自動車情報サイト「CORISM」の大岡編集長に相談してみた 軽自動車とコンパクトカー、日常使いのマイカー選びに最適解はあるのか?(後編)

通勤、通学や日常のお買い物など、普段使いするマイカーを選ぶ際、ダイハツ ムーヴやホンダ N-BOXなどに代表される軽自動車にするのがよいのか、トヨタ ヤリスやホンダ フィットなどに代表されるコンパクトカーがよいのか、悩まれる方も多いのではないでしょうか。実際、近年は軽自動車の品質向上、性能向上、機能拡充により、コンパクトカーに迫る価値を提供。それに伴い価格帯も軽自動車とコンパクトカーで近似してきている状況があります。
そうしたなか、軽自動車とコンパクトカーのどちらを選ぶのがよいのか、リセバ総研の“ご意見番”で日本カー・オブ・ザ・イヤーの運営にも関わっている自動車webサイトCORISM編集長の大岡智彦と語り合ってみました。

自動車情報メディア「CORISM」編集長

ライター
小さい頃からのクルマ好きで、大学生で免許を取ると貯めたバイト代で中古車をすぐに購入。以来、年間数万キロを走り回って無事故を維持していることを密かな誇りにしている。趣味は、ドライブ旅行とモータースポーツ。カメラを持ってサーキットに行くと流し撮りに命を懸ける。一般ドライバーの視点で、カーライフとリセールバリューの「これってどういうこと?」を紐解いていきます。
目次
軽自動車の形って実はみんな一緒?
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【自動車のプロ】大岡智彦
ここまで装備や性能などを基準にしたクルマ選びについて話してきましたが、とはいえデザインが好き、カラーバリエーションが好みといった自分の使い勝手や合理性だけでない要素もクルマ選びでは大切だと思います。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
そうですよね。大ヒットしたスズキ ハスラーやアルトラパンなど、個性的なデザインのクルマも多く選択の幅は広いと思います。

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【自動車のプロ】大岡智彦
消費者の視点ではそう見えますが、実はそれって企業努力によるところが大きいんですよ。
冒頭に話した通り、軽自動車の最大ボディサイズは、道路運送車両法で決められているので、ボディデザインでできることって限られてきます。
例えば、ここは少し絞ったデザインにしようとすると、一方で車内空間が狭くなってしまうので、なかなかできない。結果的に、室内スペースを最大化しようとすると、ボディデザインはどこのメーカーも似たようなシルエットになってしまうんです。だから、ヘッドライトやバンパーの形状を工夫して個性を出したりしている。ボディサイズを最大まで拡げて最大限の室内空間を確保しようとすると、デザインで自由に使える余白ってほとんどないんですよね。そこは軽自動車の結構つらいところです。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
なるほど。クルマの個性はメーカーの創意工夫から生み出されているんですね。確かにヘッドライトやカラーリング、バンパーのデザインなど細かいところで個性を感じていると思います。
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【自動車のプロ】大岡智彦
タイヤのホイールを個性的なものにしたり、テールランプを工夫したり、色々な工夫をしていると思いますね。
スズキ スペーシアやスペーシアカスタム、スペーシアギアなど、同じスペーシアなのに、3つものバリエーションが生まれているのは、その典型的な例かもしれません。軽自動車って、細かいデザインの工夫によってかなり細分化されているじゃないですか。軽自動車の規定サイズが決まっていてできることは限られているのに、車種そのものは派生車種を含めるといっぱいあるわけです。消費者のニーズに合わせて細かく車種を作り分けているのは、軽自動車メーカーのすごいところだと思いますね。

