最新の中古車市場と相場情報をプロから学ぶ 中古車のプロに聞いてみた(第17回):2025年総括!輸出に翻弄された世界的に見て安価な日本の中古車市場

リセバ総研所長 床尾一法

リセールバリュー総合研究所 管理運営者

中古車情報誌の最大手での制作、自動車メディアの立ち上げ責任者などを経験。20年以上マーケティングのインハウスやコンサルタントで活動。2017年に人材開発へ転向。対話空間や学習空間の設計、言語化と構造化設計を得意とする。CompTIA CTT+ Classroom Trainer Certification取得。2023年より、マーケティングに復帰。中古車マーチャンダイジングの研究とともに、メディア運営設計を担っている。実は元カメラマン。

【中古車相場のプロ】〝OKB〟

中古車マーチャンダイジング部門管理職

大学生時代は自動車研究部でジムカーナや耐久レースに没頭し、2009年入社に旧ガリバーインターナショナル(現IDOM)入社。 ガリバーの店舗で営業職を2年経験した後、本社に異動。電話によるクルマ買取サービスを2年担当する。その後、マーチャンダイジング部門で中古車買取価格の設計、オークションでの売却担当などを歴任。 現在はマーチャンダイジング部門の管理責任者として、中古車の仕入れや商品構成の設計を統括する。お客様のご来店を促進させる在庫構成を設計する、中古車のスペシャリストだ。

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輸出業者の“爆買い”が中古車相場の高騰を生み出した2025年

※当記事のインタビューは2025年12月中旬に行われています。
※当記事の内容は、各担当者の経験に基づく主観的な感想や予想を中心とした個人の見解です。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    もう少しで2025年も終わりですね。

    年末の総括としてまずは今年の中古車市況を振り返ってみたいと思います。

    2025年は中古車業界にとってどんな年になりましたか?

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    まず、需要が戻った1年だったと思います。

    中古車だけでなく製造業やいろんな産業で需要が伸びているようですけどね。

    小売の結果に関しては上場企業としての公表値があるので言及は避けますが、中古車仕入れの裏方としての立場から見ると、業者間での中古車取引は需要が伸びたと感じています。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    業者間取引における中古車相場が想定ほど落ちなかったと。

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    落ちなかったですね。

    例によって中古車輸出市場が相場を牽引したような感じです。

    ただ、当初は今年の後半には中古車の相場は下がると思われていました。
    ですが、為替は155円あたり(円安)を維持しつつ、ガソリン価格が年末にかけて安くなっていった。そういった影響もあって、むしろ今年の後半に国内外で需要が伸びました。市場的にはちょっと混乱していますね。

    中古車市場全体で見ると、在庫確保の競争は厳しくなっていく一方ですし、この(輸出業者が牽引する)市場の高騰についていくパワーのある事業者はあまり多くはありません。

    需要は伸びて市場が高騰しているにもかかわらず、国内の中古車取引業者はあまり盛り上がれない状況だったといえるのではないでしょうか。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    「パワー」というのは、在庫を仕入れる資金力でしょうか?

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    そうですね。

    在庫を仕入れたいけれど、やはり海外の輸出業者の資金力には勝てない部分もありますし、彼らは(日本国内の)不動産の爆買いと同じような考え方で、「ここまで資金を突っ込んで買っておけば、(輸出で)儲けられる」という目一杯のラインまで投資します。

    一方で、私たちのような一般消費者向けの国内販売店にとって「在庫は抱えれば抱えるほどリスク」となるので、仕入れるパワーの格差は(相場の上昇で)どんどん強くなっているのではないでしょうか。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    そういえば前回、2025年秋のインタビューでOKBさんは「今年は在庫はできるだけ確保しておいたほうがよい」という話をされていましたね?

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    いや、確かにそうなんですよ。当初はそう考えていました。

    自分の場合、2025年秋の段階では、年末にかけての相場は例年よりも「下がらないだろう」という予測はしていたものの、まさかここまで「上がる」とは思っていませんでした。

    ただし、これはたまたま今年が良くなっただけとも言えます。

    来年の相場はどうなるかわかりませんが、ここまで高騰した分、どこかで下がるタイミングは必ず来るわけです。

    高い相場の中で仕入れを強めると、相場変動による在庫保有のリスクはどんどん強くなっていきまから、在庫確保にも慎重になります。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    改めてこの秋の中古車相場の動きを整理しますね。

    前回のインタビューでは「この秋は、例年のように相場は下がらない。価格は維持されるだろう。」という予測をされていて、実際にそれがピタリと当たって11月下旬くらいまでは高値が維持されていた。

    ところが、中古車流通市場のでの需要が想定よりも高まり、相場が上昇に転じた。
    というところでしょうか?

