震撼させました。欧州の自動車メーカーはこぞって完全 BEV 化へのロードマップを公表し、ガソリンエンジンやディーゼルを切り捨てる姿勢をアピール。しかし、現在では潮流が大きく変化し、BEVへの舵切りも転換を迫られています。

【自動車のプロ】菰田潔

モータージャーナリスト

1950年生まれ。自動車レース、タイヤテストドライバーの経験を経て、1984年から、新型車にいち早く試乗して記事を書くフリーランスのモータージャーナリストになる。日本自動車ジャーナリスト協会会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。JAF交通安全・環境委員会委員。著書に『あおり運転 被害者、加害者にならないためのパーフェクトガイド』(彩流社)、『あなたの“不安”をスッキリ解消! クルマの運転術』(ナツメ社)など。

BEV(電気自動車)一択から多様化へ方針転換する欧州

2025年度のトレンドとして、今回はBEVを取り巻く状況の変化と自動運転に注目しています。

しかし、補助金が尽きたところで販売が急減速してしまいます。結果として、CNF(カーボンニュートラル燃料)を使用することを条件に、内燃機関車の新車販売を認める方向に軌道修正しました。

  • 【自動車のプロ】菰田潔

    電動化の旗は降ろさないものの、BEV一択からハイブリッドやエンジン車なども共存する方向に転換したのです。​​

トヨタが描くマルチパスウェイ戦略

トヨタが以前から掲げていた「マルチパスウェイ戦略」が結果的に正しかったことが証明されました。バッテリー電気自動車(BEV) だけではなく、ハイブリッド(HEV)、プラグインハイブリッド(PHEV)、水素燃料電池(FCEV)など、さまざまなパワーソースを持つ自動車を同時に開発していく戦略です。

市場ごとに異なるエネルギー事情や顧客ニーズに合わせて開発し、何らかの思惑や技術を押し付けない姿勢はビジネスとしてもうまくいっています。実際に北米ではハイブリッドが好調ですし、多様化こそが持続可能なビジネスモデルであることが、EUの方向転換により裏付けられました。​​

自動運転の実情は?

電動化と並んで、自動運転も注目しているトレンドの一つです。4月にトヨタとグーグルの持ち株会社・アルファベット傘下のウェイモが、自動運転分野での提携で基本合意したと発表するなど、各社が実用化に向けた開発にしのぎを削っています。ウェイモはすでにアメリカで自動運転タクシーを商用化しており、路上におけるデータを豊富に集めています。

多くの方がイメージする自動運転は「ドライバーがいなくても目的地を設定すれば車が勝手に安全に運んでくれる」という姿ではないでしょうか。

  • 【自動車のプロ】菰田潔

    レベル5と位置づけられる無人完全自動運転車が2030年代には実用化されるのではないかとの予測もありますが、実証実験を現場で見ていると、小学生が一人で自動運転の車で塾に行ける時代はすぐには訪れないと感じています。

世界的にみるとアメリカなどで自動運転タクシー(ロボタクシー)は走り始めていますが、日本では高速道路の入口のETCのゲートと目的地のETCゲートの間を自動運転で移動するのが限界かもしれません。

  • 【自動車のプロ】菰田潔

    理由は“100%事故なく走る自動運転”を想像している方が多く、1件でも事故を起こすのは許さないという社会全体の意識を感じるからです。今のままでは、多くの方がイメージする完全無人の自動運転車が走り回る社会の実現は難しいでしょう。

否定的な論調に感じたかもしれませんが、私は決して自動運転を否定しているわけではありません。自動運転に関連する技術開発は、一般のドライバーが運転する際の安全や利便性に役立つものがあります。居眠りや脇見を検知して警告してくれたり、前の車に追従して走ったり、車線を守って走れるようになります。事故を防ぐためにドライバーの補助をしてくれるのが自動運転の技術なので、ますます発展してほしいと願っています。

  • 【自動車のプロ】菰田潔

    私自身は運転そのものを楽しみたいタイプですが、長距離ドライブでは全車速追従式アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)を活用しています。

スピードと車間距離を設定すれば、スイッチを押して軽くハンドルを持っているだけで、ハンドルを切って車線を守りながら前の車に追従して走ってくれるので、疲れにくいです。疲れにくいということは、事故を防ぐことにもつながります。

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BEVと自動運転の未来

BEV も自動運転も未来の車の主役になる可能性を秘めた技術で、環境問題や高齢化社会への対応など多くの恩恵をもたらす可能性があります。しかし技術的にも社会的にも主役になるにはまだまだ時間がかかりそうです。

日本ではBEVの台数がまだ少なく、充電のインフラも整っていません。BEVや自動運転を進展させるためには、技術開発だけではなく社会全体の合意形成も必要です。メーカーやユーザーだけではなく、各国の思惑も関係してきます。過度な期待は禁物ですが、進展を見守っていきたいと思います。

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