自動車情報メディア「CORISM」の大岡編集長が語る! ダイハツ ムーヴ(LA850系)試乗記〜「ムーヴ」らしさを求めた開発中のデザイン変更は正解だったのか?〜
ダイハツ ムーヴが約11年振りにフルモデルチェンジした。新型ムーヴ(LA850系)はこのフルモデルチェンジにより7代目となったが、ダイハツにとっては認証不正問題の後に途絶えていた約3年振りの新型車となる。まさに今後のダイハツを左右するであろう7代目新型ムーヴはどのように進化したのか?今回はその試乗記をお届けする。
自動車情報メディア「CORISM」編集長
目次
起死回生を担う新型ムーヴ
ダイハツの2014年度軽四輪車シェアは、スズキとのシェア争いに勝利し31.6%と、軽ナンバー1シェアを誇った。しかし、認証不正後となる2024年度のシェアは26.6%となり大幅にシェアを失っている。
ダイハツのシェアを軽乗用に絞ると、シェアはさらに下がり23.1%となっている。ダイハツが大きくシェアを落とした分、大きく伸ばしているのがスズキで、シェアは36.7%。大差がついてしまった。さらに、ホンダのシェアは20.5%と、大幅に伸ばすことができなかったが、ダイハツがシェアを落としたことにより、その差がイッキに縮まった。ホンダにとっては、軽乗用シェア2位の座が見えてきた状況だ。
この7代目新型ムーヴ(LA850系)は、大きく傷ついた信頼とシェアを取り戻すために重要なモデルとなる。
両側スライドドアとなった新型ムーヴ
軽自動車マーケットは、タントやN-BOXといったスーパーハイト系が人気で約50%を占めている。その魅力は、やはり両側スライドドアと高さ由来の広い室内スペースだ。その次に人気なのが、タントやワゴンRといったハイト系。この2タイプで軽自動車の約80%占めている。
2016年頃までは、スーパーハイト系とハイト系の違いは、全高の違いと両側スライドドアの有無にあった。スーパーハイト系は全車両側スライドドアで、ヒンジ式ドアのモデルは無い。ハイト系は、ヒンジ式ドアのみだった。
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【自動車のプロ】大岡智彦
ところが、こうした分かりやすいバランスを崩したモデルが登場した。
それが、ムーヴキャンバス。
ハイト系に両側スライドドアを装備した初のモデルだ。当時、ハイト系は価格競争力が重要と言われていて、価格が高くなる両側スライドドアを装備しても売れないという考え方が主流。
しかし、こうした考え方に反して登場したムーヴキャンバスは、大ヒットとは言えないものの、販売台数面は好調。ハイト系両側スライドドアモデルは売れない、という考え方が間違っていたことを証明したのだ。そして、やや遅れ2021年にワゴンRスマイルを投入し追随することになる。
そんな中、ダイハツは新型ムーヴで、更なる一石を投じた。なんと、ハイト系の本流であるムーヴを両側スライドドアのみとしたのだ。正直、これには驚いた。ムーヴキャンバスがあるのだから、ムーヴは従来のヒンジ式ドアにして、価格重視系顧客の受け皿にすればいいと思っているからだ。

