CORISM編集長とリセバ総研所長のクルマ放談:2025年7月(中編)各社ハイブリッド車事情

自動車業界で日々生まれる様々なトピックスについて、リセバ総研の“ご意見番”であり日本カー・オブ・ザ・イヤーの運営にも関わっている自動車webサイトCORISM編集長の大岡智彦と、リセバ総研所長の床尾一法の二人が本音で語り合う「クルマ放談」。第1回となる今回は、今年の春以降の自動車業界に関する話題や、新車発表が相次ぐ自動車メーカーの動向を中心に語り合いました。中編では、日本の自動車メーカーのEVシフトを巡る状況やハイブリッドカーの戦略について、2人の本音トークを聞いてみましょう。

自動車情報メディア「CORISM」編集長

リセールバリュー総合研究所 管理運営者
日本の自動車メーカーのEVシフトは今後どうなる?
当記事における発言内容は、床尾一法と大岡智彦の個人的な主観・考察によって構成されています。公式の見解ではございませんのでご注意ください。
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リセバ総研所長 床尾一法
そういえば、最近ホンダのEVシフトが表向きは若干トーンダウンしたように感じているんですが、実際のところはどうなんでしょう?
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【自動車のプロ】大岡智彦
(トーンダウン)してると思いますよ。秋に発売予定の軽乗用EV「N-ONE e:」が先行公開されたところですけど。
例えば、欧州でも将来的に新車販売をすべてEVにするという目標を掲げましたが、実際にはうまくいっていない。
やっぱり「全部EV」という方針には難しさもあると思いますよ。
じゃあハイブリッドを主流にしていくにしても、エンジンでどれだけ効率よく発電ができるかという点が燃費の観点からも重要だから、(EVに求められる)バッテリーのエネルギー効率と(ガソリン車に求められる)エンジンの燃費効率を両軸で開発を進めていかないと難しいという話にはなっているみたいですね。
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リセバ総研所長 床尾一法
他のメーカーも気になるのですが、マツダの動きはどうでしょう?
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【自動車のプロ】大岡智彦
マツダは、おそらくトヨタのハイブリッドシステムの技術供与を受けると思います。
だからハイブリッド車の拡大にシフトしていくんだろうけど、彼らのなかでは新開発した3.3L直列6気筒ディーゼルエンジンもあるので、ハイブリッドと2枚看板にしていくのかなと思いますね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
マツダは将来的にはEVもラインナップしていく構想があるようですが、他社と比較すると電動化が遅れているのは間違いないかなと思いますね。
スバルも同様に電動化は遅れていて、トヨタのハイブリッドシステムを使わざるを得ない。独自にハイブリッドシステムを開発するのにはリスクも伴いますしね。
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リセバ総研所長 床尾一法
スバルといえば、フォレスター。ストロングハイブリッドが売れてますね、長期の納車待ちのようで。
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【自動車のプロ】大岡智彦
もともと、SUBARUのユーザーって「燃費よりも走り!」という指向性が高いのかなと思っていたんだけど、蓋を開けてみたら新車販売の「何そのハイブリッド比率!どういうこと?!」って。どれくらいでしたっけ?
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リセバ総研所長 床尾一法
新型は8割くらいがハイブリッドらしいですね。
この前、リセバ総研「中古車仕入れのプロ〝OKB〟」のインタビューでも話が出てたんですけど、フォレスターは中古車が海外に輸出されているので、フォレスターの中古車そのものが高騰しているんですよね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
フォレスターの中古って元々高いんじゃない?
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リセバ総研所長 床尾一法
リセールバリューは高いですね。海外需要が高くて国内ではあまり在庫が出回らないようで、旧型のフォレスターは仕入れに苦慮すると〝OKB〟も言っていました。
新型のハイブリッドの売れ行き次第では、ハイブリッドを輸出できない地域も出てくるので、新型の中古車は国内に出回りやすくなるかもしれませんが。
そうなってくると、現行フォレスターの輸出ニーズも続く可能性があるので、リセールバリューが高い状態が続く事も考えられますね。
フトコロ事情とハイブリッド車の関係性とは?
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リセバ総研所長 床尾一法
ところで、ウチのクルマは先代のスズキ スペーシアなんですが、乗り方も買い物や近所へのちょい乗りが中心で、ターボでもマイルドハイブリッドってこともあって、ガソリン価格ってあまり気にしてないんです。
もちろんリッター180円とかになると辛いですけど、現状でも満タンで(タンクに残ったガソリンとの差分で)3000円代後半から4000円代ぐらい。
ガソリン価格高騰はやはりハイブリッド車を検討するきっかけになっているんでしょうかね。

