往年の名車がハイブリッドクーペとして25年ぶりに帰ってきた! 歴代モデルを振り返りながら考える「なぜホンダはいまプレリュードを発売したのか?」

本田技研工業は、ハイブリッド2ドアスペシャリティクーペ「プレリュード」を9月5日に発売しました。この「プレリュード」はかつて80年代、90年代に一世を風靡した人気モデルで、新車の発売は実に25年ぶり。車名を聞いて「懐かしい!」と感じた方も多いのではないでしょうか。そこで今回は、歴代プレリュードや新型プレリュードの特徴をご紹介しながら、後半にはリセバ総研所長の床尾一法と自動車webサイトCORISM編集長の大岡智彦が「ホンダはなぜいまプレリュードを復活させたのか」について考察します。

ライター
当記事は筆者ならびにコメント発言者の個人的な主観・考察による内容で構成されています。リセバ総研の公式見解ではございませんのでご注意ください。
「デートカー」という流行語でひとつの時代を作った「プレリュード」
ホンダ プレリュードの歴史は長く、初代プレリュードが発売されたのは、なんと今から47年前の1978年。シビックをベースに開発され、ホンダにとって初となるスペシャリティクーペとなりました。プレリュードは当時から海外での販売も行われ、日本よりも海外で人気を博したと言われています。
そして、日本で爆発的な人気となったのは、1982年に登場した2代目プレリュード。洗練されたデザインと当時の好景気、ドライブデートの流行などを背景に、若い男性が女性にモテるために乗るクルマという意味の「デートカー」という流行語を生み出しました。そして、2代目の人気を受け継いで進化した3代目プレリュードは、バブル景気の只中にある1987年に登場。走行性能の向上やデザインのブラッシュアップが行われ、「デートカー」としてのポジションを確固たるものにしました。
その後、1991年に登場した4代目は、ボディが3ナンバーサイズに大型化したほか、VTECエンジンを搭載してスポーティーな走りを実現。しかし、バブル景気の終焉とともに、プレリュードの人気にも陰りが見え始めます。1996年には5代目プレリュードが登場しますが、その頃には日本のクーペ市場全体が縮小。人気は低迷し、2001年に販売終了となります。

バブル経済が終焉した後の日本の自動車市場では、ミニバンやコンパクトカー、軽自動車が人気の中心となり、最近ではSUVがトレンドを形成。ホンダもコンパクトカーの「フィット」やミニバンの「フリード」「ステップワゴン」「オデッセイ」、軽自動車の「N-BOX」、SUVの「ヴェゼル」や「ZR-V」など様々な車種を人気モデルへと成長させてきました。一方で、2ドアスポーツクーペについては、「シビックタイプR」は2007年の3代目以降5ドアモデルとなっているほか、フラッグシップモデル「NSX」は2022年に販売終了していることから、近年はクーペモデル不在の時期が続いていました。
25年ぶりに蘇った「プレリュード」のポイントは?
こうしたなか、25年ぶりの復活となった6代目プレリュード。大空を飛ぶグライダーに着想を得た「UNLIMITED GLIDE」をグランドコンセプトとし、優雅に滑空するような高揚感と非日常のときめきを感じさせるクルマを目指して開発されたといいます。
ホンダは発表のなかで、このクルマを「環境性能や日常での使い勝手も追求した電動化時代の新しいスペシャリティスポーツの先駆け・前奏曲(プレリュード)となるモデル」と位置付けているほか、開発責任者の山上智行さんも、ホンダのウェブサイトに掲載されたインタビューのなかで「本格的な電動化時代へ『操る喜び』を継承し、Honda不変のスポーツマインドを体現する」とその開発意義を語っています。

