自動車情報サイト「CORISM」の大岡編集長に相談してみた 軽自動車とコンパクトカー、日常使いのマイカー選びに最適解はあるのか?(前編)

通勤、通学や日常のお買い物など、普段使いするマイカーを選ぶ際、ダイハツ ムーヴやホンダ N-BOXなどに代表される軽自動車にするのがよいのか、トヨタ ヤリスやホンダ フィットなどに代表されるコンパクトカーがよいのか、悩まれる方も多いのではないでしょうか。実際、近年は軽自動車の品質向上、性能向上、機能拡充により、コンパクトカーに迫る価値を提供。それに伴い価格帯も軽自動車とコンパクトカーで近似してきている状況があります。
そうしたなか、軽自動車とコンパクトカーのどちらを選ぶのがよいのか、リセバ総研の“ご意見番”で日本カー・オブ・ザ・イヤーの運営にも関わっている自動車webサイトCORISM編集長の大岡智彦と語り合ってみました。

自動車情報メディア「CORISM」編集長

ライター
小さい頃からのクルマ好きで、大学生で免許を取ると貯めたバイト代で中古車をすぐに購入。以来、年間数万キロを走り回って無事故を維持していることを密かな誇りにしている。趣味は、ドライブ旅行とモータースポーツ。カメラを持ってサーキットに行くと流し撮りに命を懸ける。一般ドライバーの視点で、カーライフとリセールバリューの「これってどういうこと?」を紐解いていきます。
価格でコンパクトカーに迫ってきた軽自動車、選ぶ理由とは?
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【クルマ大好きライター】井口裕右
軽自動車もコンパクトカーも最近では多種多様なクルマがあって、消費者目線だと両者の差もなくなってきているのではと感じます。中古車選びを考えたときに、両者の違いをどのように捉えればいいのでしょうか?
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【自動車のプロ】大岡智彦
大きな違いはボディサイズですね。軽自動車は全長3.4メートル以下、全幅1.48メートル以下、全高2メートル以下というサイズ規定があり、メーカー各社は全長と全幅いっぱいまで使ってクルマのボディを作っています。
加えて、高さの違いでスズキ アルトやダイハツ ミライースのような「ロールーフ系」、ダイハツ ムーヴやスズキ ワゴンRのような「ハイトワゴン系」、スズキ スペーシアやホンダ N-BOXのような「スーパーハイトワゴン系」に分類されます。
どの車種も全長と全幅はもう使い切っているので、あとは高さをどこまで確保してクルマの容積を増やすかという展開になっていますね。全高も1.8メールを超える車種もあり、もう限界かなと感じています。

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【クルマ大好きライター】井口裕右
最近の軽自動車が大きく見えるのは、この高さが要因かもれませんね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
そうですね。ただ、全高が高くなっても全幅は1.48メートルのままです。すると何が起きるかというと、車幅は短く高さが伸びていくことで、クルマの重心がどんどん上に上がっているんです。
そこまで全高を上げてどうするの?と思いますが、室内空間は広く感じると思います。ただ、クルマは重心が高くなればなるほど走行時に不安定になります。各メーカーとも、そうした弱点を技術で克服してちゃんと走るクルマに仕上げているのが現状だと思います。
加えて、いまの軽自動車のトレンドがスライドドアですね。先日モデルチェンジしたダイハツ ムーヴもついにスライドドアを採用し、これまで主にスーパーハイトワゴンが採用してきたスライドドアがハイトワゴンにも採用されたわけです。

