ジャパンモビリティーショーを振り返る:CORISM編集長とリセバ総研所長のクルマ放談
自動車業界で日々生まれる様々なトピックスについて、リセバ総研の“ご意見番”であり日本カー・オブ・ザ・イヤーの運営にも関わっている自動車webサイトCORISM編集長の大岡智彦と、リセバ総研所長の床尾一法の二人が本音で語り合う「クルマ放談」。11月の前半は、国内外の各メーカーから多種多様なコンセプトカー・プロトタイプカーが発表され様々な話題を生み出していた「ジャパンモビリティーショー2025」の会場を探索した二人で、改めて展示内容の印象を振り返ってもらいましょう。
自動車情報メディア「CORISM」編集長
リセールバリュー総合研究所 管理運営者
目次
ノスタルジーと先端技術の融合でEVへの関心は高まるか
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
改めて、ジャパンモビリティーショーの取材、お疲れさまでした!まずは、今年のモビリティーショー全体を通じて、どのような感想を持ちましたか?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
どのメーカーもBEVの展示が大半を占めていて「電動化」というのが圧倒的なテーマだった印象ですね。
いわゆる“ガソリン臭”のするようなクルマがどんどんいなくなっちゃった。
ただ、ホンダが展示していた、N-ONE e:をベースにブリスターフェンダーなどでカスタムした「Super One Prototype」のように、古典的なもの(かつて大人気だったクルマのコンセプトや価値観)と先進的なもの(EVなどの電動化技術)を融合したクルマは興味深いと思いましたね。

-

-
リセバ総研所長 床尾一法
確かに「Super One Prototype」は面白かったですね。かつて1980年代のヒット車「シティターボ」を意識したと思われるデザインですが、懐かしいですね、ホットハッチ。
ですが、EVが「EVらしい前衛的なデザイン」になると(ガソリン車世代のユーザーに)売れなくなるであろうことは想像できるのですが、一方でガソリン車を彷彿とさせるデザインでEVを作るということが、果たして最適解なんでしょうかね?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
EVユーザーの開拓という意味では、ひとつのアプローチなのかなぁ。
いま「懐かしい」とおっしゃっていましたが、その懐かしさを感じたところから「これなら乗ってみたいな」と思うんだろうなと。
全く新しいコンセプトのEVだと抵抗感があるかもしれないけど、往年の名車を再現した懐かしさから興味を持ってもらえる。EVに対する付加価値のような要素なのかもしれませんね。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
確かに、ちょっと興味を持ちましたもの。そのほかに、気になったクルマなどはありましたか?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
トヨタの「カローラコンセプト」はすごかった。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
どういうところがです?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
「なにコレ、カローラじゃないじゃん」って(笑)
カローラといえば、ベーシックなスリーボックスの“おじいちゃんのカローラ”じゃなきゃだめでしょうと。
それが、「え、お前どうしちゃったの?」っていうくらい、(歴代モデルと)血縁関係がまったくないような印象のクルマになってました。

-

-
リセバ総研所長 床尾一法
私にとっての「カローラ」といえば、かの有名なAE86様・・・ではなく4A-G型エンジンを搭載したAE92とAE101型のセダン(2ドアではなく4ドア)。
オーセンティックな「セダン」のデザインをイメージしますね。
バブル期のAE100系のカローラが、隙のない“カローラらしい”クルマのピークだったなという印象です。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
でもね、AE100系の頃にはもうカローラユーザーの高齢化は進んでいて、スポーツモデルを出して若返りをはかってもなかなか売れないという状況。
そう考えると、時は流れて(現行モデルから始まった)大胆なリブランド戦略をとったことは必然的な流れだったのかもしれませんね。
今回のコンセプトカーはリブランド戦略が成功しているなかで「もっとカローラをスポーティーに磨き上げよう」という意図があるのではないかな。
スポーティーなデザインのクルマは、(かつてスーパーカーブームを体験した)おじさん世代にも刺さりやすいので、ウケはいいでしょう、きっと。

-

-
リセバ総研所長 床尾一法
同じトヨタグループのダイハツ「K-OPEN(コペン)」も取り上げたいと思いますが、こちらはどんな印象を持ちましたか?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
今回、駆動形式がFF(前輪駆動)からFR(後輪駆動)になったけど、ようやく真っ当なスポーツカーの方向に進化したという印象ですね。初代コペンがFFで出てきた際には「なんでFF作ってんだ!」と思ったくらいなので。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
小型のFRプラットフォームって、随分前から話が出ていた記憶ですね。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
前回のモビリティーショーでもFRコペンのコンセプトカー「VISION COPEN」があったけど、今回の発表ではより現実味を帯びてきたというか、完成度は非常に高いですよね。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
市販モデルにかなり近いと思いますね。私も関心は高いです。ホンダのS660が生産終了になってしまったいま、コペンは唯一無二の存在になっていくでしょうね。あとは出るとウワサになっているカプチーノをスズキさんが復活させるかどうか。

