クルマは“つながる”時代へ──コネクテッドカーの可能性と課題

自動車業界は今、100年に一度の大変革期を迎えています。4つの潮流「Connected(コネクテッド)」「Autonomous(自動運転)」「Shared & Services(シェアリング&サービス)」「Electric(電動化)」があり、頭文字をとってCASE(ケース)呼ばれています。今回はその中から、普及が始まっているコネクテッドカーについて取り上げます。

モータージャーナリスト
命を守る通信技術
コネクテッドカーとは、通信機能を持ち、インターネットやクラウドと常時接続されている車のことです。コネクテッドカーは単なる移動手段を超えて、私たちの生活を変えるパートナーへと進化しています。
トヨタの「T-Connect」、日産の「NissanConnect」、ホンダの「Honda CONNECT」、マツダの「マツダコネクト」、スバルの「SUBARU STARLINK」など各自動車メーカーがコネクテッド関連の開発をしていて、すでにコネクテッドカーとして街を走っています。また、経済産業省と国土交通省が「モビリティDX戦略」を2024年に策定し、2025年6月にアップデートしました。このように日本の自動車産業の競争力をさらに高めていくため、官民をあげた取り組みが進んでいます。
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【自動車のプロ】菰田潔
コネクテッドカーの最も重要な機能の一つが、緊急時の安全確保です。日本でも多くの自動車メーカーが「SOSボタン」を採用し、ルームミラー付近の緊急通報ボタンを押すだけで、オペレーターと即座に通話できる車種が増えています。
エアバッグが作動するような重大事故では、ドライバーが意識を失っていても自動的に救急や警察に通報され、正確な位置情報が共有されます。海外では新型車に通信機能を有した自動緊急通報システムの搭載を義務化している国もあり、日本でもさらに普及が進むでしょう。
この機能はドライバーの大きな安心材料となっています。あおり運転などのトラブルに遭遇した場合も、オペレーターを通じて迅速な対応が可能です。技術の進歩が直接的に人命救助につながる、まさに「命を守る仕組み」といえるでしょう。
SDVがもたらす革新と課題
テスラを筆頭に、多くのメーカーが導入を進めている「SDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)」は、納車後も無線アップデートで車の機能や性能を向上させることができる画期的な技術です。運転支援・事故防止・自動運転機能などの技術革新、車内エンターテインメントの充実といった進化をリアルタイムで受け取れるため、車を買い替えることなく価値を高められます。
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【自動車のプロ】菰田潔
しかし、この便利さの裏には新たなリスクも潜んでいます。
サイバーセキュリティの脅威は、コネクテッドカーが直面する最大の課題の一つです。理論上、悪意ある攻撃により特定の車種が一斉に機能停止する可能性も否定できません。また、性能に関わる大幅なアップデートは各国の認証制度に抵触する可能性もあり、メーカーには技術的な信頼性だけでなく、法規制への対応も求められます。
コネクテッドカーが持つ情報の価値と懸念
コネクテッドカーは、車のメンテナンスも大きく変えています。車両の状況をリアルタイムで把握することで、最適なタイミングでのメンテナンスが可能です。遠隔で診断したり、予防的なメンテンスを実施したりすることも技術的には可能なため、故障のリスクを減らせます。
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【自動車のプロ】菰田潔
一方で、位置情報や走行履歴がすべて記録されることによるプライバシーの懸念も無視できません。便利さと引き換えに、個人情報の管理や利用について、ユーザーとメーカーの間で新たな信頼関係の構築やルール作りが必要となっています。
つながる車のもたらす未来
コネクテッドカーは、利便性と安全性を飛躍的に向上させる一方で、セキュリティやプライバシー、整備業界への影響など、新たな課題も生み出しています。重要なのは、これらの技術に振り回されるのではなく、その本質を理解し、自分の価値観やライフスタイルに合った車種選びをすることです。
車両の状態や周囲の道路状況などのデータをセンサーで取得し、ネットワークを介して集積・分析することで、今までになかった価値を生み出すことが期待されています。例えば、台風や地震などにより道路が寸断された場合、通れるかどうかが現場に行かないとわからないですが、コネクテッドにより通過しているクルマの軌跡により判断ができることがあります。他にも、運転状況を把握することで保険料が変動するテレマティクス保険や盗難された場合に車両の位置を追跡するシステムなどが実用化されつつありますし、コネクテッドカーから得られるビッグデータを道路の保守点検や整備といった社会づくりに活かすための研究も進んでいます。
つながることで私たちの命を守り、カーライフだけではなく生活全体を豊かにしてくれる可能性を秘めているコネクテッドカー。その恩恵を最大限に享受しながら、つながることの責任と意味を理解する。それが、これからのカーライフに求められる新たな視点なのかもしれません。