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【自動車のプロ】大岡智彦
ハイブリッド車が売れている理由って、そこだと思うんですよね。
ガソリン価格が上がると、燃費がいいクルマに乗らなきゃという意識が高まる。
顕著だったのが、20系プリウス後期のときに経済状況が不安定になってガソリン価格が高騰したことがあったんです。その際に、モデル末期だったにも関わらず20系プリウス後期が飛ぶように売れていって、その後に登場したアクアも、もの凄く売れました。ハイブリッド車が急速に普及しだしたのが、その頃でしたね。
ただ難しいのは、ガソリン車と比較して30万円から40万円高いハイブリッド車を買って、燃費が抑えられた分のガソリン代との差額が釣り合うかどうか。
実際のところ、5万キロ程度の走行だとあまり変わらない。むしろ損しているんじゃないかっていうレベルらしいんですが、買う側の心理としてはランニングコストに割高感を感じてしまうのは嫌なんですよね。
合理的に検討したらガソリン車のほうがトータルコストは安いかもしれないんだけれど、心情的に(ランニングコストが高いのは)許せない。
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リセバ総研所長 床尾一法
確かに、消費者心理なのかもしれませんね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
でも、それこそリセールバリューを考えたらハイブリッド車を選んだほうがいいという考えもある。
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リセバ総研所長 床尾一法
そうですね。
ただ、年式が落ちてくるとガソリン車とハイブリッド車の価格差が縮まることもありますし、輸出需要の高まった車種の場合には、ガソリン車のほうがリセールバリューが高くなるケースもあります。なかなかその辺の“ウリドキ”を見定めないといけませんね。
ところで、スペーシアはエンジンの駆動をモーターがアシストする「マイルドハイブリッド」が搭載されていますが、スズキはフルハイブリッドを導入する見込みはないんでしょうか?

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【自動車のプロ】大岡智彦
ちょっと微妙ですね。
スズキはクルマをなるべく安く作りたいという意向が強い。
ただ、電動モーターをつけるんだったらエンジン要らないんじゃない?とも思うんですよね。日産 サクラのように、軽自動車のEVでいいんじゃないかと。いまの軽自動車のラインナップをEV化していくという方向性のほうがいいのではないのかな。
といっても、まだEV自体が高価で補助金も軽自動車EVの場合には少ないので、価格重視でクルマを選びたい人にはやっぱりマイルドハイブリッドという選択肢がいいのかなと思いますけどね。
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リセバ総研所長 床尾一法
実際、マイルドハイブリッドって、ちょっとしたターボに近い印象で(もともと乗っているスペーシアギアもターボ車ですけど)。
普通の運転シーンでは一般的なガソリン車と変わらないんですが、パワーモードにすると電動アシストが入ってすごくトルクフルでグイグイと走る。