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【クルマ大好きライター】井口裕右
ただ、ダイハツ ムーヴの新車本体価格は廉価グレードが約135万円、最上位グレードの4WDだと200万円を超えましたね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
おっしゃる通り、最近は軽自動車も価格がどんどん上がっていて、特にスーパーハイトワゴン系だと本体価格が200万円を超える価格帯に入ってきています。普通乗用車のコンパクトカーと価格的には被ってきていて、もはやこれくらいの価格帯になると「軽自動車=セカンドカー」という概念はなくなってきているのではないかと思いますね。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
かつて軽自動車はクルマ移動が必須の地域で日常使いのための2台目に選ばれるクルマというイメージがありましたが、それがもはやファーストカーとして選ばれるようになっているということですね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
そうですね。軽自動車は普通乗用車のコンパクトカーと比べると税金は安いので、そういった維持費のコスパで選ぶという流れもありますし、ヤリスやフィットなどのコンパクトカーはスライドドアではないので、クルマの乗り降りや荷物の積み下ろしで利便性の高いスライドドアがあったほうが便利だよねということで、軽自動車が選ばれることも多いのではないでしょうか。
コンパクトカーでスライドドアというと、スズキ ソリオやトヨタ ルーミーなど選択肢が限られてしまいますね。

各社が狙う「ダウンサイザー」層
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【クルマ大好きライター】井口裕右
これまでは「日常の足」としてサブ的な位置づけだった軽自動車が、しっかりと「選ぶ理由」ができているということですね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
もうひとつのトレンドを挙げると、軽自動車のメーカー各社は「ダウンサイザー」を狙っているのではないかとも感じています。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
「ダウンサイザー」とはどういうことでしょうか??
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【自動車のプロ】大岡智彦
これまではミニバンやSUVなど大型のクルマに乗っていた人たちで、子育てを終えたのをきっかけに軽自動車などの小さいクルマに“ダウンサイズ”して乗り換えていこうという層です。高齢者が多いですね。
仕事をリタイヤして老後のお金を大切に使っていきたいと思ったときに、軽自動車のほうが維持費が抑えられるからいいと思うのですが、そうは言ってもそれまでそれなりのクラスのクルマに乗ってきた人にとっては、装備や質感、使い勝手などは結構重要な要素になってきます。そうした顧客層をターゲットに軽自動車の品質や装備は年々充実しているのではないでしょうか。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
まずは軽自動車のトレンドについて挙げていただきましたが、一方で軽自動車の価値が高まっているなかで普通自動車のコンパクトカーを選ぶ理由はどういった点が挙げられるのでしょうか。
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【自動車のプロ】大岡智彦
大前提として、いま軽自動車で人気が高まっているハイトワゴン系、スーパーハイトワゴン系の軽自動車は一般的な普通自動車のコンパクトカーとボディ形状が全く違うので、一概には比較できないなと感じています。おそらくスライドドアがほしい人はトヨタ ヤリスやホンダ フィット、日産 ノートといったクルマは最初から選択肢に入らないんじゃないかと思うんですよね。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
確かにそうですね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
一方で、コンパクトなクルマでもある程度の大きさは欲しい、高速道路でもしっかり走って欲しいというニーズがあれば、普通自動車のコンパクトカーが選択肢に入ってくるんだと思います。
だから最近の軽自動車のトレンドであるスライドドアを採用したコンパクトカーであるトヨタ ルーミーは大ヒットしたんだと思います。一時期は新車販売ランキングでもベスト3に入るほど売れましたからね。

