1955年、東京都生まれ。玉川大学工学部卒業。大学卒業後はレースでも活躍し、その後フリーのモータージャーナリストに。EVや環境・エネルギー分野に詳しい。趣味は、読書と、週1回の乗馬。
自動車評論家・御堀直嗣氏が斬る2025年EV市場【後編】フルセルフドライビングが拓く移動革命と未来

前編では、日本のEV市場の厳しい現実と構造的な問題について詳しく伺いました。後編では、技術的な進歩や未来への展望について聞いていきます。

中古車派のドライブ好きライター
家族を持ったことがきっかけで自家用車を購入し、子どもの誕生などライフスタイルに合わせて買い替えて今は3台目。旅行先ではレンタカーを借りて、いつもと違う車でのドライブを楽しんでいます。安全性と運転のしやすさ、デザイン重視。新車だと手が出ない車種に乗れるので中古車派。リセバ総研で書き始めてからは街で走っている車についつい目が行きます。日常とレジャーで年間1万キロほど走っている、一般的なカーユーザーの視点をお届けします。
目次
ホンダ N-ONE e:で軽EV市場の再活性化なるか
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【外部ライター】KY
今年後半から2026年にかけて注目している動きはありますか。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
下半期の最も大きな話題は、ホンダがN-ONE e:という軽乗用車のEVをこの秋に発売することを正式発表したことです。これは日産 サクラや三菱 eKクロスEVの直接的な競合車種になります。
サクラも一度は販売台数が低迷してしまいましたが、日産に聞くと『まだ行き渡ったとは考えておらず、踊り場や販売台数減少とは捉えていない。まだ接点を得られていない消費者がいるはず』という認識で、サクラをもっと頑張って売っていきたいと言っています。
そこにホンダの乗用軽EVが参入することで、競争が活性化することを期待しています。
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【外部ライター】KY
ホンダファンの存在も大きそうですね。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
これは非常に重要な要素です。世の中には、バイクも含めてホンダの熱烈なファンがいます。極端な場合、バイクもクルマも芝刈り機も全部ホンダ、という人もいるほどです。F1も何十年も続けていますし、そうしたホンダブランドへの愛着は強いものがあります。
そういうホンダファンの人たちは、いくら『日産のサクラが良い』と言われても『いいんだろうけど私は買わない』と思っていたかもしれません。しかしホンダが出したとなれば『どんな軽なんだろうか、一度見に行ってやろう』というお客さんが結構いるのではないでしょうか。
そうした人たちがホンダN-ONE e:を見に行ったり、試乗したり、買ってくれたりすると、各種媒体がその話題を取り上げてくれるでしょうし、その話題をきっかけに『ホンダも見に行くけれど、ライバルの日産や三菱の軽自動車もちょっと見に行ってみようか』という気持ちの動きも期待できます。
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【外部ライター】KY
地方での軽EVの重要性についてはいかがですか。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
軽自動車の存在価値は、都市部よりも地方都市でより重要です。一家に1台どころか、成人して運転免許を持っている人は1人1台ないと、通勤・通学・通院・買い物に困る地域がたくさんあります。
そうした地域で、補助金も含めて『今まで軽自動車を買っていたけれど、そんなにいいなら一度乗ってみようか』という気持ちの切り替わりが起きる可能性があります。
高齢者にこそEVを:ワンペダル操作の革命的意義
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【外部ライター】KY
EVの運転支援機能についてお聞かせください。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
非常に重要なポイントです。電気自動車には『ワンペダル操作』という特徴があります。アクセルペダルの踏み込みと戻しだけで速度調節ができ、アクセルを戻した時の回生ブレーキ効果で減速できます。これで速度を落とすことができ、落としすぎたら再びアクセルを踏めばモーターが駆動してスピードを上げてくれます。
今、高齢者が免許返納を考える最も大きな不安材料は、ペダル踏み間違い事故で人に迷惑をかけたり、自分も怪我をするかもしれないという恐れです。平らで段差もない道を歩いていてもつまずく。そういう身体能力の衰えを感じる高齢者こそ、EVに乗ってほしいんです。
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【外部ライター】KY
ホンダN-ONE e:の技術的特徴は?