新たな自動車ブランドとして再出発する「センチュリー」、その目的は?
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
今度は、私の方で気になったクルマを取り上げたいと思いますが、トヨタ自動車が「トヨタ」「レクサス」に続いて新たな自動車ブランドとして展開することになった「センチュリー」です。
かつてのセンチュリーは、日本を代表するショーファーカーとして確固たる地位を築いてきましたが、今になってセンチュリーが新たな自動車ブランドとして再出発する狙いって何なんでしょうか?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
リブランディングとグローバル展開が狙いだと思います。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
それは、レクサスブランドでも届かなかったアッパー層(高所得者層)を取りに行くと?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
そういうことだと思います。レクサスでは届かない顧客層。
ロールスロイスのような超高級車に乗っている層を狙っているのではないでしょうかね。

-

-
リセバ総研所長 床尾一法
センチュリーはロールスロイスの「ファントム」のような雰囲気ですね。あとはアメリカの大統領が乗る「ビースト」(キャデラック製大統領専用車両)のような、マッチョなオーラもあります。
このあたりのセグメントというのは、トヨタにとって狙う旨味があるのでしょうか?
それとも、このセグメントを取りこぼしをなくしたいという意図なのでしょうか?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
今までリーチできなかったターゲットにチャレンジしてみたいということなんだろうと思います。
これまでの「センチュリー」というのは、皇室や官公庁の公用車、大手企業の役員専用車で採用されてきた国内専用モデルだったけど、「どうせ作るならグローバルに展開したい」という意図もあるのでしょう。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
どうせなら、と。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
それと、そもそも「センチュリー」というのは(豊田章男会長の父の)豊田章一郎氏(2023年没)が社長のときに作られたクルマ。
トヨタを象徴するようなクルマでもあると思うんです。
豊田章一郎氏亡きいま、父が創った「センチュリー」の理念をリスペクトしつつも、これからの時代の新しい「センチュリー」を作りたいという熱意が、豊田章男会長にあったのではないでしょうかね。
ある意味、センチュリーは豊田家の象徴みたいな意味があるのかもしれません。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
その存在意義は継承しつつ、「センチュリー」というクルマの形は時代ごとに変化していっていいのではないか、という考え方なわけですね。
マツダ CX-5と三菱 デリカD:5、発売間近の2モデルの印象は?
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
次は、マツダの「CX-5」(欧州モデル)を取り上げたいと思います。
中古車としてのCX-5は中古車販売店で「必ず置いておきたいクルマ」のひとつで。
コスパがよく内装のデザインや外装の塗装にも高級感あるということで、中古車市場でも人気の1台なのですが、今回展示された新しいCX-5はどのような印象を持ちましたか?

-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
会場でのレビューでも触れたたけど、やはりパワートレインが不安。
マツダにはせっかくクリーンディーゼルという武器があるのに。
恐らく排ガス規制などの影響で欧州では売れなくなるので廃止になったのだと思いますが、今回展示されたモデルのパワートレインが2.5リッター+24ボルトのマイルドハイブリッド。
「いやいやいや、今さらマイルドハイブリッドはないんじゃない?」というのが第一印象でしたね。
今後、新開発の「スカイアクティブZ」+ハイブリッドというパワートレインが実装されるそうですが、それが2027年とのことなので、それまでこのパワートレインでどれだけ頑張れるのかなというのが心配ではあります。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
24Vマイルドハイブリッドという旧来のシステムで繋いで次世代のパワートレインを待っている間に、ライバルにどんどん差をつけられてしまうということですね。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
そう。
そもそもクリーンディーゼルが不採用という時点で、現在クリーンディーゼルのCX-5に乗っているユーザーが、乗り換えを機に離れていってしまうのではないかとも思います。
同じセグメントにいるスバルの「フォレスター」が既にフルハイブリッドを採用していることを考えると、パワートレインの競争という意味ではちょっとしんどいのではないかと。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
もうひとつ、市販が近いクルマの中から三菱の「デリカ D:5」(一部改良モデル)の感想は、いかがでしょうか?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
現行の「デリカ D:5」は2007年の発売ですが、一体何年作り続けるんでしょうね(笑)

-

-
リセバ総研所長 床尾一法
ホントに。
あと、ベースとしては古いクルマなのにADAS(先進運転支援システム)を搭載できているのがすごい。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
クルマに搭載されている電子部品を統合制御する「電子プラットフォーム」というものがあって、最新のADASを搭載するにはこの電子プラットフォームも最新世代に刷新しなければならないですしね。
「デリカ D:5」は一部改良モデルでもまだ旧世代の電子プラットフォームで、ようやく衝突回避ブレーキ機能で自転車の検知ができるようになりました。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
この古いプラットフォームのまま何年続けるのでしょうね。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
今回、これだけの改良を行ってS-AWC(車両運動統合制御システム)まで搭載されたので、あと2〜3年くらいは現行モデルでの販売が続くんじゃないかな。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
2027年には発売から20年になるので、ハイエース並のロングセラーになりそうですね。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
考えてみれば、20年も売り続けてきたということが凄い功績。
基本プラットフォームはずっと一緒で、でも電子プラットフォームを刷新したり、エンジンやミッションも新しくなったり、フロント周りのデザインを大幅変更したり、もうフルモデルチェンジに近い改良をしてきているけれど、型式は20年間ずっと一緒。
そう考えると、クルマってこういう風に一部改良を繰り返していけば、開発効率もよいのではないかと思う。
でも、ずっと作り続けている部品もあるはずなのに、なんで安くならないんでしょう(笑)
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
そりゃあ、人気のうちは価格を維持して利益を出したいんじゃないですか?
現状の価格で買ってくれる人がいるんだから、下げる必要はない。それが市場原理ですね。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
そうだよね。これまで“オフロードミニバン”という唯一無二の価値を持ち続けてきて、もはやパジェロに替わる三菱の看板車種になってきているとも思いますわ。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
ガリバーのアウトドアカスタムブランド「Brat」のイベント出店を手伝ったことがあるのですが、デリカ D:5をカスタムしたデモカーはとっても人気で見に来るお客様が絶えませんでした。
カスタムして乗りたいという人の需要も非常に高い。アウトドア派の人たちの人気は絶大ですね。
そういえば、デリカ D:5の悪路走破性はやはり高いんでしょうか?