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【クルマ大好きライター】井口裕右
なるほど。じゃあ、いまのハイトワゴン系、スーパーハイトワゴン系軽自動車の直接的なライバルはホンダ フリードやトヨタ シエンタといったコンパクトミニバンになる・・・ということでしょうか?
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【自動車のプロ】大岡智彦
そうでもないですね。そもそも大きさが全然違いますし、価格もかなりの差があります。やっぱり維持費のコスパって結構重要な要素のようなんですよね。
ただ実際のところ、軽自動車とコンパクトカーの維持費の差って、自動車税くらいなんですよ。任意の自動車保険料が大きく変わるわけでもないし、燃費についてはスライドドアを搭載したスーパーハイトワゴン系の軽自動車は意外と良くない。ハイブリッドのコンパクトカーを買ったほうが燃料費は全然抑えられるわけです。
軽自動車=低燃費はすべてのクルマに当てはまるわけじゃない
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【クルマ大好きライター】井口裕右
軽自動車って燃費がいいイメージがあったのですが、必ずしもそういうわけでもないんですね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
そうなんですよ。主にスーパーハイトワゴン系に搭載されるスライドドアは車両重量を重くしてしまうし、全高が高くなっていることで空気抵抗も大きくなっているので、燃費を良くする要素は一切ないんです。重さと空気抵抗はエンジンの負荷に直結する要素なんですよね。実は、この点は多くの人が誤解しているところで、現在スーパーハイトワゴン系のクルマは非常によく売れていますが、そのなかで「自分のクルマの燃費はいい」と思って乗っている人は多いのではないかと思います。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
私もてっきり最近の軽自動車は燃費がいいものだと勘違いしていました。エンジンの排気量も小さいし、環境性能も向上しているので燃費はよくなっているんだろうなと。
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【自動車のプロ】大岡智彦
でも軽自動車は車重が900キロ程度ともう1トンに迫っているんですよ。排気量660ccのエンジンで重さ900キロのクルマを動かすのってどうなのかなと。エンジンの負荷が大きすぎて逆に燃費は悪化する方向に進んでいるのではないかと感じます。加えて、最近の軽自動車はたくさんの荷物を運べるのが特徴なので、重いものを乗せればクルマはさらに重くなり、動かすためにはアクセルの踏み込み量が大きくなりがち。高回転でエンジンを回すことで更に負荷が高くなって、燃費も悪くなるんです。
これはスーパーハイトワゴン系に限った話で、ダイハツ ミライースやスズキ アルトといったロールーフ系の軽自動車は車重も軽いのでエンジンの負荷も小さく、燃費も悪くないと思います。軽いクルマなので踏み込めば元気に走ってくれると思いますよ。ハイトワゴン系は、スーパーハイトワゴン系とロールーフ系の中間くらいの燃費性能だと思います。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
これは大切なポイントですよね。見た目や装備で選ぶのも大事ですが、軽自動車を燃費性能で選びたい、ある程度しっかりした走行性能を選びたいといったニーズがある場合には、スーパーハイトワゴン系、ハイトワゴン系、ロールーフ系それぞれのメリット、デメリットを踏まえてクルマ選びをするのがよいんですね。

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【自動車のプロ】大岡智彦
そうです。それぞれの特徴を踏まえて選ばないと、乗り始めてから「あれ?」ということになります。燃費を最優先でクルマを探した人がスーパーハイトワゴン系の軽自動車を買ったら後悔するでしょうし、車内空間を重視している人がロールーフ系の軽自動車を買ったらとても狭いと感じるでしょう。予算と燃費、車内空間や使い勝手をどういう優先順位でクルマ選びをするかというのが重要だと思います。
極端な例えですが、社会人になりたての若い人が通勤用に軽自動車を買いました。選んだクルマはスーパーハイトワゴン系ですと。家族もいない、後ろに乗せる人もいなければ載せる荷物もない。車重は重くて空気抵抗は大きくて燃費は悪く、重心も高いから乗りにくい。何を目的にクルマを買ったんですか?という話になっちゃう。そうならないように、自分の用途やニーズをクルマの特徴に照らし合わせていくのがよいのではないかと思います。
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【クルマ大好きライター】井口裕右
デザインなど見た目で選ぶのもありですが、自分自身が何を重視してカーライフを楽しみたいかで選ぶのが重要ですね。
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【自動車のプロ】大岡智彦
そうですね。いまは若手社会人の例を出しましたが、一方でファミリー層にとってはスーパーハイトワゴン系の軽自動車は神のような存在です。
車両の全幅が狭いので駐車場に入れやすいですし、スライドドアならば子どもがドアを開け放って隣のクルマにぶつける心配もありません。また高齢者を乗せる場合にもスライドドアは乗り降りしやすいので便利ですね。こうした価値は燃費より優先されるかもしれません。自分のライフシーンに合わせて選ぶのが最も大事なんだと思いますね。