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
特にホンダN-ONE e:は、アクセルを戻しただけでブレーキペダルを踏まなくてもクルマが止まってくれるシングルペダルコントロールを装備しています。速度を落とした後で完全に停止するところまで可能です。
実は日産も三菱も制御を変えればできる技術なのですが、諸般の事情で、停止するところまで性能を作り込むと国土交通省の認可が下りにくかったんです。結果的に、現状では停止するところまではできない設定になっています。
しかしホンダが停止まで可能にしてしまえば、日産も三菱も改良してやってくる可能性があります。そうなると本当に、ペダル踏み替えをしなくても速度がすぐ落ちるし、ブレーキペダルを踏まなくても止まってくれるし、なおかつブレーキペダルを踏む余裕があればもっと急ブレーキを効かせられるわけです。
『免許返納しようかな』『そうしないと人様に迷惑をかけてしまうかな』と考えている高齢者の方も、電気自動車に乗ってもらえば、あと何年か免許返納を遅らせても安心して運転できると思います。
BYDの実力と課題:急成長の光と影
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【外部ライター】KY
BYDの日本戦略をどう評価していますか。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
BYDは中国で最も注目されているEVメーカーですから、シーライオン7など最新のEVは最先端の装備を持ち、性能も十分です。非常に商品性の高い電気自動車で、作りが雑ということでもなく、日本車やヨーロッパ車に乗ってきた顧客にとっても『この値段でこれが買えれば』という、値段で我慢するという意味ではなく『これだけの商品性がこの値段で買えるならいい』と思える良いクルマを作っていると思います。
ただし個人的に気になっているのは、装備や性能は申し分ないのですが、クルマとしての完成度、全体的調和に今一つアンバランスなところがあることです。
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【外部ライター】KY
その原因はどこにあるとお考えですか。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
これは私の推測ですが、BYDは急成長してきた企業です。わずか20年ほどで現在の世界レベルに横並びまで来たところで、ものづくりとしてはほぼキャッチアップしたのですが、成熟度が足りない気がします。
アメリカもヨーロッパも日本も、より良い商品をということで、商品性を評価できるテストドライバーがいます。例えば、現在の名工に選ばれた日産の加藤博義氏のように、クルマを知り尽くして、商品としてどう仕上がっていることが大切なのか、それがバリューフォーマネーにつながるのかということの分かっているテストドライバーが、中国にはまだいないんじゃないかという気がします。
数値で評価したり、見た目の美しさや仕上がりの良さで判断はできても、それを全部組み合わせた時のバランス、最終仕上げを良い悪いで評価できる人がまだ不足しているのではないでしょうか。
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【外部ライター】KY
今後のBYDの成長可能性は?
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
しかし中国メーカーに限らず、どこのアジアのメーカーも、日本を含めヨーロッパを含め、海外からベテランエンジニアや経験者をどんどん採用しています。その中に優秀なテストドライバーが今後加わっていくと、一気に商品性評価能力が高まりますし、テストドライバーや評価者が『ここがダメ』『ここはこういうふうに良くない』『こうしなければいけない』といった指摘を、実際にものとして仕上げられる、最終調整できるエンジニアが育ってくると、BYDに勝てるメーカーを見つけるのは難しくなるかもしれません。
そういう意味で、BYDの成長ポテンシャルは非常に高く、同時に既存メーカーにとっては脅威でもあると考えています。
テスラの圧倒的優位性:「誰も追いつけていない」
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【外部ライター】KY
テスラについてはいかがですか。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
テスラはEV業界において、充電のこと、商品性、先進性を含めて最先端だと思います。テスラと同じレベルまで到達できているメーカーは他にありません。私はまだテスラ以外でそこまでのレベルに達したクルマに乗ったことがないです。
イーロン・マスク氏の発言で売上が上下したり、株価が変動したりはしますが、商品性と仕上がり、そして常に新しい技術や価値を導入してくるという計画性、将来展望が、毎年毎年前進していく姿は、テスラが突出しています。
テスラには、他のメーカーが持っていない一貫した戦略があります。
モビサビが切り拓く中古EV市場の新時代
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【外部ライター】KY
中古EV市場についてはいかがですか。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
中古車販売については、初代リーフの価格が低迷して、EVの中古車に対する懸念が広がったのは非常に残念でした。ただし、これには技術的・戦略的な背景があります。
初代リーフは先駆けとなったクルマですから、15年後の目線で全方位の性能を満たしていたかというと、やむを得ない部分がありました。特にバッテリー劣化の問題が指摘されましたが、これには理由があります。
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【外部ライター】KY
初代リーフのバッテリー問題について詳しく教えてください。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
初代リーフはマンガン酸リチウムというバッテリー素材を使用していました。これは今、中国で使っているリン酸鉄に似て、容量はそれほど大きくないのですが、なぜこれを選んだかというと安全性を最優先したからです。
EVには300Vや400Vという、家庭電化製品の何十倍、何百倍もの高電圧が流れます。高速道路で時速100キロで走行しながら充放電を繰り返す中で、熱膨張や発火が起これば大事故になり、EVの普及自体を阻害しかねません。
マンガン酸リチウムの結晶は、過充電してもショートせず、リチウムが全部抜け出ても結晶構造が崩れにくいという特性があります。その分リチウムイオンの含有量が減るため容量は小さくなりますが、安全性を重視した判断でした。
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【外部ライター】KY
空冷システムを採用した理由はなんだったのでしょうか?