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リセバ総研所長 床尾一法
足回りも好印象で、先日も家族4人乗車で屋根に重い荷物を載せた状態でも、よく走ってくれました。
この積載状態でも、法定速度を守った上で山間部のワインディングロードをパドルシフトを駆使して走ったら、コーナリングが割と楽しいんですよね。もちろん、ハイトワゴンなので重心が高くロールはしますが、スズキのクルマって走りいいなって改めて感じました。
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【自動車のプロ】大岡智彦
ふーん(背の高いクルマにあんまり関心がない)。
ハイブリッド技術の方針にメーカーの違いは出るのか?
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リセバ総研所長 床尾一法
ところで、メーカー各社のハイブリッド技術の特徴を比較して、それぞれの特徴ってどんなところなんでしょうか?
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【自動車のプロ】大岡智彦
トヨタ式のシリーズ・パラレル方式(エンジンとモーターが連携して走る)ハイブリッドは非常によくできていると思いますが、もう成熟しきってしまってこの先これ以上どのように進化するんだろうというイメージですね。
一時期はレスポンスが悪いと言われていましたが今はそんなことはないし、燃費も他社と比較して一歩先を行っている。
一方のホンダはシリーズ式(エンジンで発電してモーターで走る)ハイブリッドというシンプルな形で実装したけど、ホンダの担当者に「ハイブリッドの方式で勝ち負けってあるの?」と聞いたら「それはない」って言ってた。
じゃあ「なんで燃費でトヨタに勝てないのか?」みたいな話をしてみると、「まだまだシリーズ式のほうができることがある」と。
根拠があるのかはわからないけれど、ホンダはとにかくトヨタをライバル視しているからね。ただ、冷静に評価しても、実際にホンダのハイブリッドにはまだまだ技術的な伸びしろはあるのかなとは感じますね。
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リセバ総研所長 床尾一法
ホンダのハイブリッドの開発方針って、トヨタとは考え方が違うんでしょうか?
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【自動車のプロ】大岡智彦
トヨタと同じことはしない。トヨタと違う方式でやりたい。
オレたちはオレたちのやり方でやりたい、トヨタのマネだけはしたくない、という考えが強いみたいに感じますね。
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リセバ総研所長 床尾一法
そういうことなんですね(笑)
ハイブリッド技術ではトヨタがトップを走り続けて、他社が追いかけるという構図だと思いますが、日産のe-POWERはどうでしょう?
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【自動車のプロ】大岡智彦
日産のe-POWERもホンダと同じシリーズ式ハイブリッドなんだけど、ホンダよりもシンプルなのが特徴ですね。
ホンダのハイブリッドは結構手間を掛けていて、例えば高速走行でエンジン負荷が低くなると、モーターを動かすよりもエンジンの出力で走行したほうが燃費がいいシーンがあって、そういう場合にエンジンを動力に直結させる「エンジン直結モード」というのがある。
日産のe-POWERにはこのような技術がないので、高速域で走り続けると速度が上がる方向に対して燃費は落ちてくるんです。
でも街中での走行は全部電気モーターで賄えるので、低速域だとe-POWERの燃費はいいですね。このあたりの特徴は、今後の技術進化でどんどん変わっていくと思います。

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リセバ総研所長 床尾一法
ハイブリッド技術はかなり熟成されてきた印象を持ってるんですが、燃費性能ってまだまだ向上する余地がまだあるんでしょうかね?
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【自動車のプロ】大岡智彦
いや、各社とも燃費性能はどんどん伸ばしてくるんじゃないですか。
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リセバ総研所長 床尾一法
いまよりもさらに燃費がよくなると?
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【自動車のプロ】大岡智彦
日本人って大好きじゃない、制約がある中でちょっとずつちょっとずつ技術を磨いて進化させていくの。
日本のメーカーの凄さって、ひとつの技術を成熟させて、さらに良いものにしていくというところ。
トヨタだって、新しい製品を出すたびに数パーセントでも性能を向上させてきて、どれだけの回数改良を続けてるんだろうと。
1パーセントの改善にものすごく時間を掛けて、その1パーセントを積み重ねていってどんどん技術を良くしていく。エンジニアのこだわりがすごい。
次回、後編に続きます。