CORISM編集長とリセバ総研所長のクルマ放談:2025年10月後編 “若者のクルマ離れ”は真実なのか?
自動車業界で日々生まれる様々なトピックスについて、リセバ総研の“ご意見番”であり日本カー・オブ・ザ・イヤーの運営にも関わっている自動車webサイトCORISM編集長の大岡智彦と、リセバ総研所長の床尾一法の二人が本音で語り合う「クルマ放談」。10月の後半は、9月にリセバ総研が実施したアンケートの結果について語り合いました。
自動車情報メディア「CORISM」編集長
リセールバリュー総合研究所 管理運営者
当記事における発言内容は、床尾一法と大岡智彦の個人的な主観・考察によって構成されています。公式の見解ではございませんのでご注意ください。
目次
若者のクルマ選びは、iPhone人気に通じる?
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
リセバ総研で行ったアンケートの結果についてご意見を伺いたく。
まず18歳から35歳の男女603名のうち「クルマに興味がある」と答えているのが45.9%なんですって。54%の人は「クルマに興味がない」と。
一方で、クルマを既に持っている人は27.5%で、「すぐ欲しい」「将来的に欲しい」を合わせると30.2%の人は「クルマが欲しい」と思っているんです。
クルマに関心はないけれど、クルマが欲しいと思っている人はある程度いらっしゃるという結果になりましたが、どう感じますか?

-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
これは、大都市圏の郊外や地方の人にとって、クルマは生活の足として欠かせない存在であるということですよね。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
ええ。近年、“クルマ離れ”という言葉はよく言われますが、個人的に若者がクルマから離れているとは考えていません。
家族全員1人1台必要な地域もありますので、好きかどうかはさておき、“クルマから離れられるわけない”環境の方も大勢いらっしゃいます。
ガリバーではYouTubeを使ったライブコマースも試験的に取り組みましたが、視聴してくださる若い方々のクルマに対する距離感というのは、昔とあまり変化したとは思えませんでした。
ただし、クルマへの価値観は変わったかもしれません。じゃあ実際にクルマを買えるかというと、買えない環境や状況だというのが実態なんじゃないかと思います。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
公共交通機関があまりない地域ではクルマって生活必需品。
“クルマ離れ”というのは、正確に定義すると「クルマが生活必需品じゃない」という人のなかで、クルマが好きな人やクルマを趣味にしたい人が極端に減っているということなのかもしれない。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
そうかもしれませんね。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
これは日々感じますね。
実際、クルマの車種名なんて全く知らない、なんていう若い人も多い。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
確かに。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
ホンダのN-BOXが売れている理由はここにあるんじゃないかと思うんです。
わかりやすく「みんなが選んでいるから、いいクルマなんでしょ」で売れている。
クルマには興味はないけれど、「N-BOX」という名前はとりあえず知っているから、そのクルマに全く興味はなくても「このクルマにしておけば間違いないかな」という選択になるわけです。
実際、床尾さんのほうがこの辺は詳しいと思いますが、軽自動車の車種名って検索される件数が結構少ないんじゃないですか?
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
ええ、少ないですね。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
必需品だからちゃんと検索して調べるというよりも、「近所の知り合いがN-BOXがいいって言うから買う」みたいな。
友だちがiPhoneを使っているから自分もiPhoneにするという、そんなノリに近いんじゃないかなと思います。
本当にクルマが好きで、こだわってクルマを選んで買うという人は、これからどんどん減っていくのではないかな。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
世界的に見て日本が突出してiPhoneのシェアが高いのは、「友だちや知り合いがみんなiPhoneだから」で売れている、みたいな事情もあると思います。
友達みんながiPhoneなのに、自分だけAndroidだと恥ずかしい、仲間はずれにされちゃうなんて話もあるようですし。
若者たちに“ドライビングプレジャー”は通用しない?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
あとね、実際に学生さんにインタビューしたこともあるのですけど、彼らは運転することをリスクだと感じているんです、実は。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
そうなんですか?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
例えば、彼らは大学のサークルや部活の合宿でクルマを使うこともあるわけです。
クルマを持っている人がいればその人のクルマを使いますが、大体レンタカーですよ。
すると、集まったメンバーの中で「いかに運転しないか」の争いになるんですって。
運転中にもしも何かが起きたらという不安もありますし、運転が面倒くさいと感じている。そもそも運転することを楽しいと思えないみたいなんですよね。
私たちの世代は単純にクルマで徘徊するだけでも楽しいと思えていますが、彼らにとってはクルマはあくまで移動手段でしかなくて。
オヤジが息子に「おい、ドライブにでも行こうぜ!」と誘ったところで、A地点からB地点に移動することにすぎないわけで「なにが目的なの?移動するだけ?」となっちゃう。統計を取ったわけではないので肌感だけど、運転する楽しさとか、助手席に乗ってドライブする楽しさみたいなものは、あまり感じないっぽいんです。