    さすがに12月に入ると下がりましたが・・・
    こうした動きの主要因というのは、秋から年末にかけて収束するはずの海外輸出需要が落ちなかったためでしょうか?

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    そういうことですね。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    中古車の海外輸出というのは、船便や手続きの関係で10月頃には収束していくというのがこれまでの動きでしたが、今年は動きが全く違っていたということでしょうか?

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    これまでのような、年末にかけて輸出が止まる傾向は多少あったとは見ています。

    しかし今年の場合、どこかが中古車を買わなくなったとしても、別の輸出事業者が買っていったという状況でした。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    では、年を跨いでも(年式が変わって)いいという判断で中古車を買っている輸出事業者もいたということですね?

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    来年(2026年)分の中古車在庫を買っている事業者はいましたね。

    税制の仕組みや関税の扱いは国によって異なりますが、いわゆる先買い(買い手が付く前に在庫を仕入れること)はあまり良くないというのが輸出業では鉄則のはずです。

    ところが今年は中古車相場も高騰し、年末にかけて落ちるはずの相場もそれほど落ちない。

    「どんな状況だろうと中古車は買うことになるわけだし、来年もそんなに相場は下がらないならば今年のうちに買っちゃおう。」という判断をした輸出事業者も多かったんじゃないですかね。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    ということは、この年末にかけて在庫確保にパワーを使っているのは主に輸出業者で、在庫を保管するコストがある程度掛かったとしてもクルマを買っておいたほうがいい、という状況になっているんですね。

    これまでは見られなかった状況だと認識したのですが・・・

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    うーん・・・これまでにはない動きですね。

中古車市場に起きた“異常事態”の背景にある要因とは

  • リセバ総研所長 床尾一法

    どうして今年はこんな状況になってしまったんでしょうか?

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    ひとつは国内市場における慢性的な在庫不足です。

    そして輸出事業者に今まで日本と取引していなかった国がどんどん参入してきている

    結果的に(国内販売向けに)買えるクルマがどんどん枯渇しているという状況ですね。この海外勢の参入には為替相場も影響しています。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    特に輸出業者に売れている車種はどのようなタイプでしょうか?

    傾向はありますか?

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    新しいクルマから極端に古いクルマまで幅広く買われていますが、特にその中間のゾーンの在庫が売れていて、市場での流通量が減っていると思います。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    国内の中古車販売で最も購入メリットの大きなゾーン、中古車らしいコスパのクルマたちということですね。

    ということは、そうした売れ筋のゾーンのクルマは、販売店が自社で(下取りなどで)買い取っても中古車オークションに流さずに自社で再販売するという流れも強くなってきているのでしょうか?

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    そうですね。この市況だと自社でそのまま売れちゃいますからね。

    中古車はオークションでの相場が高騰していますが、店頭に並べても需要が高くて売れる。自社買取の在庫をそのまま店頭販売するというケースは増えていると思いますね。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    価格高騰の要因は需要に対する在庫不足、それ以外の要因はない、という状況でしょうか?

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    他にないですね。

    在庫不足が全てです。

    そもそも中古車オークションに出てくるクルマの台数自体は、毎年増えてはいるんです。ですが、品質が以前と違います。
    年式が高くて走行距離も少なくてクルマの状態もよいという高品質な中古車は、高くてなかなか買えない。

    逆に不人気のカラーで走行距離も多ければ高年式のクルマでもなんとか買えますが、高品質でコスパの高い中古車在庫を確保する上では、そういった商品ゾーンは在庫の本命ではないわけです。

    では、年式が古くても走行距離も多くても、商品力の高い特徴を持ったクルマを手頃な価格で探せないかという風向きになりますが、そうなると今度は以前20万〜30万円だった中古車が今や50万〜60万円まで相場が上るという展開になります。

    こうやって今年の後半はどんどん中古車相場が上昇しました。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    確かに、リセバ総研のデータを見ても、年式の古いクルマの価格が上がっていますね。

    今まで評価されなかったような車種や低年式の中古車にも需要が生まれつつあるということですね。

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    海外の事業者も多様化が進んでいて、さまざまな国が「日本の中古車」を求めています

    その結果どんどん価格競争で高騰が進んでいってしまっているというのが、今現在の状況だとみ捉えています。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    ここまで日本のクルマに需要が集まっているのは、やはり円安基調で進んでいる為替相場の影響ですね。

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    そうですね。

    それに海外と物価を比較すると、日本のクルマって安いんですよ。

    相場が高騰している現在でも、輸入車も含めて高品質なクルマが世界で一番安く買えると思います。
    それで需要が集中してしまっているんですね。

    この状況は、仮に為替相場が円高に転じたとしても、大きく変わることはないと考えてます。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    他のプロダクトもそうですが、つくづく日本は世界的に見て「安価な国」になったんですね。

    外貨獲得にはメリットもありますし、「高品質」という点は誇りたいですが。

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    本当にそんな感じですよね。

当初は厳しくなると予想していた国内中古車市場の動きは?