-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
そりゃあ、(他のミニバンと比較して)別格です。
そもそも、アルファード/ヴェルファイアも、エルグランドも、ミニバンで悪路なんて走らないけどね。
だけど、デリカ D:5は本気で悪路を走ることができる。四駆の性能も結構高くて、絶対に走れないと思えるような斜面も、デリカ D:5ならアクセルを踏み込めばなんとかなったり。
車高が高く床下のクリアランスもあるので、「こんなところ、ミニバンで走れるの?」という路面もどんどんいけちゃう。悪路を走らせるとその走破性に驚かされると思いますよ。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
いいなぁ、アウトドア系のミニバンって他社さんにも作ってほしいとも思うのですが、この分野に新車を出す気はなんでしょうね。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
裏を返せば、三菱が恐れているのはその部分だよね。
それこそ、トヨタが「アルファードクロス」というようなアウトドア系のミニバンなんか出してきたら、脅威になることは確実。
もっとも、こういうニッチな領域までトヨタが進出してくると他社としては真っ青ですが、一方でトヨタがニッチなジャンルの市場を拡大する牽引役になることも期待できるので、必ずしも悪い話ではない。
例えば、トヨタが「ルーミー」を出したとき、このクラスにはスズキの「ソリオ」しかいませんでしたが、ルーミーが毎月1万台以上販売したことで、このクラスの市場が確立されることになった。
結果的に、スズキのソリオも販売台数をルーミーに取られるどころかむしろ販売台数を増やしました。マーケット全体を拡げることができるんですね。

-

-
リセバ総研所長 床尾一法
トヨタ ライズ/ダイハツ ロッキーの登場も、コンパクトSUVという市場を拡大させるきっかけになった1台だと思います。
というか、SUVスタイルを小型車種から大型車種まで、全方位でスタンダード化しちゃった感じですが。
満を持して登場する「新型エルグランド」に勝機はあるか
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
最後に、日産自動車が今年のモビリティーショーの目玉としていた「新型エルグランド」について。
日産が社運をかけて送り出す1台ですが、どのような印象を持ちましたか?ライバルであるトヨタのアルファード/ヴェルファイアと勝負できそうでしょうか?

-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
販売力という点では日産はトヨタには及ばないかもしれない。
でも、ここまでアルファード/ヴェルファイアの人気が確固たるものになると、「自分は違う選択をしたい」と思うユーザーは必ずいるわけです。
そういう人たちのニーズは取り込めるのではないかと思います。ただし、じゃあアルファード/ヴェルファイア並に売れるかというと、それはちょっと厳しいかなと思いますね。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
2〜3年後の中古車市場では、アルファード/ヴェルファイアのカウンタープランとして(発売されるであろう新型の)エルグランドの中古車がよく売れるかもしれませんね。
ただし、新車の流通量がそれなりに出てもらえれば、の話ですが・・・
ところで、新型エルグランドのデザインについて、大岡さんはどんな印象を持ちましたか?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
私自身は個性的なデザインでいいなと思います。
ただ、実車を見た人によって「かっこいい」という人と「かっこ悪い」という人で2極化しているみたいですね。
見た人の価値観によって評価は変わってくると思いますが、私としてはこういうデザインがあってもいいんじゃないかと。
アルファード/ヴェルファイアと比較して小さく見える点もボディサイズを大型化して解消しているし、アイポイントも高くして見下ろすようなドライビングポジションにも結構こだわっている。
ユーザーニーズにはしっかり対応していると思います。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
私個人はアルファード/ヴェルファイアと同じような印象を持ちましたし、人によって受け止め方は大きく違うなと思います。不安要素など気になる点はありますか?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
気になるのはエンジンの排気量ですね。
世の中の人、特に私たちのような年長者の世代のなかには「排気量が大きい=高級車」というイメージを持っている方も多い。
だけど、新型エルグランドは1.5リッター。この点がちょっと不安ですね。「高級車なのに1.5リッター」という点がネガティブ要素になる可能性はあると思う。
若い人たちは排気量の大きさなんて気にしないと思いますが、高級車を買うような人の価値観は排気量を気にするかもしれません。
