【突撃取材】中国製EV「AION」のインポーターに聞く中国EV市場のリアルとは?

AION Y Plus

IDOMでは、輸入車インポーターのM Mobility Japan株式会社を通じて、“日本初上陸”となる中国・広州汽車集団(GAC)の電気自動車(BEV)である「AION Y Plus」の展示・試乗会を9月から10月にかけて実施しました。そこでリセバ総研では、10月某日に「ガリバーWOW! TOWN幕張」に突撃取材!日本初上陸となる「AION Y Plus」を試乗するとともに、M Mobility Japanの担当者の方にお話をお伺いして、中国のEV事情について探ってみました。

小さい頃からのクルマ好きで、大学生で免許を取ると貯めたバイト代で中古車をすぐに購入。以来、年間数万キロを走り回って無事故を維持していることを密かな誇りにしている。趣味は、ドライブ旅行とモータースポーツ。カメラを持ってサーキットに行くと流し撮りに命を懸ける。一般ドライバーの視点で、カーライフとリセールバリューの「これってどういうこと?」を紐解いていきます。

“シンプルさ”が最大の武器!中国ライドシェアの2台に1台が「AION Y Plus」

まずは、今回試乗した「AION Y Plus」について、簡単にご紹介しましょう。このクルマはSUVタイプのBEVで、フル充電時の走行可能距離は約490km。日本の安全基準を満たしていますが、このクルマ自体の日本への導入は予定しておらず、すでに本国では絶版になっている車種とのこと。今回の試乗会はAIONのブランドを体験してもらい、日本での展開に向けたニーズを探る目的で実施されたといいます。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    SUVタイプとのことですが、クルマの外観はかつて人気だったトヨタの「イプサム」のような塊感のあるミニバンにも見えるデザインに感じました。EVは未来的、前衛的なデザインのクルマも多いですが、このクルマの造形はシンプルで、かつ洗練された印象を持ちます。

AION Y Plus

そして、室内に乗り込んでみると、驚かされるのはその広さ!全幅は1870mm、ホイールベースは2750mmで、室内空間は非常に広く、後部座席に座っても足元のクリアランスは十分すぎるほど。身長170センチの筆者が座って軽く足を伸ばしてもまだ余裕があるくらいの広さでした。

 

また、運転席に座ってみると、印象的なのはボタン類の少なさ。空調操作、サンルーフやウィンドウの操作、オーディオ操作、ドライブモードの選択など多くの操作を中央の大型ディスプレイで行うため、運転席周りのボタン類が非常に少なくスッキリとしています。室内空間もシンプルかつ洗練されたデザインを追求することで、その広さと相まって開放的な空間になっている印象です。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    操作系をセンターディスプレイに集約させる点については賛否ありますが、慣れてしまえば直感的に操作できるので良いかもしれません。特に、スマホやタブレットに馴染みのあるZ世代にとってはスムーズに受け入れられるのではないでしょうか。

ちなみに担当者によると、この「AION Y Plus」は2020年に発売。2023年にはグローバル展開され、これまでに中南米や東南アジアを中心にグローバルで約20万台を売り上げたとのこと。香港では、中国のライドシェアサービス「DiDi」で使用されるクルマのなんと2台に1台が、この「AION Y Plus」なのだとか。シンプルで飽きの来ないデザイン、かつ大きな室内空間で快適なドライブを楽しめる点が好評のようです。

いざ試乗!中国製EV「AION Y Plus」の実力にリセバ総研所長の印象は?

ここからは、リセバ総研所長の床尾一法も参加して、実際に「AION Y Plus」を試乗した印象をチェックしてみましょう。

 

クルマが走り出してまず驚かされたのが、クルマとしての完成度の高さです。アクセルペダルを踏んだ際の加速は非常にスムーズで、サスペンションの動きは非常にしなやか。剛性感も高く、道路の轍や凹凸を踏んだ際にも大きな振動や嫌な挙動を見せずに走ることができます。良い意味で一般的なガソリン車と同じ感覚でクルマを扱うことができる点は大きなポイントです。もちろん、モーターで走るクルマなので室内の静粛性は非常に高く、ロードノイズや室外の騒音も気にならないので高い快適性を実現しています。

また、このクルマは「i-Pedal」「Eco」「Normal」「Sport」という4つの走行モードが選択できるようになっています。「Sport」モードを使用してアクセルを強めに踏み込んでみると、ターボ車で急加速したときのような嫌な加速感はなく、電気モーターならではのリニアでスムーズな加速感を体感することができます。また「i-Pedal」モードでは、アクセルを戻すと自動的に回生ブレーキが作動して減速する仕組みで、アクセル操作だけで速度を自由自在にコントロールすることが可能です。もちろん停止時にはブレーキ操作が必要ですが、加速・減速の多い街乗りなどでは、ひとつのペダルで操作できる点は便利なのではないでしょうか。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    初めて中国製EVを試乗しましたが、その実力にとても驚きました。

    走行性能、室内空間ともに完成度が非常に高く、国産車と真っ向勝負できる品質です。私も思わず「欲しいなコレ」となってしまうほど。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    また、右左折時には巻き込みを防止するために、斜め前方の死角となる方向のカメラ映像がモニターに映し出されるなど、安全装備も充実している点も評価が高いと思います。

  • リセバ総研所長 床尾一法

    ただ、この車種やEVに限ったことではありませんが、すべてがタッチ操作で、運転時のステアリング操作と方向指示器以外は物理操作が皆無。

    タッチでの操作はヒューマンエラーやフェールセーフの観点でも不安になってしまいます。

    世代が古いとか新しいとかいった「時代」論ではなく、運転というリスクの高い行為のにおける操作の確実性や状況の視認性を高めるために、物理的なスイッチによる「操作感」の体感フィードバックが必要だと私は考えています。