  • リセバ総研所長 床尾一法

    ここからは、日本国内の市場についても振り返りたいと思いますが、今年1年の国内市場はどのように捉えてらっしゃいますか?

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    先程お話したようなことがありつつも、なんだかんだと需要と供給がうまく回っていたと思います。

    正直、もっと厳しくなるのかなと思っていました。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    ほう。厳しくなると思っていた要因は?

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    ここ数年、我々だけでなく中古車業者全体に対して消費者の不信感が生まれている状況でした。

    新車への指向が強まる、あるいは中古車を含めクルマ離れが進むかな?と思っていましたが、蓋を開けてみると今年は中古車への需要がまた戻ってきていました。

    市況が良くなっているというまでの感触はありませんが、国内の中古車市場は堅調ではないかと。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    国内の中古車市場が踏ん張れた要因には、やはり物価上昇の影響があるということなんでしょうか?

    国外からは安価に見えても、国内の視点ではモノが高くなったと強く実感した1年でしたが・・・

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    そう考えられます。

    物価上昇が中古車への需要に紐づいた可能性は高いですね。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    ちなみに、リセバ総研によるアンケート調査で「今年の年末に断捨離する予定があるか?」という質問をしたところ、半数ちかくの人が「断捨離しない」と回答しているます。

    他の調査結果も含めると、フリマアプリや中古購入の敷居は大きく下がりつつも、自分が使っている中古品をすぐに手放すというよりも長く大切に使うという傾向が強くなっている、と捉えることができます。

断捨離の意向についてのアンケートはこちら
  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    なるほどぉ・・・

    これは各自動車メーカーの戦略次第だと思いますが、いまはハイブリッドやPHEV、電気自動車も含めてある程度の性能・品質のあるクルマが出揃ってきている状況で、今後はある程度クルマのコストを抑えて安く作ったり、加えて年間の製造台数もある程度制限していくという方針なんじゃないかと思います。

    製造して適価で供給する責任は果たしつつも、コストは抑えつつ利益が確保できる範囲で供給を絞る。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    要はコスパのいいクルマだけれど生産数を絞ることでメーカーが損をしないようにするということですよね。手が届くクルマだけど入手困難な状況になるという。

    これは他のジャンルを含め、日本のプロダクトで最近よく目にする状況ですね。カメラ関連もまさしくそうで、初回販売を逃すと半年待ちは当たり前で。

    PC関連のデジタルガジェットでも、クラウドファンディングによる製造販売が増えてました。
    製造ラインを整えたであろうはずのセカンドロットも出回らず、欠品のままとかもありますね。カタログ落ちしているわけではないんですが。

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    国産車は、かつて日本国内でめいっぱい売ることを想定して生産していたのでしょう。

    ですが、日本人にはもうそこまでの購買力がないし、どんどん売れるような状況じゃない。

    新車を生産しても大半は海外に輸出し、残りは日本国内で売る。こういう生産管理になるんじゃないでしょうかね。

    国内の需要はあるので値引きをする必要もなくなるし、購買力の高い海外市場を中心に売れれば、メーカーも問題ないわけですし。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    寂しい話ですが、日本のコンシューマー向け製品はどれもその傾向が強いと実感しますね、ジャンルを問わず。

    話を戻すと、そうなるといずれは中古車の流通量もどんどん減っていきますよね。

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    減るでしょうね。

    それでも中古車業界にはやれることがまだまだあると考えています。

    例えば、ランドクルーザー「FJ」のように、クルマをダウンサイジングして低価格化を図ったラインアップが加わると、新車の需要も逼迫しおそらく供給不足になるでしょう。

    そうなると、同じ価格帯で流通量の豊富なランクルプラドのようなクルマの中古車が狙う方も増えてきます。中古車を扱う側も、全国からコスパの高い高品質な中古車を探してきて、おすすめしやすくなる。
    そうやって価値の高い中古車を探して提供し続けることに、中古車業界の存続意義があるんじゃないかと思ってます。

    それに、これからは古いクルマの価値がどんどん上がっていくでしょう。そうなると、今まで二次流通までしかなかった中古車流通が、三次流通まで活況になるかもしれませんよ。

    つまり、車両だけではなく古いクルマの修理パーツなどの価値が上がるイメージです。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    良いものを長くとなると、これからはアフターサービスの価値が高まりそうですね。

  • 【中古車相場のプロ】〝OKB〟

    そうですね。

    そこが国内中古車ビジネスの道筋なのかもしれません。

(新年第18回につづく)

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