-

-
リセバ総研所長 床尾一法
移動手段そのものに価値を求めるかどうか。鉄道旅行とかでも同じことが言えますね。
どうせなら車窓や沿線の風情を楽しみながら移動したいという人もいれば、一刻も速く目的地に着きたい人もいる。移動に対する価値観の違いなんでしょうね。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
単純に、運転することを楽しいと思ってないんだろうね。クルマはただの移動のためのツールでしかない。
昔、ガリバーで運営している「norico」の初代管理人だった若手社員と一緒に仕事をしたことがあるんだけど、サーキットで行われた試乗で自分が試走を終えて「いやー久しぶりに汗かいたよ」って言ったら、その社員から「エアコンつけないんですか?」て聞かれたの。「エアコンはついてるよ」って答えると、「え、じゃあなんで汗かくんですか???」と言うわけ。
『サーキットでスポーツドライビングしたらいい汗かくね』という意図がまったく伝わらなかったというか、理解できなかったみたい。
ドライビングプレジャーを体験するのがクルマの醍醐味だと思っていた自分たちの世代と、クルマは移動手段だとしか認識していない世代では、運転に対する捉え方が全く異なる。
だから、先程の話にあるような「運転は面倒くさい」という感覚になってしまったんだと思います。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
興味深い話ですね。
ちなみに、大岡さんは東京から大阪まで、「新幹線」と「BMW」どちらかで移動してくださいって言われたら、どちらを選びますか?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
新幹線(笑)
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
えぇ?(笑)
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
もちろん自由に走り回っていいよと言われればクルマのほうが楽しいんだけど、ただA地点からB地点に移動するとなると、道路法規を守って前のクルマに続いて走るだけですから。
それこそただの作業になってしまいますし、退屈してしまう。
しかも事故のリスクを常に背負っているわけだし、ただ目的地に移動するだけなのであれば、個人的には公共交通機関でいいかなと思います。
・・・って、さっき言ってた若い人たちと同じこと言ってるね、私。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
そこは「運転する醍醐味」という価値観を持ち続けてくださいよ(笑)

若者たちのクルマ選びの価値基準とは?
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
さて、リセバ総研のアンケートに戻ると、クルマ選びの際に重視するポイントで「価格」「デザイン」「燃費」が上位に挙がりました。
順当と言えば順当ですが、どうでしょうか?

-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
価格とデザインはもう普遍的な要素だよね。
当たり前のポイントというか。
ただ、新車の場合は価格(予算)に対する選択肢って、実はそんなに多くない。例えば、500万円の予算で新車のSUVを買おうとすると選択肢は少ないけれど、一方で中古のSUVで予算500万円となると、いくらでも選択肢が出てくるわけです。
その違いが一般の人にはまだあまり理解されていないんじゃないかなという印象はありますね。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
クルマ選びで重視するポイントは昔から変わっていない、世代が変わっても時代が変わっても変わらない価値基準なんですね。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
燃費は結局ランニングコストとして自分に降り掛かってくる要素だから、今の時代はなおさら重視されていると思いますね。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
でも、平成の初期のころとか、燃費を気にしてクルマ選びをした記憶がないですけどね。私だけかな?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
ここはハイブリッドカーの登場で燃費競争が激化して変わった点かもしれないです。
自動車メーカーは小数点以下のレベルで燃費を競い合って、経済性をアピールするようになって。
一方で運転する楽しさをアピールするような要素が徐々に薄れていって、クルマが移動のためのツールとなっていった。そして消費者の興味も薄れていったというのが、クルマ離れの典型的なパターンのひとつなのかなとも思います。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
そうですね。あとは日産のGT-Rが生産終了した理由の一つでもあるようですが、クルマの保安基準や法規制が厳しくなったというのも、クルマの面白さを削いでしまっている理由なのかもしれませんね。