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
バッテリーの二次利用を考慮していたからです。現在は液冷・水冷で温度管理をしますが、初代リーフは空冷でした。
クルマとして使い終わったリチウムイオンバッテリーには、まだ6~7割の蓄電容量が残っています。これを定置型蓄電システム、例えば再生可能エネルギーの電力変動平準化や、停電時の信号・踏切のバックアップ電源として使うためには、EVからバッテリーを下ろして分解する必要があります。
冷却のための配管が毛細血管のように入り込んでいると、分解が困難でコストも膨大になり、二次利用の価値が下がってしまいます。空冷にこだわったのは、モジュール単位での分解を容易にするためでした。
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【外部ライター】KY
初代リーフバッテリーの現在の活用状況は?
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
現在、初代リーフの二次利用バッテリーはモジュールごとに分解し、各地で活用されています。日産の子会社では短時間でモジュール内の4セルのバッテリー劣化状況を判断する技術を開発して、A・B・Cグレードに分類しています。Cグレードでも60%程度の容量は残っており、Aグレードなら新車性能に近いレベルでEVのバッテリー交換による延命も可能です。
こうした総合的な判断として、安全性と再利用を重視してマンガン酸リチウム、空冷システムを採用したのですが、結果的に初代リーフのEV性能は劣化しやすく、これが『EVの中古車はダメ』という印象を世界中に広めてしまいました。
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【外部ライター】KY
中古EV市場の新たな動きは?
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
注目すべき動きがあります。日産を退社した人たちが今年『モビサビ』という会社を設立し、愛媛の日産自動車販売と協力して、中古EVのバッテリー保証と残価補償を始めました。
なぜ愛媛からスタートしたかというと、モビサビの創業者たちと愛媛日産の販売店社長が親しい縁を築く機会があり、その社長が非常に乗り気になったからです。販売店にとって中古車販売は重要な営業の柱ですから、しっかりやりたいということで協力が実現したそうです。
彼らによると、全国の販売店の社長やオーナーは、ほとんど顔のつながりがあるそうです。愛媛日産で実績が上がれば『じゃあ、うちでもやろう』となり、EVの中古車をお客様に安心して使ってもらえて売上が伸び、さらに新車の残価設定にも好循環が生まれます。新車販売時の下取り不安も、『中古車でこういう実績が上がっています』と紹介できるようになります。
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【外部ライター】KY
モビサビのシステムはどの程度汎用性がありますか。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
これは日産車に限らず応用できる技術だと思います。BYDも中古車の保証制度を今年強化していて、BYDの中古車に安心して乗ってもらえる取り組みをプレスリリースで発表しています。
1台1台のEVバッテリーの状態を実測するのは手間がかかりますが、モビサビがやっているシミュレーションやデータ蓄積による状況判断は相当レベルが高いと思います。中古車でも安心してEVを購入するということが、いよいよ日本でも現実的になってきたのではないでしょうか。
フルセルフドライビング:BEVだからこそ実現できる究極技術
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【外部ライター】KY
BEVについて、注目されている技術やプロジェクトをお聞かせください。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
最も重要だと考えているのは、テスラのフルセルフドライビング(FSD)です。BEVは単なる環境対応車ではありません。テスラが牽引しているフルセルフドライビングは非常に素晴らしい技術で、新規の追加センサーを使わず360度カメラだけで実現しています。
つい最近も、工場から顧客への納車を無人で行った映像が流れていましたが、私はBEVが進むべき道をテスラが牽引していると思っています
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【外部ライター】KY
なぜフルセルフドライビングにはBEVが必要なのですか。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
BEVで使っているモーター駆動は、エンジンの100分の1の速さで応答できます。センサーやカメラで危険状態を察知し、コンピューターが判断した後、モーターなら瞬時に減速や加速、回避行動ができます。
ところがエンジン車では、同じ状況を同じセンサーと同じコンピューターで判断しても、次にクルマが起こすアクションが100倍遅れるのです。そうすると避け損なう可能性が高まります。