軽自動車に対する最大の懸念「軽って本当に安全なの?」
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【クルマ大好きライター】井口裕右
引き続き軽自動車についてなんですが、最近はどのメーカーもクルマの衝突安全性の向上をアピールしていると思いますが、一方でやはり消費者のなかには「軽自動車って事故ったら危ないのでは?」という懸念を抱いている人も少なくないと思います。そうした軽自動車の安全性って、実際のところどうなのでしょうか。
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【自動車のプロ】大岡智彦
確かに、かつての軽自動車はとにかくコスパを最優先で開発されていた時期がありましたので、そういう時代には安全装備よりも価格を抑えることを重視されていたのかもしれません。しかし、軽自動車の保安基準が変わったり、消費者の安全性へのニーズの高まりなどを受けて、近年は安全装備の充実にも力を入れています。ただ、安全性を高めるとどうしても車両価格が高くなってしまい「軽自動車=コスパがいい」という特徴が打ち消されてしまうので、安全性とコストのバランスはメーカーにとっても大きな課題なのではないでしょうか。ただ、矛盾する課題に真摯に取り組むのが日本のメーカーのよいところなので、軽自動車の安全性が高まっているのは確かだと思います。
一方で、「軽自動車って事故ったら危ない」というお話も、実は本当のお話なんです。これは軽自動車がダメなのではなく物理法則の話で、軽自動車はそもそもサイズ(質量)が小さいので走行時の運動エネルギー量が小さいわけです。そこに軽自動車よりも質量が大きく運動エネルギーも大きい普通乗用車やトラックなどがぶつかったら、結果は想像できると思います。そうした物理法則の前提があるなかで、メーカーはどうすれば乗っている人を守れるかを知恵を出して開発しているのだと思います。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
なるほど。ちなみにコンパクトカーとロールーフの軽自動車を比較して、クルマのボディ剛性に大きな違いなどあるのでしょうか?
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【自動車のプロ】大岡智彦
クルマの大きさや規格が違うので単純な比較はできませんが、軽自動車もコンパクトカーもボディはそのクルマで想定している最大重量に対して保安基準をクリアする強度を確保しています。
例えば、車重が800キロの軽自動車であれば、時速50キロで走行した際に発生する運動エネルギーで物体に衝突するとフロントはどれくらいの損傷が見込まれるか。そこに保安基準が設定されているので、条件をクリアして室内の人を保護できるようにボディを開発している形です。ただボディを強固にすればするほど車重は重くなってしまうので、知恵と工夫を駆使してバランスのよいポイントを探りながら開発しています。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
様々な工夫でクルマの安全を作り出しているんですね。それを踏まえると、そもそも軽自動車でもコンパクトカーでも、自分のクルマより大きいクルマや頑丈なクルマと衝突したら壊れるのは当然といえば当然なんですね。「軽自動車は危ない」というよりも、「衝突事故はどのクルマにとっても危ない」と。
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【自動車のプロ】大岡智彦
そうだね。軽自動車とトラックが衝突するなんて、赤ちゃんがプロレスラーに殴られるようなもので、非常にリスクが大きい。だからこそ、乗っているクルマに関係なくしっかり安全運転をすべきなんですね。
軽自動車の排気量で、快適なドライブは可能なのか?
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【クルマ大好きライター】井口裕右
軽自動車についてもうひとつ。軽自動車って、エンジンの排気量がとても小さいじゃないですか。コンパクトカーは1リッターから1.5リッターが多いですが、軽自動車は660ccしか排気量がありません。そんな小さいエンジンで快適にドライブできるのでしょうか?
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【自動車のプロ】大岡智彦
これも衝突安全の話と一緒で、車重が大きく関わってきますね。同じ660ccのエンジンを載せているクルマでも、車重が700キロのクルマと900キロのクルマでは、エンジンの加速感は全く異なります。軽さこそ走りの軽快感につながるので、キビキビと元気に走る軽自動車を求めているのであれば(ハイトワゴン系やスーパーハイトワゴン系は避けて)車重の軽い軽自動車を探してみるとよいでしょう。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
高速道路を走ることが多い人は意識したほうがよさそうですね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
そうですね。あと高速道路をよく使う人はターボ車を選ぶのもよいでしょう。実は軽自動車のターボ車はノーマル車と比べて価格は10万円から15万円くらい高くなりますが、燃費もそんなに悪化しないんです。街乗り中心の人にとってはこの価格差は結構懸念点だと思いますが、高速をよく使う人にはおすすめですね。