若者たちを再び“クルマ好き”にできるか
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
アンケートでは、クルマを探す際の情報源についても聞いているのですが、メーカーの公式サイトはみんなチェックしていて、あとは当然のごとくSNSが上位に挙がっています。そして、友人・知人の口コミというのが割と多くて、雑誌やウェブメディアの記事が最も少ない。

-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
メーカーの公式サイトではどこもオンライン見積ができるから、みんな行きますよね。
自動車情報もYouTubeをチェックすることが当たり前になってきたしね。最近では自動車メーカーもYouTubeにどんどんコンテンツを公開していますし、試乗レポートのコンテンツも豊富です。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
あと、アンケートで興味深いのが「好きな自動車メーカー」を聞いた質問で、41%は「特にない」という結果になりました。
ちなみに、メーカー別では「トヨタ」がやっぱり強くて、意外だったのは「ホンダ」が2位になっています。

-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
「特にない」が最も多いというのが、もうね。
「クルマに興味がない」という最初の質問の結果を如実に表していると思います。
メーカーや車種を意識したクルマ選びをしていないということですね。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
クルマへの価値観が変わるというか、クルマが移動手段以上の存在になるためは、どんなきっかけが必要なんでしょうか?
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
雰囲気って大事だと思いますよ。
見られ方というか。
例えば、クルマが好きな人ってちょっとヤンチャな印象があるじゃない。週末になると大きな駐車場とかに集まって、ワイワイやって。首都高の大黒ふ頭PAに集結して、結果的にPAが閉鎖されちゃったり。
普通の人たちにとってはちょっと近寄りがたい雰囲気を醸し出している。そんななかで、自分が「クルマが好き」というと、こういうヤンチャな人たちと一緒に見られるんじゃないかというリスク。
そんな嫌悪感からあまり大きい声でクルマ好きを言えない人もいるんじゃないかとも思いますね。

-

-
リセバ総研所長 床尾一法
あとは、コスパやタイパという思想からみたときの問題もありますよね。そもそもクルマはコスパが悪いものであるという。
-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
そりゃそうだよね。
持っているだけで税金(自動車税)は掛かるし、走ったらガソリンを給油して、そこにもたくさんの税金が掛かってる。
高速道路に乗ったら通行料金を払う必要があるし、とにかく持っているだけでも走らせてもどんどん税金や料金が掛かっていくわけで、「馬鹿らしくてやってられない!」と思ってしまう人も多いと思いますよ。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
最近の軽自動車指向にも通じる話かもしれませんね。
自分も現在乗っている軽自動車を乗り換えたいと思うものの、コスパを考えるとちょっと気が引けています。軽自動車は、とにかくランニングコストが安いので。ガソリン代も安くすむし、税金も安い。

-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
そうだよね。
地方で生活必需品としてクルマを買おうとすると軽自動車が選択肢に入るんだけど、とはいえ様々な車種の中から何を選べばいいのか悩むわけです。
その答えを探しに行くのが(カーディーラーや自動車メディアなどではなく)友人・知人やSNSというのが、いまの軽自動車ならではの購入の仕方なのかなと思います。
大岡さんが気になる「今月の1台」:日産 ルークス
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
それでは最後に、毎月恒例の“今月の気になるクルマ”です。自動車評論家の大岡センセー、今月はどのクルマを選びましょうか?

-

-
【自動車のプロ】大岡智彦
新型ルークスは試乗しましたが、とてもよかったですよ。
デザインについては、かつて人気だった「日産 キューブ」のような印象に変わって、“モダンリビング”という考え方でデザインされているインテリアもスッキリして質感も高い。
クルマのプラットフォームやエンジンは先代モデルからのキャリーオーバーですが、ブラッシュアップはされていて乗り心地もよくなっています。
スーパーハイトワゴンのなかでは操縦安定性と乗り心地のバランスが一番いいかなと感じました。
-

-
リセバ総研所長 床尾一法
次回は「ジャパンモビリティショー2025」のレポートでお会いしましょう!