ダイハツによると、ムーヴキャンバスに続き、ワゴンRスマイルも投入されたことで、軽自動車の約60%がスライドドア車になり、今後、スライドドア比率は高くなるとのこと。さらに、新型ムーヴの顧客層は、若年層と子育層が主流だったが、現在は子離層の比率が主流になるなど、顧客層がまったく変わったことも理由のひとつだという。
こうした子離層は、多くの消費カルチャーをけん引してきた目利きの世代。特に、商品価値とコストのバランスに厳しい相場観をもつ「メリハリ堅実層」だとして、利便性に加え、安全・安心な乗り降りが好評なスライドドアは、必須アイテムとしたという。そのため、ヒンジ式ドアモデルは設定しなかったという。このように、新型ムーヴが両側スライドドア車のみの設定になったのは、緻密なマーケティングと大胆な決断にあった。
新型ムーヴのスペックを比較する
スライドドア車のメリットは、十分に理解できるが、デメリットもある。ムーヴのライバル車であるハイト系ヒンジドア車の代名詞ともいえるスズキ ワゴンRと比較してみた。
| メーカー | ダイハツ | スズキ |
|---|---|---|
| 車種 | ムーヴ | ワゴンR |
| 代表グレード | ムーヴG(FF) | ワゴンR ハイブリッドFX-S(FF) |
| 全長 | 3,395mm | 3,395mm |
| 全幅 | 1,475mm | 1,475mm× |
| 全高 | 1,655mm | 1,650mm |
| 車両重量 | 860kg | 770kg |
| 最高出力 | 52ps (38kW) | 49ps (36kW) |
| 最大トルク | 60N・m(6.1)kgf-m | 58N・m(5.9)kgf-m |
| 燃費(WLTCモード) | 22.6㎞/L | 25.2㎞/L |
| 新車価格 | 1,716,000円 | 1,463,000円 |
両車、ハイト系軽自動車ということもあり、ボディサイズはほぼ同じ。エンジン出力は、やや新型ムーヴが上回るが、ワゴンRにはマイルドハイブリッドシステムが装備されているので、ほぼ同等と思っていいだろう。
大きく違うのが、車重。新型ムーヴは、90㎏も重い。660㏄と小さなエンジンを搭載する軽自動車にとって、重さはマイナス要因。加速性能や燃費悪化などにダイレクトに結びつく。
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【自動車のプロ】大岡智彦
その結果、ワゴンRに対して新型ムーヴの燃費は、約10%も燃費が悪くなっている。ワゴンRマイルドハイブリッドシステムを搭載しているとはいえ、2.6㎞/Lの差は大きい。
ザックリ言えば、新型ムーヴは両側スライドドアで優れた利便性を得た代わりに、燃費と加速性能を捨てたといえる。
また、装備が異なるので単純比較はできないが、両側スライドドアは、高コストになるため、新型ムーヴの車両価格はワゴンRに比べて高めだ。
これは、どちらが良いとか悪いとかという話ではない。購入時に、何を優先するかで選択肢が変るということを表している。
開発途中で、デザイン変更! その訳とは?

新型ムーヴのデザインコンセプト「ムーヴらしい“動く姿が美しい”端正で凛々しいデザイン」。このモデルから、人気グレード「カスタム」が無くなった。カスタムという軽自動車のトレンドを生み出したダイハツが、カスタムから撤退。これも、ムーヴの顧客層が子離層へシフトしたことが原因。二つのグレードを造るというのも、コスト高につながることもカスタム廃止の理由でもある。

新型カスタムのデザインは、従来のカスタムに近いスポーティな精悍系。カスタムにあったギラギラ感は抑えられ、ちょっと大人な雰囲気にまとめられている。
インパネは、流行りの水平基調でワイドさを強調したデザイン。ちょっとコッテリ系の先代ムーヴと比べると、シンプルで大人っぽい。これも、子離層を意識した結果だ。また、質感も上々。落ち着いた色合いや素材で「仕立ての良さ」を表現したという。
新型ムーヴは、プラットフォームやエンジン、ミッションなど多くの部分をムーヴキャンバスと共通となっている。一般的に、こうしたモデルを開発する場合、外板パネル部分などを変更するスキンチェンジとなるケースが多い。新型ムーヴも開発当初は、こうした手法でコストを抑えるようにしていたという。
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【自動車のプロ】大岡智彦
ところが、開発が進むにつれて大きな問題が顕在化した。その問題とは「ムーヴに見えない」だった。

そこで、開発陣は経営層にデザイン変更を上申。経営層も「ムーヴに見えないね」とのことで、デザイン変更を承認したという。その結果、グッと立っていたAピラーを傾斜させ、従来のムーヴのシルエットを目指し、新型ムーヴが完成した。
ただ、Aピラーを傾斜させるだけかと思いがちだが、ピラーの形状を変更すると、衝突安全などの数値変わる。これは、とても重要なことで、周辺を再設計する必要があるからだ。こうした手間と開発陣のこだわりにより生まれた新型ムーヴは、しっかりと歴代ムーヴらしさを残している。
そろそろ、電動化しませんか?