フルセルフドライビングは、BEVでなければ、正確にはモーター駆動でなければ実現できない技術なのです。これは先ほど話したワンペダル操作にも通じる話で、この応答性の速さがBEVの本質的な優位性です。
万人の車へ:障害者・高齢者を含めたモビリティ革命
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【外部ライター】KY
フルセルフドライビングの社会的意義についてお聞かせください。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
アメリカのWaymoという会社が無人タクシーをサンフランシスコなど数ヶ所で運営していて、テレビニュースで見た映像が印象的でした。目の不自由な方がスマートフォンで無人タクシーを呼び出し、GPSで自分のいる場所までクルマが来てくれて、それで移動できるのです。
現在、障害のある方は一人で外出しにくい状況です。しかし、目が見えなくてもスマートフォンは使えます。音声入力もできます。スマートフォンで呼び出して、クルマが自分の目の前に来てくれて、クルマからスマートフォンに「あなたの何メートル前にいます」「ちょっと停めにくい状況だったので、5メートルあなたより右の方にいます」といった情報が来れば、一人でタクシーに乗って出かけられるようになります。
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【外部ライター】KY
車椅子の方への対応も可能ですね。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
BEVが今後、スライドドアだったり、床下にバッテリーを積むことで床が平らな車を作れれば、車椅子を使っている方など、障害のある方が一人で出かけられるようになります。体が不自由になってくる高齢者ももちろん対象です。
今まで自動車は、福祉車両などはありますが、基本的には健常者のための乗り物でした。運転手が必要だったからです。しかし電気自動車の技術を応用してフルセルフドライビングになっていけば、運転手が不要になるので、まさに万人のクルマになって、障害があったり高齢になっても、移動面で自立できます。
例えば親兄弟であっても「一緒にどこか行ってくれる?」「ここ行きたいんだけど、運転してよ」と言いにくいときがあります、家族同士でも気兼ねするときがあるじゃないですか。でも、スマートフォンさえ使えれば、UberやGOのように簡単にスマートフォンで呼べて、無人のタクシーが電気自動車で来てくれる世界になります。
近距離の利用でも無人だったら運転手への遠慮や気苦労をする必要がありませんし、リーズナブルな値段だったらどんどん利用したくなる。これこそが、私はBEVの未来だと思っています。
所有から利用へ:資源問題も同時に解決
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【外部ライター】KY
カーシェアリングの発展についてはいかがですか。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
バッテリーには希少金属が使われていますし、モーターにも希少金属が使われています。リン酸鉄は別ですが、現在世界に16億台ともいわれる自動車を全てBEVにするのは、資源的には難しいかもしれません。
しかし、自動運転タクシーが増えて、クルマが所有するものから使うものに変わっていって、24時間稼働してくれたら、世界を走っているクルマの3分の1や4分の1の台数でも、誰も不自由しないかもしれません。そうすると資源問題も解決するし、もっと快適になるし、気兼ねしないでどこにでも行ける。老若男女、障害者も区別なく万人が利用できます。
これこそが、私はBEVの未来であり、テスラがフルセルフドライビングに一生懸命取り組んで目指している、究極のゴールだと思っています。
EUの内燃機関規制撤回:実態は「先延ばし程度」
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【外部ライター】KY
EUが内燃機関車の全面禁止方針を撤回したことについてはいかがですか。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
法的なことや詳細な経緯を常に追っているわけではありませんが、年月の縛りを一時的に緩めた程度かなと思っています。
ヨーロッパの海外ドラマを見ると、ほとんどの主人公や周りの人が乗っているクルマはディーゼル車です。なぜかというと、うるさくて振動もあるのですが、加速が良く、燃費が良いからです。加速の良さと燃費の良さ、長距離無給油で乗れるという合理性で、ヨーロッパ人は大型車も小型車もディーゼル車に乗ってきました。
しかし2015年のフォルクスワーゲンのディーゼル排ガス偽装問題以降、ヨーロッパでは「もうディーゼルはダメ」という世論が支配的になっています。その代替としてBEVということですから、BEVも10%や20%まで普及が進んでいます。
それだけの人がBEVに乗り出すと、軽油よりさらに安い電気代で済むことがわかります。彼らがディーゼルに乗ってきた理由の一つが燃料代の節約でしたから、燃料代が4分の1になるならBEVの方がよほど良いわけです。
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【外部ライター】KY
ヨーロッパの充電環境の優位性は?