この新型プレリュードの技術的なポイントは、ホンダ独自のハイブリッドシステム「e:HEV」に、同じく独自の制御技術「Honda S+ Shift」を初めて採用した点です。モーター駆動でありながら仮想8段変速によって加減速時に緻密にエンジン回転数をコントロール。あたかも有段変速機があるかのようなダイレクトな駆動レスポンスと鋭いシフトフィールを実現しています。
また、走行時に長い距離でアクセルオフして走行する時などに、ニュートラルギアに入れたかのような減速度で走行する「コースティング制御」を初めて採用したとしています。また発表によると、ベースとなるシャシーは「シビックタイプR」のものにプレリュード専用のセッティングを施しているとのこと。応答性の良いハンドリングとスムーズな乗り心地を実現しているといいます。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
ちなみに、ホンダのハイブリッドシステムはエンジンで発電してモーターで走行する仕組みですが、走行状況に応じて迫力のあるエンジンサウンドをスピーカーから響かせるアクティブサウンドコントロールシステムや、走行状況と協調するメーターなどにより、ドライバーとクルマの一体感を演出しています。
加えて、ホンダの安全運転支援システム「Honda SENSING」はプレリュード専用のセッティングで搭載。Googleの様々なサービスに対応した9インチHonda CONNECTディスプレーやBOSEプレミアムサウンドシステムなど室内空間の装備も充実しています。モデル構成はひとつのみで、価格は6,17万9,800円(税込)。WLTCモードのカタログ燃費は、リッターあたり23.6kmとなっています。

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【クルマ大好きライター】井口裕右
SNSでは発売直後からプレリュードに対してすでに数多くの声が挙がっています。すでに実車をチェックした方も多いようで、「フロントのデザインがプリウスに似ている」という一部の意見に対して「写真で見るよりも実物のほうがずっとかっこいい」という評価も。一方で「さすがに600万円オーバーは高い」とその価格に対する意見も多いようです。また、80年代、90年代に人気だったかつての「プレリュード」を懐かしむ声も多く見られました。
軽自動車やSUVが人気のいま、なぜプレリュードなのか?
自動車市場のトレンドに目を向けると、軽自動車であるホンダ N-BOXが販売台数のトップを独走し、各社が発表する注目の新型車はSUVやミニバンが大きな潮流です。そうしたなか、なぜホンダはこのタイミングで2ドアスペシャリティクーペであるプレリュードを復活させたのでしょうか?リセバ総研所長の床尾一法と、自動車webサイトCORISM編集長の大岡智彦が語り合いました。

自動車情報メディア「CORISM」編集長
自動車情報専門のWebサイト「CORISM」編集長。自動車専門誌の編集長を経験後、ウェブの世界へ。新車&中古車購入テクニックから、試乗レポート、カスタムカーまで幅広くこなす。クルマは予防安全性能や環境性性能を重視しながらも、走る楽しさも重要。趣味は、コスパの高い中古車探しと、まったく上手くならないゴルフ。日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員。

リセールバリュー総合研究所 管理運営者
中古車情報誌の最大手での制作、自動車メディアの立ち上げ責任者などを経験。20年以上マーケティングのインハウスやコンサルタントで活動。2017年に人材開発へ転向。対話空間や学習空間の設計、言語化と構造化設計を得意とする。CompTIA CTT+ Classroom Trainer Certification取得。2023年より、マーケティングに復帰。中古車マーチャンダイジングの研究とともに、メディア運営設計を担っている。実は元カメラマン。
当記事における発言内容は、個人的な主観・考察によって構成されています。公式の見解ではございませんのでご注意ください。
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リセバ総研所長 床尾一法
プレリュードの復活は、多くの人が驚きをもって受け止めたのではないかと思いますが、なぜいま投入するのでしょうか?
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【自動車のプロ】大岡智彦
これが“ホンダらしさ”の象徴なのではないかと思いますね。
いまの世の中では全く評価されていないツードアクーペをあえて投入するという男気と言うか、世界的に販売台数が見込めないモデルであっても、あえて“電動化時代のクーペとは”という命題に挑戦するというのが、ホンダにとっての“ホンダらしさ”なのではないかと感じています。
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リセバ総研所長 床尾一法
確かに、非常にチャレンジングだなとは感じました。
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【自動車のプロ】大岡智彦
昭和の人間からすると、ホンダといえば(F1やバイクに代表される)モータースポーツのイメージが強いですが、現在のカーラインナップからはホンダ=スポーツのイメージは湧いてこないわけです。
だからこそ、ホンダのアイデンティティを表現するために投入したとも言えるかもしれません。
プレリュードを知っている世代も知らない世代も、これをきっかけにしてまたホンダのお店に来てくれる人を増やしたいと。「やっぱりホンダはこうじゃなくちゃ」と思ってくれる人たちを増やしたいのでしょうね。
ちなみにホンダの独自調査では、若い世代になるにつれて(ホンダへの)好意度が下がっていくという傾向があるそうです。