前述した通り、新型ムーヴのプラットフォームとパワートレインなどは、2022年発売されたムーヴキャンバスと共通。プラットフォームは、DNGA(ダイハツ・ニュー・グローバル・アーキテクチャ)により軽量高剛性を実現した。
エンジンは、660㏄のKF型直3DOHC自然吸気エンジンとターボエンジンの2タイプを設定。自然吸気エンジンは52㎰&60Nm、ターボエンジンは64㎰&100Nmというスペックだ。
ミッションは、全車CVT。ターボ車にのみ、スプリットギヤを採用したD-CVTを採用した。このD-CVTはワイドな変速比幅により、より効率的で低燃費化が可能。さらに、ダイレクトはフィールがウリで運転の楽しさをアシストする。
そして、新型ムーヴの燃費。自然吸気エンジンの燃費が22.6㎞/L(FF、WLTCモード)。ターボエンジンが21.5㎞/L(FF、WLTCモード)という燃費になった。両側スライドドアによる車重増により、ハイト系としてはやや燃費値は物足りなくなっている。
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【自動車のプロ】大岡智彦
また、ダイハツは、良品廉価にこだわるメーカー。そのため、マイルドハイブリッドシステムなどの電動化技術搭載は見送られている。ただ、軽自動車も電動化が進み、軽BEVである日産サクラの好調であることや、中国のBYDが軽EVを日本に投入すると発表している。こうした状況下だと、ダイハツもそろそろ電動化モデル必要じゃないですか? と、思ってしまう。
ハイト系ナンバー1の乗り心地!
最初に試乗したのは、自然吸気エンジンを搭載した新型ムーヴの中間グレードになるXで、お値段は1,490,500円だ。残念ながら、このXグレードと上級グレードG共に、右側パワースライドドアはオプション。後席の荷物を取り出すために、大きなスライドドアを手動で開け閉めするのは、ちょっと面倒だった。
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【自動車のプロ】大岡智彦
多くの消費カルチャーをけん引してきた目利きの世代がメインターゲットというのであれば、右側パワースライドアくらい廉価グレードを除き標準装備化して欲しいところだ。

そして、運転席に座ると、シート表皮の質感が良いことに気付く。インパネ周りも、従来のカスタムあったギラギラ感は姿を消している。過剰な加飾はなく、とてもシンプル。シンプルだからといって、質感が低いわけではないので好感がもてる。そして、あえて傾斜させたAピラーまわりの視界も良好で見切りもよい。なんか、運転しやすそう。そう感じさせる視界だ。
まずは、都心の一般道を走行。アクセル操作に対しての加速感は、相変わらずリニアではなかった。少しのアクセル操作でも、スロットルがガバっと開き気味になり、想定以上の加速を始める。渋滞路では、よほど繊細にアクセルコントロールしないとギクシャクする。まぁ、多くの軽自動車がこんな感じなので、我慢するしかない。

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【自動車のプロ】大岡智彦
ハンドリングは、なかなか秀逸。それほどスポーティという印象は無いが、ステアリング操作に対して、しっかり反応。イメージ通りにカーブを軽快に抜けていく。大きくロールした状態でも、安定感があって安心して走れる。
ダイハツは、柔らかめな仕様とし乗り心地重視のムーヴキャンバスに対して、新型ムーヴでは軽快感と操縦安定性を高めるサスペンションセッティングにしたという。しかし、むしろムーヴキャンバスより揺れの収まりも良く、乗り心地は良好に感じた。カーブでの操縦安定性と快適な乗り心地の両立は、なかなか難しい。エンジニアによると、ムーヴキャンバスでの知見が生かされているのだという。
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【自動車のプロ】大岡智彦
個人的には、ハイト系軽自動車ナンバー1の乗り心地だと思う。
ただ、高速道路など速度域が高いと、ロールスピードが早くなったり、ステアリング操作に対する曖昧さを感じることがあった。乗り心地は高いレベルにあるので、もっと操縦安定性を重視した方向にしたらいいのではと思う。
ちょっと非力な自然吸気車。余裕ある走りが楽しめるターボ車

街中での走行では、60㎞/h程度までなら、とくに不満はなかった。だが、レインボーブリッジに合流する急な首都高の登坂などでは、もはや全開走行でないと周囲の速度に合わせることができない。やはり、両側スライドドアを装備し車重が重くなったこともあり、ヒンジドアのワゴンRなどと比べると、ちょっと非力感があった。こうした部分は、両側スライドドアで得た利便性とトレードオフの関係になる。
そして、次に試乗したのは、64㎰&100Nmを発揮するターボエンジンを搭載したRS。このグレードは、新型ムーヴで唯一165/55R15タイヤ&ホイールを標準装備。より高性能なRS専用ショックアブソーバーを装着している。
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【自動車のプロ】大岡智彦
街中では、アクセルの踏み込み加減に慣れが必要。低速域では、あまりターボの過給がされないため、やや緩慢な走り。グッとアクセル強めに踏み込むと、途端にターボが過給を始めてグイグイ加速。ターボの過給がスイッチを入れるように始まるので、スムースに走れるようになるには時間がかかった。ダイハツのターボ車は、こういう制御になっているケースが多い。
ターボエンジンの最大トルクは100Nm。これくらいあると、両側スライドドアで少し重くなっている新型ムーヴだが、ほとんどのシーンで非力感は無かった。高速の合流も急勾配の登坂も力強く走る。高速道路では、D-CVTのメリットである幅広い変速比により、クルージングにはエンジンの回転が低く抑えられていて、自然吸気車より静粛性も高かった。
また、カーブではロールスピードがやや抑えられていて、より気持ちよく曲がる。少し硬めの乗り味なのだが、低速域での乗り心地もよい。後述するが、装備類も含め気持ち良いハンドリングや快適な乗り心地、力強さなどターボ車が最も新型ムーヴにピッタリなグレードだとう思う。
新型ムーヴのグレード選び。不満のない走行性能と優れたコスパの「RS」