M Mobility Japanの担当者に聞く、中国EV市場のリアル

最後に、今回の「AION Y Plus」を用意してくださったM Mobility JapanのDanielle Wanさんに、このクルマが走る中国のEV市場についてお話をお伺いしてみました。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    中国は世界的に見てもEV市場が非常に大きな盛り上がりを見せていますが、その背景について教えて下さい。

  • Danielle Wanさん

    ひとつは、政府によるEV普及の推進というのが大きな背景にあります。

    14億人の人口を抱える中国では、ガソリン車による大気汚染は深刻な課題でした。そこで政府は、数年前から政策としてEVのためのインフラ整備を推進していきました。

    具体的には、大半の駐車場にはEV用の充電スポットが用意されているようなイメージです。結果的に、誰もがEVを便利に利用できる環境が整ったことで、最近では購入される新車の半数以上がEVになっています。

    もうひとつは、ビジネスという側面からみて世界で闘える自動車メーカーを作ろうというなかでEVに注目が集まったという背景があります。長い歴史を持ち、多くの成熟した国際ブランドがあるガソリン車の世界では、(後発の)中国メーカーが世界で勝負するというのは非常に高いハードルです。

    そうしたなかで(世界的に黎明期である)EVという世界ならば、勝負できるのではないか。そう考えて多くの中国企業がEVに参入し、急成長を遂げてきました。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    中国ではすでに新車を購入する方の半数以上がEVを選択されているというのは驚きですね。

    ところで、中国の方々がEVを選択する経済的なメリットとして、ランニングコストはガソリン車と比較してどれくらい抑えられているのでしょうか?

  • Danielle Wanさん

    EVの特徴のひとつとして、部品点数の少なさとバッテリーの性能の向上によるメンテナンスコストの大幅な削減が挙げられます。

    そもそも、メンテナンスが必要な箇所というのが非常に少ないため、定期的な点検をしっかりすれば乗り続けることができるのです。

    中国のEVはネットにつながるコネクティッドカーでもあるため、クルマに搭載されているソフトウェアのアップデートもクラウド経由で行いますし、クルマの状態を診断するのもオンラインで行うことが可能です。

    また、エネルギーコストについては、日本ではガソリン車の燃料代はEVの電気代に対しておよそ2倍弱程度と言われていますが、中国ではさらに電気コストが低いのが特徴です。

    例えば、夜間にEVの充電をすれば中国政府が電気代を補助してくれるため、エネルギーコストはガソリン車の3分の1から4分の1程度まで抑えられます。

EV充電器のイメージ
  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    もはや定期的な交換が必要なのはタイヤくらいなのですね。

    ちなみに、日本では新車だけでなくコスパの良い中古車を購入するというのも選択肢のひとつだったり、またリセールバリューの高いクルマを選択して売却価格を原資にまた乗り換えていくという選択もあったり、クルマの購入方法について選択肢が豊富です。

    こうした日本に対して、中国でのクルマの買い方・乗り換え方にはなにか特徴があるのでしょうか?

  • Danielle Wanさん

    日本の自動車市場はとても成熟していて、自動車産業の長い歴史のなかで新車と中古車の循環モデルが確立していったのだと思います。

    対して中国は、国内の自動車メーカーが成長してきてまだ10年ほどなので、中古車市場のあり方についてはこれから考えていくべき課題だと思います。

    なかでもEVについては、10年ほど乗るとバッテリーの性能が落ちてしまうことでクルマの価値が大幅に下がってしまう。中古車として再販売できるほどの価値がなく、多くの場合がリサイクルに回ってしまっているのが現状です。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    リセールバリューを意識して短期的に乗り換えるというよりも、最長10年くらいは長く乗り続けて手放すというスタイルが多いんですね。

    最後に、EVの普及が進んでいない日本市場で今後EVが盛り上がっていくために、どのような道筋が考えられるでしょうか?

  • Danielle Wanさん

    EVの普及促進をする地域を限定して、そこに集中的に予算をかけてEVシフトを推進するという方法が有効なのではないかと思います。

    例えば、特定の地方にEV用の充電スポットを重点的に整備したり、EVの購入や充電器の設置に補助金を出したりなど、エリア単位でEVシフトを推進しながら全国に市場を拡げていくという方法は有効なのではないかと思います。

    大都市圏では難しいかもしれませんが、(自動車需要の大きい)地方などでは導入のメリットが大きいのではないでしょうか。

  • 【クルマ大好きライター】井口裕右

    確かに、全国に向かって「EV買おうよ」と言ってもなかなか振り向いてもらえないかもしれませんが、いわゆる「EV特区」のようなエリアを作って、その地域の人たちにとって「EVを買えばコスパ良し」という明確なロイヤリティを作れば、よりEVに興味を持ってもらえるということですね。

    興味深いお話をありがとうございました!

リセバ総研所長とM Mobility JapanのDanielle Wanさん

まとめ

今回は、中国の電気自動車「AION Y Plus」を試乗した模様と、中国EV市場の特徴について担当者の方にお伺いした模様をまとめました。EVの普及が進まない日本ですが、その要因のひとつに充電スポットなどのインフラ整備が挙げられています。自動車メーカーによる設備投資だけでこの課題を解決することがなかなか難しい状況のなか、それを国策として推進し巨大市場を築き上げた中国の推進力には、ただただ驚かされるばかりです。中国EV市場の動向やそこで生まれる課題に目を向けることは、日本でのEV普及を考える上で重要なことなのではないでしょうか。