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リセバ総研所長 床尾一法
とはいえ、プレリュードはからは硬派なスポーツカーのイメージが弱い気がするのですが。
かつては「デートカー」という肩書がついたクルマですし。
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【自動車のプロ】大岡智彦
それは承知の上、というかむしろそれが狙いなのかも。
前輪駆動のハイブリッドでピュアスポーツというのもちょっと違うし、美しいボディラインとスポーティーな走り、そして高級感ある室内空間を兼ね備えたハイブリッドのスペシャリティクーペという位置付けが、プレリュードの名前を受け継いだ背景にあるのではないでしょうかね。
ナンパなイメージは強いかもしれませんが、シビックタイプR由来のサスペンションなどを装備して、ホイールベースも短くて、非常にスポーティーなハンドリングが魅力です。とても、気持ちよく走れるスポーツカーに仕上がっています。
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リセバ総研所長 床尾一法
実は私のクルマ遍歴、DA8(ホンダ インテグラ4ドアハードトップ XSi) → GF8 → GC8 STi Ver.IV → CF4(ホンダ アコード SiR-T) → EG6(ホンダ シビック SiR) → BB1(ホンダ プレリュード Si VTEC 4WS)なんです。
その後、2020年まで20年間クルマを所有せず、最後に乗ったスポーツタイプが所謂「セナ・プレリュード」(アイルトン・セナがCMに出演していた4代目プレリュード)だったんですよね・・・。
所有した歴代ホンダ DOHC VTECの4車種の中では(あたりまえですけど)一番上質な走りで高級車然としていました。高回転の官能性はもちろんのこと、低回転からパワフル。コーナリングもしなやかかつ限界も高い。先に乗っていたCF4の方が新しい世代なのに、走りの質は全く負けていなかった。
訳あって自分のEG6と知人のBB1を交換したんですけど、デートカーのイメージは吹き飛びましたね。過去に乗っていた4WDターボのGF8(インプレッサスポーツワゴン WRX)よりも速く感じたぐらいで。
と、自分の話はさておき、このクルマのターゲットはどのあたりになるのでしょう?
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【自動車のプロ】大岡智彦
まさに、こうやってあの頃のホンダを熱く語るトコちゃん(※リセバ総研所長のこと)みたいな人たちもそうだし、おそらく現在クルマのマーケットを牽引している、購買力のある中高年男性が中心になってくると思います。
なんせ、600万円オーバーという高額なクルマですから。子育てを終えて可処分所得に比較的余裕が出てくる層もターゲットになるかもしれませんね。
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リセバ総研所長 床尾一法
私はその中高年男性ですが、まだまだ子育のど真ん中。
我が家のスペーシアギアは大事な家族にして育児のパートナーです。
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【自動車のプロ】大岡智彦
だからこそじゃない?クルマがミニバンやハイトワゴンである必要がなくなったとき、楽しむために乗りたいと思うクルマの選択肢として。
それに最近の注目の新型車は“SUV一辺倒”という印象があるので、あえてその対極にあるクルマとして出してきたとも言えます。
その姿勢は評価できるものだと思いますし、今の時代にクーペという存在そのものが斬新なので、新しいものが好き、他とは違う選択をしたいという人には刺さるのではないでしょうか。
ただし、とても限定的だと思います。
まとめ
今回は、ハイブリッドスペシャリティクーペとして復活を遂げたホンダ プレリュードについて、その歴史を振り返りながら「なぜいま復活したのか」について考察してみました。
ミニバンやSUV、軽自動車が人気モデルのトレンドとなっている今の時代に、洗練されたデザインとドライビングプレジャーを追求したハイブリッドの2ドアクーペが登場したことは、人気の傾向が固まりコモディティ化も懸念される自動車業界に新鮮な風を吹き込んだと言えるのかもしれません。かつての記憶とともに蘇ったプレリュードが世の中からどのような評価を受けるのか、今後も注目していきたいところです。