新型ムーヴのグレードは、自然吸気エンジン車がエントリーグレードのL、中間グレードのX、上級グレードのGの3グレード構成。ターボエンジン車が、RSの1グレー設定で計4グレードとなっている。それぞれのグレードに、4WDが選択可能だ。
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【自動車のプロ】大岡智彦
前述した通り、お勧めはパワフルで専用サスペンション装着車である「RS」。ターボ車は、燃費が悪いので敬遠されがちとだという。燃費が悪いといっても、自然吸気エンジンに対して燃費差は1.1㎞/L(FF,WLTCモード)と小さいので、それほど気にすることはないだろう。
さらにRSグレードをお勧めする理由は、充実した装備だ。RSグレードは、GとXにオプションだった両側パワースライドドアが標準装備されている。さらに、純正ナビ装着用アップグレードパック、15インチアルミホイール、スポーティサスペンション、全車速追従機能付ACC(アダプティブクルーズコントロール)、LKC(レーンキープコントロール)、CTA(コーナリングトレースアシスト)、D-CVTなどが標準装備されている。
これほどの装備がプラスされて、RSグレードとGグレードの価格差は、約18万円と少ない。Gグレードに上記の装備などをプラスすると、もはやRSグレードに近い価格になってしまう。こうなると、ターボエンジンやD-CVTが採用されているRSグレードは、むしろお買い得といえるだろう。
予算重視でもGグレードがお勧めな訳とは?
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【自動車のプロ】大岡智彦
予算重視で新型ムーヴを選ぶ場合、いかにオプションを選択しないかという点がポイント。それでも、やはり上級のGグレードを選択したい。XとLグレードでは、今時ちょっと残念な気持ちになる足踏み式パーキングブレーキになる。もはや、軽自動車も電制パーキングブレーキが定番なので、足踏み式はテンションが下がる。足踏み式でもOKならば、オプションを最低限に控える選択がお勧め。
Gグレードでも、必須オプションと言えるのが、9インチスマホ連携ディスプレイオーディオ(104,500円)、右側パワースライドドア(55,000円)。この二つのオプションだけで、プラス約16万円。新車価格は、比較的リーズナブルなように見えるが、オプションを選択するとあっと言う間に、計200万円の車両価格になる。両側スライドドアドア車なので、安価なクルマではない。
新型ダイハツ ムーヴ(LA850系)新車価格、燃費、ボディサイズなどスペック
新型ダイハツ ムーヴ(LA850系)新車価格
| L | X | G | RS |
|---|---|---|---|
| FF | FF | FF | FF |
| 1,358,500円/4WD | 1,490,500円/4WD | 1,716,000円/4WD | 1,897,500円/4WD |
| 1,485,000円 | 1,617,000円 | 1,842,500円 | 2,024,000円 |
| 代表グレード | ムーヴG |
|---|---|
| ボディサイズ | 全長3,395mm×全幅1,475mm×全高1,655mm |
| ホイールベース | 2,460mm |
| トレッド(前/後) | 1,300mm/1,295mm |
| 最低地上高 | 150mm |
| 車両重量 | 860kg |
| エンジン型式・タイプ | KF型 直3DOHC |
| 総排気量 | 658cc |
| 最高出力 | 38kW(52ps)/6,900rpm |
| 最大トルク | 60N・m(6.1)kgf-m/3,600rpm |
| 燃費(WLTCモード) | 22.6㎞/L |
| 駆動方式 | FF(前輪駆動) |
| ミッション | CVT |
| サスペンション | 前:ストラット、後:トーションビーム式 |
| タイヤサイズ | 155/65R14 |
| 最小回転半径 | 4.4m |