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
もう一つ重要なのは、ヨーロッパは急速充電と普通充電を一つの充電口でできるシステムを導入していることです。なぜこれが可能かというと、彼らは路上駐車OKだからです。
パリの街で前後のクルマのバンパー同士をぶつけるようにして縦列駐車している光景は有名ですが、あれがパリに限らずフランス全土、さらにはドイツ、イタリアなど、ヨーロッパどこでも日常なのです。
そういう中で路上にクルマが停められるなら、路上に充電器があればいいわけです。マンションに充電器がなくても、マンション前の路上駐車場所にパーキングメーター的に充電器があれば解決します。自治体がそこへ投資すれば、言わずもがなでEVは日本よりもよほど普及しやすい環境にあります。
10年後のBEV市場:若い世代が創る新たな価値観
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【外部ライター】KY
10年後のBEV市場をどう展望されますか。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
私は5年ほど前から「10年後には市場が変わる」と言い続けてきました。理由は、現在の20代、30代の人たちが10年後には30代、40代になって、中心購買層になり、会社運営の中心人物になっていくからです。
そういう人たちが企画し、ものづくりをし、社会を作っていく時には、クルマへの見方も、クルマに求めるものも変わっていくと思っています。
私たちの世代のクルマは「買ってなんぼ」「ドイツ車がすごい、アメ車がいい」といった感覚でしたが、彼らはそういう感覚とは違うところでクルマを見ているように感じます。ファッションにしても食事にしても、私たちの世代とは異なる買い物の仕方、暮らしにおける喜びの感じ方をしています。
そういう人たちがいよいよ社会の中心になっていくので、変わっていくと思います。変わっていく時のために、BEVの価値──フルセルフドライビングも含め、基礎充電という200V充電をみんなができるような環境づくりは、我々の世代が今、次の10年後の彼らのために土台づくりをしなければならないと思っています。
購入検討者への現実的アドバイス
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【外部ライター】KY
BEVの購入を検討している方にアドバイスをお願いします。
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御堀直嗣(みほり・なおつぐ)
これは残念な言い方になりますが、日本においては家で充電できるということが前提条件になります。充電施設について、マンションの管理組合や月極駐車場のオーナーの認識がなかなか高まりません。
日本自動車工業会や日本自動車輸入組合などの大きな団体が、国産車・輸入車を問わず共同でキャンペーンを行い、BEVの価値を正しく伝えることが必要です。さらに政治や行政に対し、マンションには新築・既築を問わず充電器設置を最低限1個は義務化するような法律制定を働きかけるべきです。
なぜそこまでしなければならないかというと、クルマを万人の便利な乗り物にするためです。『安くて性能も良いからBEVに乗った方がいい』と言っても、急速充電器まで行かないと充電できないという状態のままでは、日本でのEV普及は非常に厳しいでしょう。
まとめ
御堀氏へのインタビューを通じて浮き彫りになったのは、日本のBEV市場が抱える構造的課題と、同時にBEVが秘める社会変革の巨大なポテンシャルです。フルセルフドライビング技術が実装されても、日本社会が受け入れる用意をしていなければ、クルマが万人のために便利な乗り物になりません。一朝一夕で実現できることでないので、まずは一人ひとりがBEVの良さを知るところから地道に進めていく必要がありそうです。