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【自動車のプロ】大岡智彦
あと、高速道路で注意したほうがよいのがスーパーハイトワゴン系のクルマですね。車高が高く横幅が狭い、そして重心も高く車重が軽いため、高速道路を走ると横風にとても影響を受けやすいです。背が高い分だけ風を受ける面が広いので、強い横風が吹くと煽られやすい点に注意が必要です。
コンパクトカーを選びたい人の動機は?
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【クルマ大好きライター】井口裕右
ここまで最近の軽自動車の特徴について色々と質問しながら聞いてきましたが、一方で「やっぱり普通乗用車のコンパクトカーを選びたい」という人の動機はどこにあるのでしょうか?
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【自動車のプロ】大岡智彦
ハッキリと断言はできないけれど、先ほどの安全面の懸念などから「軽自動車は嫌だ」という人もいたりするので、そういう層がコンパクトカーを選びやすいというのはあるかもしれませんね。「あの黄色いナンバーをつけて走るのが嫌だ」という人もいたりするので。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
確かに、軽自動車はナンバープレートが黄色。黄色いナンバープレートをつけた軽自動車は大きいクルマから煽られやすいという噂がありますよね。東京オリンピックに合わせて登場した記念ナンバープレートは軽自動車でも白いプレートなので、大好評だったとか。
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【自動車のプロ】大岡智彦
正直、黄色いナンバーのクルマに劣等感を持っているのって、「クルマはでかいほうが偉い」という価値観なんじゃないかなと思うよ。軽自動車が馬鹿にされる文化もそんな価値観の上に成り立ってるような気がします。本当はそんなことする必要ないのに、クルマのヒエラルキーを勝手に作ってしまっている。アルファードは偉いけど、N-BOXはダメとか。そんなこと絶対にないのにね。ただ、そういう価値観がクルマ選びに影響を与えているのも事実ですね。
だから、軽自動車とコンパクトカーどっちがいい悪いという話ではなく、自分の価値観や実現したいカーライフに合ったクルマを選べばいいのではないかと思いますね。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
そうですよね。軽自動車でもコンパクトカーでも、「自分は好きだからこの1台を選んだんだ」と言えるクルマに出会えるのが一番ハッピーです。
コスパ重視の軽自動車やコンパクトカー、電動化は進むか?
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【クルマ大好きライター】井口裕右
ところで、軽自動車やコンパクトカーのカテゴリーはハイブリッド車もかなり増えてきていますし電気自動車も登場していますが、高価格帯のクルマながらこのセグメントで今後ハイブリッド車や電気自動車の拡大はありうるのでしょうか。
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【自動車のプロ】大岡智彦
コンパクトカーはすでにハイブリッド車が主流で、おそらくこれから軽自動車もハイブリッド化、電動化が進んでくるのではないかと思います。中国のBYDも日本の軽自動車市場にEVで参入すると表明していますし。今後は軽自動車でもハイブリッド車や電気自動車が増えていくのではないでしょうか。
それこそ、先ほどお話した子育てを終えたシニア層=ダウンサイザーの人たちが、小回りの良さや経済性からハイブリッドやEVのコンパクトカーを選ぶというケースも増えていると思います。「小さいクルマでいいけれど、軽自動車はちょっと」という層ですね。

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【自動車のプロ】大岡智彦
ただ、コンパクトカーでもハイブリッドだと新車価格が300万円を超えるモデルもありますし、軽自動車でも上級グレードを選ぶと200万超えですから。「コンパクトカーや軽自動車はコスパがいい」というイメージは、過去のものになりつつあるのかもしれませんね。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
そうですよね。軽自動車でさえ安いとは言えなくなってきているからこそ、軽自動車もコンパクトカーもどういう選び方をすればいいのかが、悩みの種になってしまうのかもしれませんね。
クルマ選びは、自分自身のライフスタイルを軸に考えよう
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【自動車のプロ】大岡智彦
繰り返しになるかもしれませんが、自分のライフスタイルにどれだけ近いクルマかどうかという判断が重要になってくると思いますね。加えて、合理的な納得感が得られないのであれば、デザインやカラーバリエーションなど見た目で気にいるか、所有感が満たせるかという点も考慮することが大事でしょう。スポーツカーと一緒で、そのデザインが好きならば他のマイナス要素も気にしないという選び方ですね。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
今回お話してきて、軽自動車とコンパクトカーを比べてみて「圧倒的にコンパクトカーがいいよね」と言えるほど軽自動車にデメリットがあるわけでもないし、逆にコンパクトカーに軽自動車と比較して負けている点もないことがわかった気がします。
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【自動車のプロ】大岡智彦
大事なのは、「そのクルマをどう使うか」という点なんじゃないかな。高速道路を使ってロングドライブをすることの多い人が軽自動車を買うとちょっとしんどいと思うかもしれませんし、近所の買い物やお出かけにしかクルマを乗らない人が高価なハイブリッドのコンパクトカーを選ぶのはちょっともったいないかもしれない。
規定サイズの差こそあれど、クルマが提供できる価値は非常に似てきているからこそ、違いや特徴を踏まえて自分のライフスタイルに合った選択をするのがいいと思います。